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メグ美農園の収穫祭へようこそ(改訂版)  作者: s_stein & sutasan
第1章 荒れ地の果てに
25/150

25.ついに初収穫です

「コニーリアさん。早口言葉は得意? 例えば、瓜売りのあれ」


「ああ、あれでしょう? 五七五七七で言えば、

 瓜売りが 瓜売りに来て 売り残し 売り売り帰る 瓜売りの声。

 字余りでよければ、全部の頭に瓜をつけて、

 瓜売りが 瓜売りに来て 瓜売り残し 瓜売り売り帰る 瓜売りの声」


 これには恐れ入る。一文が3秒程度。ゲームのキャラの言葉とは思えない。


 実はコニーリアさんの声はゲームの外にいる専属の声優さんが担当していて、こういうプレイヤーの無理難題に答えているに違いない。そう思えてくるほど凄いのだ。


 ここでクラウディアさんが私たちの話に入ってきて「お二人とも、続きを耕してくださいな」の一言でカプラさんとコニーリアさんは耕作を再開した。



「どうじゃ、カボチャを植えてみたが、気に入ってくれたかのう」


 オークさんが左手でカボチャのだという葉を指さし、グルッと丸を書いた。


 初めて見る。これがカボチャ。


 朝顔の葉を何倍も大きくしたような形の葉をしていて、互いに重なり、地面を覆い尽くそうとしている。濃い緑色は、密度の高い葉緑素。わずかな光をも逃すまいとしているようだ。


 その葉の間から、同じ色をしてずっしりとした重さを感じる丸い物が見えている。表面には、少し薄い緑色の筋がいくつかあるが、よく見ると、そこは少しへこんでいる。


(あっ、もう実が()っている!)


「町まで種を買いに行くのに往復2時間、耕すのに2時間、カボチャの実が生るまで20時間なのよ。ちょうど一日。間に合って良かったわね」


 そう言ってクラウディアさんが目を細めた。


「昼には、市場の連中が買い付けに来るはずじゃ。お前さんが立ち会ってもよいが、どうする?」


「オークさんにお任せします!」


 私はその場にしゃがんで、カボチャを触った。


 光を浴びているので、少し温かみがある。コンコンと指の関節で叩いてみる。実が詰まった音がする。持ってみる。ずっしりと重い。


 思わず口元がほころぶ。


(私のカボチャだ。初めての収穫だ)


 撫でていると、カボチャが(いと)おしくなる。頬ずりをしたくなる。


 あんな平べったい薄茶色の種から、こんな濃い緑色のカボチャが出来るなんて信じられない。どこにこんな生命力が備わっているのか。なぜ、ご先祖様とそっくりに再現できるのか。そんな設計図がどこにあるのか。


 遺伝子のなせる技? それとも大自然の神秘?


 私は太陽光を浴びて温かくなった葉を撫で、「ご苦労様」と声をかけて立ち上がり、「ありがとう」と太陽を見上げた。


 すると、今日一日の疲れが吹き飛んだような気がした。


 時が経つのは早いもので、カボチャを見て回ったり、耕しているカプラさんたちと話をしているうちに1時間も経った。現実の世界では0時。もう寝ないと。


「また来ますね」


 私はみんなに声をかけると、四人が私の方を振り向いて手を振った。


「次の野菜も植えておくので、楽しみにしてね」


 クラウディアさんの言葉に、私はなぜか目が潤んでしまった。


(これはゲームよね。……ううん、もちろんそうだけど、それ以上のもの)


 このVRゲームは、何か、自分にとって凄く大切な時間を与えてくれるゲームのように思えてきたのだった。



   ◆◆◆

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