25.ついに初収穫です
「コニーリアさん。早口言葉は得意? 例えば、瓜売りのあれ」
「ああ、あれでしょう? 五七五七七で言えば、
瓜売りが 瓜売りに来て 売り残し 売り売り帰る 瓜売りの声。
字余りでよければ、全部の頭に瓜をつけて、
瓜売りが 瓜売りに来て 瓜売り残し 瓜売り売り帰る 瓜売りの声」
これには恐れ入る。一文が3秒程度。ゲームのキャラの言葉とは思えない。
実はコニーリアさんの声はゲームの外にいる専属の声優さんが担当していて、こういうプレイヤーの無理難題に答えているに違いない。そう思えてくるほど凄いのだ。
ここでクラウディアさんが私たちの話に入ってきて「お二人とも、続きを耕してくださいな」の一言でカプラさんとコニーリアさんは耕作を再開した。
「どうじゃ、カボチャを植えてみたが、気に入ってくれたかのう」
オークさんが左手でカボチャのだという葉を指さし、グルッと丸を書いた。
初めて見る。これがカボチャ。
朝顔の葉を何倍も大きくしたような形の葉をしていて、互いに重なり、地面を覆い尽くそうとしている。濃い緑色は、密度の高い葉緑素。わずかな光をも逃すまいとしているようだ。
その葉の間から、同じ色をしてずっしりとした重さを感じる丸い物が見えている。表面には、少し薄い緑色の筋がいくつかあるが、よく見ると、そこは少しへこんでいる。
(あっ、もう実が生っている!)
「町まで種を買いに行くのに往復2時間、耕すのに2時間、カボチャの実が生るまで20時間なのよ。ちょうど一日。間に合って良かったわね」
そう言ってクラウディアさんが目を細めた。
「昼には、市場の連中が買い付けに来るはずじゃ。お前さんが立ち会ってもよいが、どうする?」
「オークさんにお任せします!」
私はその場にしゃがんで、カボチャを触った。
光を浴びているので、少し温かみがある。コンコンと指の関節で叩いてみる。実が詰まった音がする。持ってみる。ずっしりと重い。
思わず口元がほころぶ。
(私のカボチャだ。初めての収穫だ)
撫でていると、カボチャが愛おしくなる。頬ずりをしたくなる。
あんな平べったい薄茶色の種から、こんな濃い緑色のカボチャが出来るなんて信じられない。どこにこんな生命力が備わっているのか。なぜ、ご先祖様とそっくりに再現できるのか。そんな設計図がどこにあるのか。
遺伝子のなせる技? それとも大自然の神秘?
私は太陽光を浴びて温かくなった葉を撫で、「ご苦労様」と声をかけて立ち上がり、「ありがとう」と太陽を見上げた。
すると、今日一日の疲れが吹き飛んだような気がした。
時が経つのは早いもので、カボチャを見て回ったり、耕しているカプラさんたちと話をしているうちに1時間も経った。現実の世界では0時。もう寝ないと。
「また来ますね」
私はみんなに声をかけると、四人が私の方を振り向いて手を振った。
「次の野菜も植えておくので、楽しみにしてね」
クラウディアさんの言葉に、私はなぜか目が潤んでしまった。
(これはゲームよね。……ううん、もちろんそうだけど、それ以上のもの)
このVRゲームは、何か、自分にとって凄く大切な時間を与えてくれるゲームのように思えてきたのだった。
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