24.新しい従業員
自分が「アール・ドゥ・レペ」で嵐を巻き起こして、大量のアイテムを手にする姿を仲間に驚きの目で見られた後、彼らへの挨拶もそこそこにゲームを抜けた。
ヘッドギアを外した私は右腕で両目を隠し、「やってしまった……」と嘆息して唇を噛む。まだ興奮状態にあって、少々息が荒い。頭の中では、まだ満たされない思いと後悔の念が交錯する。
(気持ちを落ち着かせるには、自然とふれあうしかない……)
今は23時。向こうとの時差は現時点で9時間なので、農園は朝の8時。私は、ヘッドギアをすぐに装着して、マシューズ夫妻に会いに行った。
◆◆◆
コテージの中のお誕生日席に一人で座っていた私は、さっそく席を立ってドアを開けた。二人がきっと外にいて作業をしていると思ったからだ。
降り注ぐ光のシャワーに私は目を細める。少々汗ばむ陽気だ。
夜は少し冷えるが、昼は暖かいを越えて暑い。この寒暖差がおいしい作物を実らせる。
目の前に広がる農地の右側4分の1が、濃い緑の絨毯に覆われていた。もちろん、それは絨毯ではなく植えられた秋野菜の色だ。そのそばにマシューズ夫妻が立っていて、私を見つけて手を振ってくれた。
その時、二人の後ろで鍬を使って地面を耕している山羊とウサギがいることに気づいた。
「誰?」
思わず声を出してしまった私は、大きく手を振って「おはようございます!」と挨拶しながら、夫妻のところへ駆け寄った。遠くから濃い緑色の絨毯に見えたのは、無数の濃い緑色の大きな葉であった。
「ああ、おはよう」「今日も来てくれたのね。ありがとう」
二人の声に、山羊とウサギが振り返った。二人とも作業着を着ていて、額の汗を拭う仕草をしたが、これが実に人間っぽい。このVRゲームは、どうもオーナー以外は全員動物の擬人化で区別をつけているようだ。
オークさんが、後ろを振り向きながら言った。
「そうだ。新しく雇った従業員を紹介しよう。こちらが、山羊のカプラ」
「どーも、はじめましてぇ」
カプラさんは、のんびりした調子の声を出しながら足を揃え、上げた右手を反時計回りに回して、胸に右手を当て頭を下げた。
「こちらは、ウサギのコニーリア」
「はじめまして。あなたがオーナー? こう言っちゃなんだけど、すっごく可愛い♪ 仕事なら私たちに任せて。何でも言ってね。見ているだけでいいから。あっ、もちろん、耕したかったら、やってもいいわよ。今すぐ、やってみる?」
コニーリアさんは快活な声で、もの凄い早口でしゃべり終えると、私の方にグイッと鍬を突き出した。彼女なら、どんな早口言葉でも絶対間違えないだろう。
「あっ、えっと、今日はいいです……」
「今日は? なら、明日はやってみる? 面白いわよ。見ていると単調かも知れないけど、畑仕事はね、耕すのが大事なの。土に空気を入れるの。すると、活力が戻るの。もちろん、肥料もやらないと駄目だけど、耕さない土地の上に肥料をまいても駄目よ。だから、耕すのは基本中の基本中の基本中の基本。ね? やってみる?」
またグイッと鍬を突き出す。これはイエスと答えないと終わらなさそうだ。
「後で……やります」
「後で? 後でって、いつ? ねえ? いつなの? とにかく面白いわよ。グズグズしていると、私たちが全部耕してしまうわよ。ねえ、やってみる?」
まだグイグイッと鍬を突き出してくる。私の答えに即座に反応するのは、AIの実力があってこそだろう。
ここで私はちょっぴり悪戯心が芽生えたので、AIの実力を試してみることにした。想定外の質問をぶつけてみるのだ。