23.やりきれない思いをVRゲームにぶつける
学校の体育の授業中に実技の順番待ちで体育座りをしていると、隣にいた友達のユウが「話できた?」と声をかけてきた。もちろん、例の三人のことだ。
私がちょっと間を置いて残念そうに首を2回振ると、「だよねぇ」と言って前を向く。
「思うんだけど、ガン無視するし、ばっくれる相手に、無理に声をかけなくたっていいんじゃない?」
「そうすると、班行動が……」
「なら、うちらの班とくっつかない? あやめぐを困らせる行動は出来なくなるし」
ありがたい提案だけど、それは結果的に私だけがユウたちの班に引き込まれることになるのは目に見えている。残りの三人はみんなから相手にされず、私たちから離れて各自が好き勝手な単独行動をしている姿が容易に想像できる。
「ありがとう。でも……」
「一人で背負うことないよ。……しっかし、担任も酷な役目をあやめぐに押しつけて平気な顔をしていられるよなぁ。自分があの三人に手を焼いているからってさぁ。教師のやるべき指導を生徒に押しつけんなよ」
ユウのボルテージが急上昇する。こちらを向いている同級生の視線を気にする私は、冷や汗をかく。幸い、例の三人は早退しているので彼女たちに聞かれる心配はないし、告げ口する生徒もいないが、私が賛同している姿を露骨に見せるわけにはいかない。
「先生も事情があるから……」
「職務放棄しているとしか思えないんだけど、そう思わない? まともな生徒にはヒステリックになるし、三人には借りてきた猫だし。おかしいよ、担任」
教師批判にビクッとする。体育の先生が聞き耳を立てていないとも限らないからだ。
でも、内心は同感だ。
私はたまたまクラスで友達が多いだけで、人付き合いを拒否する相手をクラスの輪に溶け込ませる治療用の万能薬ではない。カンフル剤か何かと勘違いされては困るのだ。
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帰宅後もモヤモヤが消えないままヘッドギアを装着し、「アール・ドゥ・レペ」にダイブする。RPGには、やりきれない思いをぶつける相手がいる。それは魔獣だ。
私は女魔法使いノアールの姿を借りて暴れ回る。火炎魔法で炎に包まれた槍をこれでもかと打ち込み、空中に大量の剣を出現させて雨あられのごとくに降らせ、爆裂魔法を連続してお見舞いする。
「ノアール氏。今日はいつもより荒れてますな」「超怖いっす」「ド派手だなぁ」「怖」
「さあ、みんな。ガンガン行くよ!」
いつもは仲間の補佐役だが、今日は自分が先頭に立って獲物を何匹も倒している。経験値はアップするし、アイテムはいくつもドロップする。
でも、フィールドで経験値やアイテムが欲しくてやっているのではない。無性に心が叫びたがっていて、全身で怒りをぶつける相手が欲しいのだ。
敵が斃れて光の粒となって消える場面を見ていても、物足りない。全神経が興奮しているので、体が動けなくなるまで暴れたい衝動に駆られる。私は、その相手を捜し求めてフィールド内を彷徨った。
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