22.VRゲームの世界で飲むおいしいレモネード
1分もしないうちに、クラウディアさんがお盆にピッチャーとグラスを載せてやってきた。表面に模様が浮かび上がったおしゃれなガラスのピッチャーには、黄色に輝くレモネードが入っていて氷とレモンの輪切りが浮かんでいる。
少し真ん中が膨らんだ透明なグラスが私の前とオークさんの前に置かれ、ちょっと汗をかいたピッチャーからレモネードが注ぎ込まれると、氷がカラッと心地よい音を立てて動いた。
クラウディアさんが二人分のグラスに注ぎ終わると、自分の前に私たちより小さめのグラスを置いて、ピッチャーから手酌でグラスに注ごうとするので、私が注いであげた。
持ってみてわかる重量感があるピッチャー。浮かび上がっている模様はブドウの房と葉っぱだった。触れると本当に冷たいし、表面にかいた汗が指を濡らす。ゲームでここまでリアリティを追求するのかと、驚きのあまり体が震えてきた。
細部にわたって、それこそ草の一本一本まで丹念に作り込まれた大地の次は、食器などの小道具だ。本当に恐れ入る。
オークさんたちに今回近づいてわかったことだが、衣服や毛並みが実にリアル。実際に触らせてもらったら感動で声が出ないかも知れない。
見た目だけではなく、触感までも忠実に再現してプレイヤーにこれほどまでの驚きを与えるVRゲームがあるだろうか。
さて、レモネードを一口含んでみる。味は、ベタな食レポでごめんなさい。「おいしい!」の一言に尽きる。
手抜きだと怒られるだろうから頭をひねりにひねってレポをすると、「体の細胞一つ一つにジンワリ、ジュワッと染み込むヘルシーなクエン酸のシャワー!」なんてね。……自分のレポートのヘタさ加減に辟易しました、はい。
私の木の切り方とか草の抜き方とかが笑いのネタになるかと思っていたけど、オークさんもクラウディアさんも、土地をこれからどうしていくかについて聞きたがっていた。
つまり、指示が欲しいのだ。私がいないときは自動で進めてくれるので、方針だけでも欲しいに違いない。
開墾されたと言っても、正確にはまだ田んぼも畑もない。私がそれを具体的に指示していないので、単に土地を切り開いて整地しただけだ。
準備は出来ているから、これから何をするかについて指示が必要なのだ。
「では、畑を作って秋野菜を植えてください。高く売れるなら、何でもいいです」
我ながら、欲丸出しの発言に赤面し、即座に否定する。
「訂正です。おいしい野菜なら、何でもいいです」
「それなら、明日の同じ時間に来たときに収穫できている野菜がいいわね。育ったところをちょうど見て欲しいし」
彼女の提案に一票。いや、十票でもいいです。
「お願いします!」
「そうじゃ。種を買いに行かんとのう。他にも、日用品も少々。これは任せてくれるかのう? 全部一から十まで指示してもらってもよいが」
「お任せします。私がいないときは一切を委任しますので、よろしくお願いします」
私はレモネードを飲み干し、二人に別れを告げた。
終了画面を表示させたが、ボタンをタップする直前で指が止まってしまう。名残惜しい気持ちが指をつかんで離さない。
でも、現実世界に戻ってもう寝ないと。夜中の1時は、とっくに過ぎているし。
私は涙でうっすらと滲む視界の中でボタンを探し、それをタップした。
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