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メグ美農園の収穫祭へようこそ(改訂版)  作者: s_stein & sutasan
第1章 荒れ地の果てに
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2.ゲームでリアルを思い出す

 このゲームで私が演じているのは、紫のとんがり帽子を被って紫のローブを着た、背の高い妖艶な女魔法使い。名前は『ノアール』。


 初めは孤独を愛していた。きっと、それはリアルの反動だったと思う。


 言葉遣いもクールで、自分の性格と正反対の自分を演じ、各地を放浪してはクエストをこなして、スキル上げに夢中になっていた。


 でも、リアルの性格がバーチャルにも染み出してきて、ひとりぼっちがだんだん寂しくなってきた私は、仲間を求めて小さなパーティに所属。ここの居心地が良かったので、もうソロに戻ることはなかった。


 組んでいる仲間は四人いるが、会話を聞いている限り、みんな私より年齢がかなり高めっぽい感じがする。もしかして、私以外は全員会社員、年齢は一回り上の三十代前後かも。



 そんな仲間と毎日楽しくクエストを進めているが、彼らに言いたいことがある。


 マップを移動中の雑談で、ビジネスあるあるとかリアルな昔話を異世界に持ち込んで欲しくないなぁ。なぜって、ビジネスは付いて行けないし、話題によってはこっちだって忘れたいことが一杯あるんだから。そっちは懐かしい思い出かも知れないけど、こっちはリアルタイムな話なんだよ。って言えないけどね、年齢バレるから。


 こんな会話が始まったら、決まって女魔法使いノアールは寡黙を貫き通す。仲間からは、それが真剣に話を聞いているように見えているみたいだけど。



 あるとき、高校時代の思い出話になった。何が話題になるかで、年齢というか世代がバレるときがあるが、今日も彼らは遠い昔話のように語っていて、絶好調にバレている。


 思い出話に花が咲き、移り変わる話題が林間学校になって盛り上がり始めた。


 その時、私は即座に落ちようかと思ったくらいだった。なぜなら、ヘッドギアを被る直前まで気にしていてこのバーチャルな世界で忘れようとしていたイヤなことを思い出したからだ。


 うちの学年でも今度9月半ばに林間学校があるのだが、その班分けが担任の先生の独断で決められてしまったのだ。一つの班は四人。先生は私に、一度も会話をしたことがない三人を割り振った。先生曰く、「ちょっと問題行動のある生徒」なので、当たり障りがないように、ここでは仮名とする。


 一人は、言葉遣いが不良っぽく、授業中に机の上に足を乗せてスマホをいじり、休み時間でもないのに勝手に教室を出て行く(えい)さん(仮名)。


 一人は、クラスの誰とも口を利かず、ノートに黙々とキャラクターなどの絵を描いている(びー)さん(仮名)。


 一人は、無愛想で、休み時間になると必ずヘッドフォンで音楽を聴きながら声を出さずに歌う(しい)さん(仮名)。


 友達は「なぜ、うちらとじゃなく、あの人たちと()()()()が一緒なの?」と頭が疑問符だらけで、担任の先生に決定を覆してもらうため、大挙して職員室まで押しかけた。でも、生徒が先生に説明を求めても拒否され、決定は変わらなかった。


 私には先生の意図がなんとなくわかる。でも、その期待に応える自信はない。


 林間学校が終わったら四人が笑顔になって帰ってくるなんて想像図を思い描いているのだろうけど、私には魔法の絵筆を持ってしても描けない。


 そんなこんなをボーッと考えながら、モンスターが出そうな岩場を仲間の後ろに付いていく形で移動していたら、狩りのワクワク感はどこへやら、急に気分が乗らなくなってきた。


 やる気がだだ下がり。もう最悪だ。


 私は、「ちょっといいかな」とクールな口調で切り出した。


「リンカーン学校で盛り上がっているところ悪いけど、今日は落ちる」


 仲間が一斉に振り返った。「リンカーン学校」って彼らがそう言っていたのを復唱しただけだが。


「ノアール氏も明日の糧を得んといかんですからな」「お疲れっす」「バイなら」「乙」


 パーティの面々に見送られた私は、直ぐさまゲームから抜けた。



   ◆◆◆


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