19.開墾のお手伝いをしてみました
さて、1本の木とその周辺の雑草を取り除くのが私のミッションだ。
まずは木を切り倒すことに挑戦。
オークさんから斧を借りてそれを右肩に担ぎ、まさかり担いだ金太郎を想像しながら胸を張ってノッシノッシと歩く。意外に斧の重量感は再現されていて、重心の位置を上にずらしていくと後ろに落ちそうになったので、慌てて元の位置に戻した。ゲームなのに、ここまで手を抜いていないんだぁと感心する。
私の背丈の2倍はある木の前に到着して、てっぺんを見上げる。木の幹は細いので、真横に一振りでスパッと切れたりして。いや、それは女魔法使いノアールが斧に魔力を注いだのなら出来るかも。
さてどうしようかと思っていると、オークさんが近づいてきた。
「木は日当たりが良い南側に向かって伸びるから、重心は南側にあるんじゃ。普通はそっちに向かって倒す。じゃが、この木は細いから、そこまでせんでも倒したい方向に先に切れ込みを入れればよい。切り込みは斜めじゃ」
なるほど。斜めの切れ込みって、楔みたいな形にね。
倒す方向を決めた後、さっそく斜め上に思い切って斧を振り上げたら、重みで体のバランスが崩れてしまった。ここまでVRゲームで忠実に再現されても困るんですけど。二人に笑われ、こちらも照れ隠しで笑う。
ならばと、バットを振り回す要領で「とりゃあああああっ!」とかけ声勇ましく振ったら、木の幹に斧がガツンと弾かれたので、ジンジンする手を押さえつつ目をぱちくりさせる。
また二人に笑われた。失敗の原因は実に単純。斧の刃ではなく、握り方を間違えて反対側の背を打ち付けたのだ。
うーーーーーっ! むずーい! ……って、私がドジなだけなんですけど。
足を広げて斧を斜めに振り上げ、腕に力を込めて腰の回転を活かし、「むん!」と振ってみた。
ガツッ!
手が痺れて、リアルにジワジワと痛みが伝わる。これも再現しなくていいのに。
見ると、やっと斧の刃が木の幹に食い込んだ。……でも、抜けない。思わず吹きだしてしまう。これは、漫画だ。
何度か振り下ろしているうちに、斧を傾ける角度と力の入れ具合のコツがつかめてきた。斜めにある程度切り込みを入れたら、今度は水平に切り込みを入れる。時間はかかったけど、何とかくさび形の切れ込みが出来て、上から見ると半円状で横から見ると直角三角形になった木の一部が抜けた。
手のひらがジンジンする。というより、脈打つようにズキズキする。でも、心地よい痛みだ。なぜなら、働いた分の達成感があるから。
小休止後、今度は反対側に斜めの切り込みを入れていく。すると、木がメキメキッと音を立てながら傾き始めた。私が大きく二三歩後ろに下がって成り行きを見守る中、木はズシンと音を立て、地面に一度弾んで横たわった。
「やったあああああっ!!」
私は斧を持ったまま、両腕を上げて何度もジャンプした。
出来映えは聞きません。何分かかったかも聞きません。それより、自力で木を切り倒せたことに感激し、一方でこれを短時間にこなしてしまうマシューズ夫婦の力量に改めて驚嘆した。
「さあ、疲れたでしょう。レモネードがあるわよ。ちょっと休憩はどうかしら?」
クラウディアさんが、体を私の方へ向けたままコテージの方を指さす。
「もし、続けて草むしりをするなら、ほれ、わしの手袋を使うとよい」
オークさんが、いつの間にか持っている手袋を私に向かって差し出す。
一瞬迷ってから「はいっ!」と答える私は、オークさんの手袋の方へ手を伸ばした。
なぜなら、一気に仕事を終わらせて、冷たいレモネードで喉を潤し、疲れた体を癒したいから。
なんだか、「アール・ドゥ・レペ」で一緒にプレイする推定アラサーの仲間の行動パターンが私にも浸食してきたみたい。いつもあの人たち、一仕事の後の一杯が最高であると語っているし。ただし、今回私が飲むのはレモネードですけど。