17.クイックモード
ベッドの上で横たわったままの私は、オークさんとクラウディアさんの木を切る姿を思い出し、その後の開墾がどうやって進んでいくのかをあれやこれや思い描いていた。
本当はずっと見ていたかったけど、4時間とか言われると、ずっとはさすがに無理。こっちの世界では朝になってしまう。
ふと時刻が気になって、壁に掛かっている丸い木枠の時計を見ると23時55分だった。ゲームの世界で私が時計を23時30分から午前4時30分に5時間進めたから、あちらは4時55分。
ここで私は考えた。
明日の夜、いつもの「アール・ドゥ・レペ」をプレイして終わるのは23時過ぎ。その後にインすると、ゲームの世界では明け方前の4時過ぎになる。そこから作物を植えたり収穫したりでは、鶏より早い活動だ。それはいくらなんでも困る。
なら、時計をさらに3~4時間進めるべきか?
ふと、みんなはどうしているのだろうと気になって、「農場経営Tファーム物語」の攻略方法についてネットで調べることにした。すると、オークさんが教えてくれなかった設定があることに気づいた。
あのゲームの初期設定は「現実世界と時刻だけではなく、時間の流れも同じ。ただし、作物の生長だけは通常より早い」だったのである。つまり、現実世界の1秒はゲームの世界でも1秒。なぜ、こんな設定があるのかというと、農村の24時間を忠実に再現して、その時間の流れの中で自然に囲まれてスローライフを楽しむため。
でも、それだと野菜が収穫できるまで数ヶ月かかる。ガチでそれを楽しむ人が多ければそれが初期設定になっていたはずだが、さすがにそこだけは現実離れした短い時間に設定変更したようだ。クラウディアさんは、5時間で収穫できると言っていたが、これが半年とかだと、もうゲームではなくなる。
なお、この生育時間も延長できるらしい。ただし、全体の時間をN倍にするという設定で、作物ごとにこのN倍を変更できないが。
なので、半年後に作物が実るように設定出来るのだが、いくら都会の喧噪に疲れた人とか現実逃避したい人でも、ほぼ永遠に選択されないオプション設定だと思う。
私みたいに勉学や部活が忙しい学生や、仕事が忙しい社会人は、基本ゲームに時間をかけたくない。手早く作物を収穫して市場に売って儲ける。時々、同じ時間にインしているオーナーと情報交換とかのコミュが取れればいい。雑談でいいから、楽しく会話が出来ればいい。
ちゃちゃっと楽しめるモードはないのだろうか?
きっとあるはずと思って探していると、そう言う人用のモードがあった。やっぱりね。おかしいと思った。
このモードは「クイックモード」というらしい。こっちがノーマルにしてもよいと思うが。
クイックモードでは、ゲームの1時間が現実世界の8秒になる。
1日が3分12秒。1ヶ月=30日として1時間36分。1年がざっくり19時間28分。これは、450倍の速さだ。
時折、雨が降ったり突風が吹いたりの風水害はあるものの、順調に育った作物は種類によって300分~2000分の間の時間で収穫できる。これを急がせる場合は、クレジットカードで購入したチケットを使って時間を短縮する。
これにクイックモードを組み合わせれば、どんどん収穫できる計算だ。なにせ、ゲームの世界で300分=5時間で収穫できる野菜は現実世界では40秒だが、2時間短縮のチケットを買えば3時間になるので24秒になる。
なお、クイックモードの難点は、時間が早く進むので会話が出来ないこと。VRMMOのゲームなのに、他のオーナーと対面で会話ができないのは痛い。会話をするためには、クイックモードではないオーナー同士が集まらないといけない。ここは将来、何とか改善して欲しいところだ。
市場ではいつでも収穫した作物を売れる。値段は自分で決められず、その時の買い取り値で売却できる。買い取り値は、時間変動があるみたいだ。24時間営業の市場なんて聞いたことはないが、忙しいオーナーにとっては助かると思う。
市場の商店で作物の種や苗木や日用品がいつでも買える。これも嬉しい。
なお、市場にトラックで作物を自分が搬入する場合と、市場の関係者が農場まで来て買い付ける場合の2通りがある。買い付ける場合は手数料を取られるようだが、トラックが買えるまでの間は、後者を頼ることになる。
プレイの基本はこの「クイックモード」になるとして、初期設定のモードも捨てがたい。あのリアリティを見てしまうと、もう一度じっくり見たくなるのだ。
ただ、あまり「クイックモード」ばかりやっているとPCゲームとあまり変わらず、VRゲームである必要がなくなる。やはり、クイックモードは初期設定ではない、と認識を新たにした。
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