16.境界線が確定しました
もうオークさんとクラウディアさんは、何本も木を切り倒した。その早いこと早いこと。疲れの色なんか全く見えない。
私は倒れた木のリアリティを近くで確認しようと歩いていくと、途中で特徴的なことに気づいた。切り倒された木が同じ方向を向いて一直線になっているのだ。
しばらくすると、あるところから二人の移動する方向がそれまでのとは90度傾いてこちらに向かって来るのがわかった。
やっと理解した。二人は、円形の草むらを取り囲む四角形――円の外側に接する四角形に、切った木を並べているのだ。
つまり、農地を正方形にしようとしているのである。
途中で、オークさんが私を手招きするので草を蹴るようにして近づいていくと、額の汗を拭う仕草をしてこう言った。
「見ての通り、正方形の土地を作っているのじゃ」
「ええ、倒れている木の向きを見てなんとなくわかりました。あとどのくらい時間がかかりますか?」
「うーむ……、木を切り倒すのに30分、切った木から柵用の丸太に加工するのに1時間、柵で囲むのに1時間。有刺鉄線はないから木の枝を横木にするだけじゃが、それでよかろう」
「その柵が農地の境界線を示すものですか?」
「もちろんじゃ。まだ周囲は誰も手をつけてはおらん。オーナーの意向次第で、もっと奥まで境界線を広げてもよいが」
プレーヤーが周囲にいないので、土地は開墾し放題なのだろう。欲張るプレーヤーは、自分の農園の経営能力を超えてまで土地を広げるかも知れないが、私はそんな欲張りではない。序盤で広げすぎた農地は、きっと隅々まで手入れが回らず、一部を除いて荒れ放題になるだろう。
「いいえ。まずはこのくらいの農場から始めましょう……って、柵で囲んで終わりじゃないですよね?」
「まだまだじゃ。草を刈らねばならぬ」
「それにはどのくらいかかりますか?」
「4時間はかかるかのう」
「それでは夜が明けてしまいます。いえ、もちろんここの世界ではなく、私のリアルな世界での話ですが」
「なら、これからお前さん、どうするつもりじゃ?
ここはわしらに任せて帰るか、まだ作業を見ているか、時計を早めるか」
時計を早めるのは魅力だ。でも、せっかくなので、木も切ってみたいし草も刈ってみたい。それに、時計を便利に進めていくと、時間がどんどんずれて季節までずれていく。
もちろん、ここは即答だ。
「お任せします。また後で来ます。……そうだ。木と雑草ですが、ほんの少し残しておいてください。私も木を切ってみたいし、雑草取りもやってみたいので」
「よかろう。よい心がけじゃ」
それから二人に別れを告げ、終了画面を表示させてタップし、現実世界に戻った。
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