149.メグ美農園の収穫祭
コテージの裏手に回った私は、両足が地面に張り付いたように動かなくなった。
初めて見る果樹園。湧き上がる感動で全身が震える。
何もなかった畑が、輝く楽園に大きく変貌を遂げ、両手を広げて私を出迎えたのだ。
絶妙な間隔で木が植えられ、木々は横へ大きく枝を広げ、その枝は果物の重みで曲がっている。たわわに実るとはこのことだ。
濃い緑色の葉と色とりどりの実の色のコントラストが、絵画のように美しい。
ちょうど、コニーリアさんが収穫を始めていた。
私を見つけると籠を持ってきて、「ほらっ、見て見て」と傾けた。それは、甘酸っぱい匂いを辺りに漂わせる艶々したリンゴだった。
赤い大きな実は、ヘタの部分に近いところから少し濃い赤色の筋が何本も走っていて模様になっている。リンゴって全てが単一の赤だと思っていたら、品種にもよるのだろうけど、表面に模様が出来ていることを改めて知る。
「他に、桃と栗が収穫できるの。今、奥の方でカプラさんとクラウディアさんとオークさんが取っているわよ」
奥の方をチラッと見ると人影が動いている。いや、動物の影かも知れないけど、私はもう人影でいいと思っている。
木々の中へ飛び込もうとしたが、思いとどまった。
自分だけ先に果樹園のテープカットをするのは悪い気がしたのだ。
(みんなと一緒に見て回ろう)
私は三人の到着を待ちわびた。
実際は5分くらいだったかも知れないが、それが何時間にも思えた頃、コテージの方から複数の走る音が聞こえてきた。
建物の陰から飛び出したのは、エレナさんとテレーザさんだ。
私は何度も跳び上がって両手を振った。彼女たちも満面に笑みを浮かべて手を振り返し、スキップするように走ってきた。
「ねえ、見て見て! ほら、凄いでしょう!」
「「すごーい!!」」
二人は私が指差す果樹園に目を丸くし、感嘆の声を同時に上げた。
また走る音が聞こえてきた。カレンさんだ。
「やったー! 果樹園だー!」
そのまま木々の間に突入しそうな勢いだったが、頭を掻きながら私たちの方へ向きを変えた。
そこへコニーリアさんがリンゴの籠を両手で抱えてやって来た。「ほらっ、見て見て」と傾けると、三人がワーッと歓声を上げた。
続いて、カプラさんが栗の入った籠を、クラウディアさんは桃の入った籠を持ってきた。
「収穫祭みたいね!」
私が思わず跳び上がって喜ぶと、みんなも「そうだね!」「収穫祭だ!」「メグ美農園の収穫祭!」と歓喜の声を上げる。
最後にオークさんがやってきて、「柿はまだじゃ。もう少ししてからじゃ」と笑った。柿まであるとは、これからが楽しみだ。
それから、みんなで果樹園に向かって横一列になり「「「「せーの!」」」」と声を揃えて足を踏み出した。
甘い匂いや酸っぱい匂いが漂う果樹園の中で木々の1本1本を見て回る。みんな重そうに実を付けている。
地中の養分と水分を吸って太陽の光をさんさんと浴びて、あのような大きな果実になるのだから、なんて自然は素晴らしいのだろう。
嬉しくて嬉しくてたまらない。
やはり、ここを果樹園にして良かった。ナイスアイデアだった。