146.久しぶりにメグ美農園に集合した
お誕生日席に座っていた私は、居ても立っても居られず、勢いよくコテージのドアを開けた。
眩しい朝の光を浴びると、現実世界は夜なのに、ゲームの世界では「朝が来たー!」という気分になるから不思議である。
風が土と緑の匂いを乗せて、全身を優しく撫でていく。とっても気持ちいい。
いたいた。オークさんたちが。
元気に手を振っているので、作物が順調に育っているのだろう。
ドキドキしながら、その中に三人の姿を探したが、いなかった。
(そんな、都合良くインしていないわよね)
フーッとため息をついた後、みんなに交じって作物の生育具合を眺めていると、コニーリアさんが「来たわよ」と私に声をかけた。
さっきから心臓が高鳴っているところに、ズキッと大きな鼓動を感じた。でも、なぜか顔を上げることが出来ない。
「来たわよ、従業員が」
体がこわばって動けない。どうしちゃったんだろう。
「ほら、待っていたんでしょう?」
コニーリアさんにポンポンと背中を叩かれたことで呪縛の魔法が解けて、ゆっくり顔を上げた。
テレーザさんだった。
「ご無沙汰しています」
テレーザさんはそう言ってペコペコと頭を下げて、しばらく来なかったことを詫びた。
5分後に現れたのはカレンさんだった。
「お久しぶりです」
カレンさんも丁寧に頭を下げて、いろいろ忙しかったことを理由にした。
あと一人が来ないので、私はテレーザさんとカレンさんと一緒になって、作物を見ているようで、その実コテージの方ばかり見ていた。
今日は体調が優れないのかと諦めかけた頃、コテージのドアが勢いよく開いて両手を振りながらエレナさんが現れた。
「お待たせー!」
私たちは、手をつないで輪になって再開を喜び合った。
「ごめんごめん! いろいろあってさ」
「うんうん、大丈夫」
何があったのかを知っている私は、思わず涙をこぼしそうになった。
それから、私はカレンさんたちに果樹園の構想を伝えた。
カレンさんは大賛成で、「是非お願いします!」と最敬礼のように頭を下げる。
しかし、植えるまでに8時間、それから実を結ぶまで最低で3年間かかるという事実を知らせると、みんなは黙りこくった。
「それで、植え終わってから、3年経過するのを早めるため、クイックモードにしようかと思うの」
すると、エレナさんが顔を上げた。
「今から8時間後に? リアルな時刻では、えっと、3時……半だよ、たぶん」
エレナさんが指で画面を表示させて「うん3時半だ」と頷く。
「そこは相談で……」
「苗木を買いに行くところからクイックモードにすればいいじゃん。つまり、8時間と3年を全部クイックモードにする。8時間なんて8かけ8で64秒だよ。3年から見ればゴミみたいなもの」
(なるほど……)
ゲームの世界では、今は7時半。8時間と3年後は、クイックモードありなし関係なく15時半。
現実世界では、今は木曜日の19時半。クイックモードで8時間と3年後は58時間25分程度に短縮されるから、日曜日の5時55分頃になる。
その時間にゲームにインしてクイックモードを解除すれば、ゲームの世界で15時半に果物の収穫が出来る。時間は後で、ちゃんと計算しよう。
「じゃあ、そうしましょう」
三人は大きく頷いた。その時、エレナさんが痛そうな顔をした。
「悪いけど、ちょっと落ちるわ。ゴメン」
すると、テレーザさんとカレンさんが顔を見合わせ、「私たちも」「しばらくぶりで本調子じゃないので」と言って落ちることになった。
「無理しないでね」
そう言う私に、三人はそれぞれ別れの言葉を残して去って行った。