145.一計を案じる
昼休みの後半に三人それぞれの周りに人だかりが出来て、質問攻めが始まった。その洗礼を受けた彼女たちは少々疲れた様子を見せるも、嬉しさを隠せないでいた。
私はクラスメイトの輪の外から、その様子を頬を緩めて眺め、あえてそこに乗り込むようなことはしなかった。
(ゲームで会えるからいいよね)
そう自分に言い聞かせた私は、その直後、ある重要なことに気づいて背筋に氷のように冷たい物が走った。
(まずい! ゲームの時計を12時間進めたことを、エレナさんたちは知らない! 土曜日のままだと思っているはず!)
つまり、このまま彼女たちが帰宅すると、現実世界とゲームの世界は同じ時刻だから「夜なのでメグ美さんは来ないかな」とゲームにインしないかも知れない。
(さあ、どうしよう……。どうやって伝えよう……)
焦燥感に襲われる私は、午後の授業に手が付かなかった。先生に突然指されて、しどろもどろに答えてみんなに笑われる始末。
放課後が迫ってジリジリと苛立つ私は、脳裏に妙案が浮かんだ。
(そうだ! その手で行こう!)
伝えるなら一度に伝えたい。幸い、美さんは一番左の窓側の列で後ろから2つ目、英さんは美さんの右斜め後ろ、椎さんは英さんの右斜め前で、英さんに向かって話をすれば両サイドの二人が聞き耳を立てるはずだ。
放課後、私は立ち上がろうとしている英さんに近づいて声をかけた。
「帰ったらゲームが楽しみね」
「おお、そうだね」
松葉杖を握った英さんは、ニッコリ笑う。私は、両側から美さんと椎さんの視線を感じた。
「私もゲームやるんだ。あっ、そうだ。時刻が12時間ずれているから、えっとぉ……19時にインをすればゲームは7時だな。うん、ちょうどいい頃だ。うんうん」
一人納得する私に、後ろからユウが「何言ってんだか」と声をかけて後頭部を小突かれた。
「英さんに関係ないだろうが」
(あるんですぅ、それが)
私はペロッと舌を出し、「気をつけて帰ってね。校門まで見送ろうか?」と英さん、美さん、椎さんの順に顔を向ける。
「いいって、いいって。大袈裟だから」
そう言って笑う英さんだったが、結局、部活に急ぐ生徒と掃除当番を除いて、全員が校門まで見送った。
三人は照れ笑いをしながらみんなと校門まで歩き、別れを告げて去って行った。彼女たちは一度振り返った。私たちは手を振り続けていた。
それから私は速攻で家に帰り、宿題をサクッと終わらせメールも返信し、夕食も手早く済ませて部屋に急いで戻り、ベッドの上で体を弾ませる。
時刻は19時。ゲームの世界は朝の7時だ。
さあ、エレナさん、テレーザさん、カレンさんはやって来るだろうか。
体が痛くて来られない可能性もあるが、まずは行ってみよう。19時と言ってしまった手前、私が遅刻するのは悪いし。
深呼吸をした後、体をまっすぐに伸ばしてヘッドギアを装着し、最近お気に入りの「恵、行きます!」のかけ声で農場ゲームに接続した。
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