144.復帰した三人
恵美さんの気持ちはわからないでもない。現に、私もエレナさん、テレーザさん、カレンさんが誰なんだろうって気になっていた。
でも、スタンスが違う。
エレナさん、テレーザさん、カレンさんが身近にいる英さん、美さん、椎さんになんとなく似ているから気になっただけなのだ。そうでなければ、最初から「この人、リアルでは誰?」なんて思わなかった。
教室に戻ると、ほとんどのクラスメイトが登校していて、私は拍手喝采を浴びた。
おそらく、ユウが「あやめぐは恵美さんとバトりに行った」とか何とか登校した同級生に吹聴したのだろう。
予鈴のチャイムが鳴る。本鈴が鳴る。
でも、英さん、美さん、椎さんは現れなかった。
こうなると、心配で仕方ない。入院の延長になっていないだろうかとか、来る途中で事故に遭っていないだろうかとか。
なんだか、家族みたいな心配の仕方だ。
気がかりで昼食も喉を通らないでいると、教室にのそっと体を入れてきた人がいた。
松葉杖を2本突いた英さんだ。
彼女を歓声と拍手が出迎える。
「みんな、心配かけて、ごめん」
頬を染めて照れ笑いをする英さんが自分の席に向かおうとすると、近くで食事をしていた数人の生徒が手助けしようとする。
「いいって、いいって。こういうの、自分で出来ないと本当に病気になっちゃうから」
ゆっくりと危なっかしそうだが、机の間を移動して自席に「よいしょー」っと腰を下ろし、松葉杖を立て掛ける。
続いて、美さん、椎さんがゆっくり登場した。二人とも、松葉杖を1本突いている。
彼女たちも退院の祝福を浴びた。
「みんな ありがとう」と、はにかみながら小声で応じるのは美さん。
「大袈裟だよね、これ」と松葉杖がない方の手で松葉杖を叩いて笑うのは椎さん。
心配しすぎて肩まで重かった私は、背負っていた荷を下ろしたかのように体が軽くなった。
一番喜んだのは私。そして、感動して泣いてしまったのも私。
一人ではしゃぎすぎてしまった。
でも、こういうときは、これくらい、いいよね。
「あやめぐ、泣き虫だなぁ。みんなまで泣かしちゃって、責任取れよ」
そう言って、教室のあちこちで涙に誘われたクラスメイトを眺めながら、英さんは豪快に笑った。
しかし、その英さんも、美さんも椎さんも、うっすらと涙を浮かべていたのは見逃さなかった。