140.和解
ギャラリーから地鳴りのような響めきが巻き起こり、割れんばかりの拍手がそれに続く。
結界を解除した私は、そんな祝福に応えることなく、真っ先にジャンヌさんの元に駆けつける。
「ジャンヌさん!」
私の呼びかけに意識が戻ったのか、うつ伏せ状態から頭を少し動かしたジャンヌさんは、私の方を向いて睨み付ける。
「笑いに来たの?」
「いいえ。もうこんなことは、やめましょう」
「それは、やめることになるでしょうね。アカウントを削除するのですから」
「その条件を撤回します。もう二度と決闘をしないと約束してくれたのなら」
「何? 私に恥をかかせるの?」
「いいえ。そもそも、このゲームの運営側が決闘を禁止していないことに問題があります。私たちはその犠牲者です」
「犠牲者?」
「ゲームはクエストをクリアするから楽しいのです。人の憎悪を増幅させる決闘なんか、必要ありません。仲間の敵とばかり、復讐が連鎖的に広がっていきます。それは不幸なことで、ゲームを辞めていく人が増えるでしょう」
「…………」
「一緒に楽しくプレイしませんか? この『アール・ドゥ・レペ』の世界で」
ジャンヌさんがゆっくりと上半身を起こして、立ち上がった。
「でしたら、私のパーティーに入ってくださるなら、決闘をなかったことにするという提案を呑みましょう」
「それは出来ません。私には仲間がいますから」
ジャンヌさんがフッと笑った。
「では、その仲間ごと私のパーティに引き入れましょうか?」
「それは定員オーバーなことは知っていますよね?」
「冗談よ。それくらい、欲しいの、あなたのことを」
「お気持ちだけ受け取ります」
「では、早くあなたのパーティーが4桁台のランキングから脱出して、上位三傑に入れることをお祈りいたします。首を長くしてお待ちしておりますから」
「はい」
私とジャンヌさんは、固い握手を交わした。