14.開墾が始まりました
「あのー、作物は実際より早く収穫できるのはわかりましたが、もしも時計を進めると、さらに収穫は早まりますか?」
「もちろん。じゃが、そんなことをして一気に1年とか2年とか進めても、何も面白くなかろうて」
確かに。
私はさっそく指で体の正面に設定画面を表示させ、時計設定の項目を探した。
表示されたデジタル時計が示す今の時刻――23時30分は、このゲーム開始前に見た家の時計の時刻からさほど経っていない。先ほど、現実世界で夜だったのがこのゲームの世界でも夜だったことから、感覚的にだが「どちらの世界も同じ時刻だろう」と推測していたが、時計を見てそれが実証できた。
クラウディアさんが丹精込めて作ったコーンスープがこのVRゲームの世界でどんな味がするのか気になるが、またの機会にということで、私は明日の早朝4時30分にセットしてみた。こちらの世界の日の出の光景を見たかったからだ。
時計を進めると、超早回し映画を観ているように満天の星は一瞬にして消え去り、右手側の空が白み始めた。この方角が東らしい。
ちぎれ雲が流れ、昇る太陽の光に負けじと輝く一等星たちが見え隠れする。周囲の木々が邪魔して日の出の瞬間は見えないが、今見えている光景から推し量って、頭の中に壮大な夜明けの瞬間を思い浮かべることが出来る。
オークさんとクラウディアさんは、しばし空を見上げていたが、互いに顔を見合わせるとコテージのドアを開けて中へ入っていった。
それから程なくして、二人は――時々二匹と言うべきか迷うが――作業着に身を包んで斧を持って現れた。アースグリーンの長袖の作業着、グレイのサロペットパンツ、長靴。すっかり、農作業の出で立ちだ。
私はオーナーとして二人に「これから開墾をお願いします」と指示を出した。すると、二人はニッコリ微笑んでから頷き、木々の間を抜けていった。そっちの方角は、このゲームを再開したときに私が立っていた草むらだ。
「どこへ行くのですかぁ?」
「これから開墾を始めるに当たって、お隣とこの農園との境界線を確定するため、柵を立てるのじゃ」
問いかける私に振り向くことなくそう答えたオークさんは、クラウディアさんを連れてずんずんと歩いて行く。二人の歩く姿を見ていると、実に微笑ましい。
オークさんは柵を立てると言っていたけど、あそこには資材など何もないはず。どうしようとしているのか、気になるので後を追ってみることにした。