138.決闘
決闘の場所は、郊外の草原に決まった。暴れるにはお誂え向きの広さで、300メートル四方はあるだろう。
曇天の下に野次馬がどんどん増えていき、間近で見たい連中がかぶりつきの席を求めるように近づいてくるので、私は「危険なので少なくともここから100メートルは離れるように」と彼らに伝えた。口々に不満を漏らすギャラリーが、遠くへ退いた。
周囲に十分な空間が確保されたのを確認すると、私は周囲にお椀を伏せたようなドーム状の結界を張った。薄いコバルト色のそれは、外から見ると水の中にいるように見えるだろう。
私とジャンヌさんは、結界の中心で20メートルほど離れて向かい合う。
「こんな大きな結界を張るなんて、ド派手な魔法を使うのかしら?」
空中から自分の背丈を優に超える剣を出現させたジャンヌさんが、剣をガシッと握ってニヤリと笑う。
「上位三傑のトップに敬意を表さねば、失礼になりますから――」
「なるから何?」
「全力で行かせてもらいます。そのための結界です」
「では、その全力に敬意を表して、そちらからどうぞ」
何という言い草だ。
「魔法使いと剣士とでは、釣り合いませんよ。私からでいいのですか?」
「伊達の剣士ならそうでしょうけど」
ジャンヌさんが剣を上段の構えに振りかぶる。
(ああ……、だめだこりゃ……)
魔法使い相手に正面ががら空きだ。
これで勝てるなら、スピード勝負のはず。きっと、ギャラリーを楽しませる間もなく、一気に決着へ持ち込む作戦だろう。
「来ないのでしたら、こちらから行きますが」
「お好きにどうぞ」
「はあっ!」
ジャンヌさんが気合いを入れて叫ぶと同時に、目にも止まらぬ速さで剣を振り下ろした。