134.退院間近
私は嫉妬の表情を隠して後ろ手を組み、腰を揺らしてウキウキするように言う。
「楽しみだね」
「そりゃそうさ。言いたいこと、いっぱいあるし。……あっ、文句じゃないよ」
英さんは笑って身振りを交えたら、今度は「いててて……」と肩をさすった。
「まだ痛むの? 大丈夫?」
当たり前すぎることを聞いてしまい、配慮に欠けた自分が情けなくなった。でも、そんな私を彼女は責めようとしない。
「痛みがなくなるまでここにいたら、足に根が生えるよ。多少の痛みでも体を動かさないと、治りが遅いんだ。……とまあ、医者の受け売りだけどね」
彼女はそう言いながら、包帯をグルグル巻きにされた手足をさする。
「たかが打撲。されど打撲ってか。病人は辛いよ」
それから、芸人のツッコミを真似して笑う彼女につられて、部屋中が笑いに包まれた。
英さんはムードメーカだ。
どこでどう間違って他人を拒絶する態度を貫くようになったのだろう。
自分の心の中に土足で入ってくる誰かがいたからなのだろうか。優秀なお姉さんと何かと比較されて、やりきれない気持ちを他人にぶつけていたのだろうか。
でも今は、ちょっと言葉は乱暴だけど、ユウとアカネの前で私たちの班でとった態度と同じ態度で接している。しかも、積極的にユウとアカネに目を向けて話を振っている。
明日登校したら、少しずつクラスのみんなと打ち解けていくことだろう。時間はかかるかも知れないが。
英さんたちが教室に入ると拍手で迎えられ、英さんが「心配かけてごめん」と頭を掻いて笑う。美さんも椎さんも温かく迎えられ、はにかむ三人をクラスのみんなが質問攻めにして、それに笑顔で答える。
今、そんな光景が目に浮かんだ。