133.取り戻した日常
月曜日から現実世界で夜しかVRゲームが出来ないため、今のままでは――時刻が同じでは、星空の下で農作業をすることになってしまう。
そこで、ゲームの世界では昼になるように時計を12時間ずらした。
一時期アメリカの時差みたいなずれ方でわかりにくかったので、簡単になるように半日ずらしてみたのだ。
土日は昼間にインすることがあるので、現実世界と時刻を合わせた方が都合がいいが、時計は進めることしか出来ないので、そうやっていくと毎週少しずつ日にちがずれて、いずれは季節がずれていく。これを今後どうするかは、エレナさんたちと要相談だ。
現実世界で清々しい月曜の朝がやってきた。
学校に登校すると、教室では新しい芸能ニュースやトレンドなファッションの話題でワイワイガヤガヤと盛り上がっている。先週までは事故のことを引きずっていたので静かだったが、やっと普通の学校生活に戻ったという感じだ。
この何でもない日常が私にはホッとする。これは、みんなも同じはずだ。
水曜日の放課後に私とユウとアカネの三人で病院へお見舞いに行った。
臨時の担任の先生から、いつ退院できるか聞くのを頼まれたが、そんなのは自分でやって欲しい。なんか、お見舞いに行っていないらしいので、行けばいいのにと思う。
今度の先生も入院中の担任の先生と似ているタイプなので、ちょっと警戒している。なぜなら、さっそく私が目を付けられているから。クラスの人気者を利用しようとしている感じがイヤだ。
三人が入院中の病室に入ると、他の患者さんが退院したらしくベッドが空で、英さんたちだけだった。
扉をきっちりと閉めて辺りをはばかることなく普通の声で話しかけると、自然と声が大きくなっていき、笑い声もちょっと心配するほど大きくなった。
三人とも元気いっぱいで、早くこの退屈な病院から脱走したがっていた。退院の予定は木曜日とのこと。松葉杖を使って、金曜日から学校に行けるらしい。
「早くゲームしてえええええっ!」
上半身を起こした英さんが大きく伸びをしてそう叫んだ後、「いててて……」と左腕をさすった。
私は、ちょっと目を輝かせて彼女に問う。
「木曜日に退院したら、夜やるの?」
もちろん、VRゲームのことだ。だが、その単語は口にしない。ユウとアカネがいるから。
「やるやる。絶対やる。うずうずしてるから」
そう言ってコントロールパッドを操作する真似を私たちに見せていたが、それは明らかにVRゲームを悟られないようにするためだろう。
「な?」
英さんが私たちの肩越しに美さんと椎さんに同意を求めると、二人とも笑顔で頷いた。
いつの間にこの三人はここまで打ち解けたのだろう。
ずっとこの部屋にいるので、同じ怪我人同士だから、慰め合って心を開いたのだろうか。もし、私も怪我をして、今空いているベッドに寝かされていたら、その仲間に入れた――かも知れない。
ちょっぴり嫉妬した。