13.ゲームの世界の時間
私は「はい!」と即答した。すると、二人は同時にホッとした表情を見せて優しく言う。
「お前さんを歓迎しよう。さあ、泊まっていきなさい」
「お腹は空いていない? コーンスープがあるわよ」
「家内のコーンスープは絶品じゃよ」
「よかったら、パンもジャムも――」
私は二人の申し出を、悪いと思いつつ途中で遮る。
「あのー」
オークさんが首を傾げた。
「何か困りごとでもあるのかのう?」
「私は他のVRゲーム――VRMMORPGもやっていて、学校もあるので、ここに夜しか来られません」
「ほうほう」
「時間を早められませんか? 例えば、今すぐ朝になるとか」
「なるほど。それを訊くということは、チュートリアルをスキップして、いきなりゲームを手探りで始めたのじゃな」
「え、ええ……」
(って言うか、忘れた頃に再度インしたら、ひとりでにストーリーが始まったのですが……)
オークさんが指を立てた。二足歩行もそうだが、この仕草まで実に人間くさい。
「時計は未来へ進めることしか出来んが、もし良かったら試してみなされ。今から一気に冬に進めることもできる。ただし、農閑期になってしまうがな。
なお、開墾せずに時計を進めると、ますます荒れ地になるので注意が必要じゃ」
「それはやりません。明日の朝に時計を進めるだけです。
開墾を始めたいのです」
――Alea jacta est(賽は投げられた)
一瞬だが、自分の正式なゲーム開始宣言の後に、そんなカエサルの歴史に残る言葉が頭をかすめていった。なんでこんな言葉が頭に残っていたのだろう。きっと、同じクラスにいる歴女の友達の影響かも知れない。
「あのー、作物を収穫する時間を早めるのにも、毎回時計を進めるのですか?」
「そんな必要はない」
オークさんはそう言って、口角をちょっとつり上げた顔をクラウディアさんへ向ける。今度は、クラウディアさんがオークさんの代わりに答えた。
「そうよ。心配要らないわ。作物の種を植えると、種類によって違うけど、オーナーの世界の時間で5時間とか10時間とかで収穫が出来るようになるの。一番長いので1日と9時間と20分よ」
最後のは妙に中途半端な時間だと思ったが、1日と9時間は33時間で1980分で――って暗算で計算すると、ぴったり2000分であることに気づいた。
「チケットと呼ばれる物をあらかじめ買うと、30分短縮とか、1時間短縮とか、2時間短縮とか、即座に収穫とかも出来るのよ。購入はクレジットで、運営サイトから買えるわよ」
ついに、課金がらみの話が始まった。途端にクラウディアさんが運営側の回し者に見えてきたが、新番組宣伝に出場するタレントのアピール程度に思っておこう。課金したらお母さんの雷が落ちるので、当面「チケットなし」に即決だ。