129.AIに言い返す
コニーリアさんが左右に首を傾げる。
「先週から見ないわよ」
やっぱりそうだ。エレナさんたちは、ずっとログインしていない。
英さん、美さん、椎さんは月曜日から林間学校に行っていて、今入院している。
このゲームにBOTみたいなアバターがあれば、自分の代理を立てられるかも知れないが、そんなものは今ない。
よって、英さんたちが退院したタイミングでエレナさんたちがこのゲームに現れたのならば、英さん、美さん、椎さんが、エレナさん、テレーザさん、カレンさんに間違いないと断言して良いと思う。
長いこと『たぶん同一人物』という前提で考えてきたが、ここに来てようやくはっきりさせることが出来るのだ。
「そうですか……」
「もう来なかったりして」
コニーリアさんが悪い冗談を飛ばす。AIが笑いを誘うために発しているのだろうが、私の今の心理状態では本気にしてしまうから、正直やめて欲しい。
「いいえ、来ます。必ず」
「なんで?」
「なんでって……直感です」
「ふーん。その直感の根拠は?」
「それは……直感は直感です」
「うまいこと逃げたわね」
コニーリアさんがニヤッと笑う。私も笑い返す。
「あの従業員、知り合い?」
いきなり核心を突かれてビクッとした。
「なぜそう思います?」
「あら。私の問いに答えないのに、質問するの?」
なかなか手強いAIだ。
「それは……」
「じゃあ、答えましょうか? なぜって、直感よ」
だめだ。ずるいAIだ。
すると、コニーリアさんは『まいった?』という顔をする。降参である。
「直感って言ったけど、ホントはね、オーナーがごまんといるこの世界で、従業員としてここにやってくることを考えたら、知り合いと思うわよ。見ず知らずの農園に誰が足を向ける?」
「それは……一緒に働ければ面白そうかなと」
「なぜそう思う?」
そう言われても、企業に就職志望するときだって「面白そう」とかいうのが動機かと思う。
「なぜそう思わないのですか?」
AIを困らせるため、言い返してみた。
「ん?」
だんだん、『考え中』の時のパターンが読めてきた。この裏側でCPUが大汗をかいて演算や推論をしているのだろう。
「収穫、手伝う?」
無限ループに陥ってガードでもかかったのか、全く関係ない話を持ち出してきた。このまま語り合うと禅問答になりかねないので、この方がいい。私は「はい」と答えてコニーリアさんに従った。