128.久しぶりのVRゲーム
お見舞いから自宅に戻り、母親が無造作に袋から取り出したクッキーと私が淹れた紅茶で一息入れる。
病院の様子を事細かに聞いてくるインタビュアーと化した母親に背を向けて、部屋に逃げ込む。大きなため息をついて時計を見ると、15時半だった。
ちょうどヘッドギアが目に付いて、ふと、オークさんたちの姿が頭を過る。
(会いに行きたい。収穫、どうなっているかしら?)
こう思うと、いても立ってもいられなくなる。
ベッドの上へお尻から着地して体を弾ませ、ゴロリと横になって息を止め、恐る恐るヘッドギアを装着してみた。頭痛は、ほとんどしなかった。思わず口元がほころぶ。
前回は時差がない状態にしたので、向こうの世界も15時半だ。6日ぶりのダイブに心が躍る。
(よし! 恵、行きます!)
私は、農場ゲームに接続した。
◆◆◆
お誕生日席の座り心地、テーブルの肌触り、足の裏に伝わる床の堅さ。照明の明るさ、開けられた窓から差し込む日の光。
触れるものも見えるものも、何もかもが懐かしい。長旅を終えて、やっと帰ってきたという思いがする。
さっそくドアを開けてみよう。
でも、ちょっと躊躇う。
(コニーリアさんが「ずっと放置してひどいじゃない」とか言わないかしら? オークさんが「諦めたのかのう」とか言わないかしら?)
みんなが笑う姿が徐々に変化して、怒った顔で腕組みをしている姿になる。
なぜこうも悪い方に考えが向くようになったのか。
それは、心の弱さにあると思う。
怖れがそのような絵を勝手に頭の中で描くのだ。そんな想像画には色ペンキをぶちまけて、足蹴にして踏み出そう。根拠もないことに何も恐れることなどないのだから。
思い切ってドアを開けると、眩しい光が斜めに降り注ぐ。広い土地には、緑が溢れる。
いた。マシューズ夫妻が、コニーリアさんが、カプラさんが。
みんな私に向かって手を振っている。私も思いっきり手を振って、走り出した。
「こんにちは!」
コニーリアさんがスコップを地面に置いて、両手を振る。
「久しぶりねぇ」
「ごめんなさい。いろいろあって」
「いいのよ。オーナーは忙しいから。私たちに任せて、お仕事頑張って」
仕事じゃないんだけどと思いつつ、私は気になっていたことを尋ねてみた。
「あのー、エレナさんたち、あれから来ましたか?」
薄々わかっていることなのに、彼女たちのリアルの姿を示す根拠を探さないと気が済まなくなっているのだ。
すると、コニーリアさんが首を傾げた。
「ん?」
微妙な間を置く彼女に、まさか、「誰それ?」なんて言ったりしないかしらと気を揉んだ。