127.三人の涙
同室の他の患者さんが、看護婦さんに付き添われて病室を出た。うるさかったわけではなく、リハビリの時間らしい。
しばらく談笑した後、さて、そろそろおいとましようかとなって、私たち五人で軽く手を振りながら三人に別れを告げる。
そうして、私が最後に「お邪魔しました」と頭を下げて廊下に出ようとしたとき、英さんが「農園さん」と私を呼んだ。
その意味がわかった私は、ユウたちに先に受付まで戻ってもらい、扉を閉めて彼女のベッドへと向かった。
「あのさぁ」
彼女の問いかけに、私の心臓がズキンと音を立てた。やはり、彼女のこの言葉には、構えてしまう。
「心配かけちゃって、ゴメン」
「ううん。全然」
「お見舞い、ありがとう」
「いいえ。当然のことをしただけだから、気にしないで」
「なんか……優しくされると……優しくされると……」
彼女は、涙が堰を切ったように溢れ出る。そして、嗚咽し、顔を手で覆った。
これには私も美さんも椎さんも、もらい泣きをしてしまった。
しばらく泣いていた彼女は、真っ赤に目を腫らした顔を私に向けた。
「悪いけど、内緒な、泣いたこと。うちらの班だけの秘密な」
「わかった。約束する。早く良くなってね」
「うん。必ず行くから。待ってて」
すると、美さんも椎さんも声を揃えた。
「いくから」「待ってて」
私は、これが学校へ行くことだと普通に解釈した。
三人に別れを告げて受付に戻ると、ユウたち四人が待っていてくれた。
「ゴメン、待たせて」
すると、ユウがニコニコして、早く何かを言いたそうな顔をする。
「普通に、いい奴じゃん」
「誰が?」
「あいつ。いや、あいつらかな」
「うん。みんないい人たちだよ」
「あやめぐのおかげだね。どんな魔法使った?」
「なんで魔法使い扱い?」
「いや、なんとなく」
「それより、来て良かったぁ。みんなの退院も早そうで、安心したぁ」
「乙」
この時、私は、まさかユウがVRMMORPGの「アール・ドゥ・レペ」をプレイしていて、うちのパーティーに入ってやしないかと疑いの目を向けたのだった。
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