120.VRゲームを愛する者は宿泊先でもプレイする
ゲーム愛。
よく聞く言葉だが、これを熱く語ってくるプレイヤーを初めて見た。
そもそも私がVRゲームをやっているということ自体、ごく親しい親友にしか伝えていないので、VRゲームの知り合いがかなり限られるから初めて見るのも当然といえば当然。
同好の仲間を見つけると熱く語りたくなる気持ちもわからないではないが、こんな林間学校の高原ホテルの廊下で熱く語るのは人目が多いので困る。
ただ、この恵美さんと仲良くなって良いのかと考えると、私の直感は「避けた方がよい」と警告を出している。「冷酷な剣姫」が性格に隠れている感じがするからだ。
「わかりました」
私が説得するまで延々と語られそうなので、こちらからその話を打ち切る。そうして、深呼吸をして推理を披露した。
「では、間違っていたら気を悪くなさらないでください。恵美さんは……」
真顔の彼女が、今度はワクワクしている顔を見せる。そんな表情の仮面を被ったかのようで、ちょっと怖い。
「シャ・エランの……ジャンヌさん」
目の前の顔が一瞬で真顔に戻った。
(まさか、外れ!? 『そんなに難しくない』って嘘だったの!?)
動揺を隠せない私は、喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。
すると、彼女はスーッと真顔を近づけてくる。逃げたくても体が硬直して逃げられない。
その顔は左に逸れてもなおも近づき、私の左の耳に彼女の唇が迫ってきた。
「せ・い・か・い」
吐息のような声は甘い匂いがした。
フフンと笑う恵美さんの顔が後ろへ移動し、元の位置に戻る。
「やっぱり、そう見えるわよね」
まんざらでもなさそうだ。私は寿命が縮んだが。
「さあ、私は名乗ったわよ。あなたは? どこに所属しているの?」
交換条件という訳か。
「ランキングで4桁台の駆け出しです」
「ハハハッ! ……あっ、ごめんなさい。でも、謙遜でしょう? 1001番だって4桁だし9999番も4桁だし。上の方でしょう?」
ここでランキングの数字を言うことは、パーティー名をさらすのに等しい。
「真ん中より下です。仲間はみんな本業が忙しいので、あまりプレイしていません」
これで関心が薄れるかと思ったら、予想通りだった。
「そうなんだ。上の方だったら引き抜いて一緒に楽しくプレイしようと思ったのに。じゃあ、実力付けてスキル上げて、頑張って」
ここで話を終わらせればいいものを、私の好奇心は余計な詮索を私にやらせた。
「引き抜くって、あのパーティーのメンバーは固定で、入る余地がないのではないですか?」
恵美さんが、忌々しいという表情で首を横に振る。
「ついこないだ。二人首にしたの。同級生だけどね。今なら空きは一つあるわよ。一人足りなくて忙しいから、あなたが来てくれると嬉しかったんだけど」
思い出した。私が初めて英さんと一緒に恵美さんを見かけたとき、開けっぱなしのドアから二人の生徒が恵美さんを追いかけていた。その時、「恵美! 待って!」と言っていた。
あの二人を首にしたのだろうか。
「忙しいって、今林間学校にいるから、ゲームは――」
「出来るわよ。簡易型のヘッドギア持ってきたから。ホテルのLAN回線使えば大丈夫なのは事前に調べ済みだったし、実際に夜中に接続したら、十分プレイできたし」
私は開いた口が塞がらなかった。そんな私を見て、恵美さんは口角を吊り上げた。