119.リアルの姿を包み隠さない
どうしてこうなった?
なんで私は、恵美さんの所属するパーティー名を今ここで当てなければいけなくなった?
本当は、英さんたちが積極的に人に話しかける――しかも相手が恵美さんという想像だにしない珍稀な出来事がなぜ起きたのかを知りたかったのだ。
それは彼女が「おんなじこと聞く人いるけど――さっきもそうだけど」と吐き捨てた言葉で推測が付いた。ところが、その代償にしてはとんでもない展開に今巻き込まれている。
上位三傑は「アール・ドゥ・レペ」のプレーヤーの間で羨望の的になっていて、パーティー名はおろか、メンバー名や得意技や好みまで広く知られている。追っかけもあるくらいだ。わざわざゲームにインしてまでそんな努力をするくらいなら、獲物を追いかければいいのにといつも思う。
なお、好みの情報は、彼らがゲーム内のどの酒場にいて今何を食べているかとかの情報が野火のように広がることで拡散する。同じ店で同じ物を食べるファンがいるので、まるでアイドル扱いだ。
その中の一人が、今目の前にいる。しかも、一介の女子高生の格好をして。
ただ、制服が包む体は、研ぎ澄まされたナイフのような感じがする。軍服を着せたら、男装の麗人でかつ冷酷な上官というイメージがよく似合う。
これでは「サインしてください」「握手もお願いします」「一緒に写真も」と多くのプレーヤーは熱を上げて長蛇の列を成すであろう。
「どうしたの? 悩んでいるの? そんなに難しくないと思うけど」
その言葉がヒントになった。
3つのパーティーには、それぞれ1人の女魔法使いと1人の女剣士がいる。
中でも、光を浴びて輝く銀髪ロングヘアを持ち、銀色のミニスカートの鎧を纏い、自分の背丈を超える幅広の剣を携えた「非情な剣鬼」あるいは「冷酷な剣姫」と呼ばれているジャンヌ・ド・ポワティエという女剣士がダントツの強さだ。名前は、ジャンヌダルクの裁判が行われたのはポワティエの町なので、その復讐を暗に意味するらしい。とは、もっぱらの噂で、本人がそう言っていたわけではないが。
難しくないということは、すぐにわかるということ。
イメージがぴったりだ。彼女が所属するパーティーは「シャ・エラン」。野良猫だ。
だが、それ以前に気になって仕方がないことがある。
「いいのでしょうか、リアルの姿をバラしてしまって?」
恵美さんの表情が、口に微笑みを残し、目が威圧的になった。
「何か悪い?」
「いいえ……あの……バレたら困らないのかなぁって思ったので」
「今この場でバレて、何か悪いの? 大都会の真ん中で叫ぶんじゃあるまいし」
「プレイヤー同士ならいいのですか?」
「同じ学校の生徒で同じゲームを愛する生徒ならいいじゃない」
「愛する?」
「あなたの目、『アール・ドゥ・レペ』を愛しているって目をしていたわよ。その相手に隠すの? どうして?」