113.トランプゲーム
周囲の目から逃れた私たちは、部屋に入るや否や各自のベッドに向かって一目散に走り、ダイブする。椎さんは「恥ずかしい」と言って掛け布団を被って丸くなり、仰向けになった英さんは「疲れた」と言って右腕で両目を塞ぐ。
「ごめんなさい」
大福のようになった白い掛け布団の中からそう謝罪する椎さんに、英さんは腕で目をこすりながら答える。
「違う違う。顎が疲れたってこと。しゃべりすぎて」
そして、彼女はガバッと上半身を起こして苦笑いし、「普段は、ずーっと黙ってスマホ触ってるからなぁ……。スマホ中毒だな」と言って頭を掻く。
ベッドの上に腰を下ろして両膝を立て、そこにノートを置いて絵を描いている美さんは、走らせている鉛筆を目で追いつつ二人の会話に耳を傾けているらしく、ニッと笑った。
今まで会話がない世界に自分の身を置いて、好きなことに集中して全力を捧げる。そうして、外界に吹き荒れる嵐から逃れ、平穏な心を得られる。それに長く慣れてきたのだ。
今日は違う。自ら相手に話しかけ、相手に働きかけた。
こんな慣れないことをやると疲れるのは当たり前。VRゲームで慣れない斧を振るのと同じだ。
休息を求める彼女たちを見て、私はバッグからいったん取り出したトランプを元に戻す。もう少しタイミングを見計らってからトランプを誘おう。
そう決めて仰向けにゴロリと寝っ転がって今日一日を振り返り、展望台での楽しい思い出に浸っていた。
部屋の中は美さんの鉛筆の音だけが聞こえていたが、しばらくして英さんが部屋の静けさを破った。
「あやめぐさぁ」
「はい?」
天井を見上げて答えた私が英さんの方へ振り向くと、彼女も天井を見上げていた。
「ダチのとこ、行ったら?」
私は、今がチャンスだと思って上半身を起こし、バッグからトランプを取り出した。
「ううん、連チャンで徹夜になりそうだからいい。それより――」
私は手にしたトランプを肩の高さまで持ち上げて、左に右に傾けながら三人へ順繰りに顔を向ける。
「トランプ、やらない?」
椎さんが布団から顔を出し、二人が私の方へ顔を向けた。
「やるか」
英さんの一言で四人のカードゲームが始まった。




