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メグ美農園の収穫祭へようこそ(改訂版)  作者: s_stein & sutasan
第1章 荒れ地の果てに
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11.迷いと悩み

 翌日の夜、いつものようにベッドに横たわる私はヘッドギアを装着し、VRゲームの世界にダイブした。ただし、今日の「アール・ドゥ・レペ」のプレイは、罪悪感を抱きつつだった。


 執拗に襲いかかる魔獣どもに得意の魔法を食らわせて体力等を削り、仲間の攻撃を支援するのが私ノアールの役目。慣れているので、ちょっと考え事をしていても難なくこなせるが、今日は手元が狂って何匹かを取り逃がしてしまった。こんな凡ミスを仲間は見過ごすはずがない。


「ノアール氏。いつものキレがないですな」「飲み過ぎっすか?」「もしかして仕事中?」「乙」


 私はしきりに頭を掻いて、仲間の想定年齢に合わせた適当な理由を口にしたが、そんな折でも今日の二つの出来事が頭を(よぎ)っていた。



 一つは、やりかけだったVRゲーム「農場経営Tファーム物語」を継続する決断を保留にしたこと。


 理由は単純。頭の一時記憶領域に朝のTODOとして書き込んでいたのだが、寝坊して右往左往しているうちに他の諸々と一緒に揮発してしまったのだ。思い出したのは授業が始まってからで、うっかり「あっ!」と声を上げてしまったものだから、教室中の注目を浴びて顔に火を()いた。


 オークさんとクラウディアさんが肩を寄せ合い、コテージを前にして首を長くして待っている姿が目に浮かぶ。すると、心が動かされ、今すぐにでも良い返事を抱えて会いに行きたくなり、体が前のめりになる。


 でも、心の中で別の私が『あれはゲームのシステムが私に見せている虚像で、言葉はシナリオを元にAIが決めて、音声を合成しながら発しているだけ』と(ささや)き、私の首筋をつかむ。


『人が人間の形をした物に反応する性質を利用されるハッキングの手口をゲームに応用して仕込んでいるだけ。ラブリーな動物が人間のように振る舞うことで、システムがそれに似たことを引き起こしているから、さしずめ「アニマルハック」ね』


 急に醒めたことを言い出すもう一人の自分に対して、私は「ううん、考えすぎよ」と否定し、夜までに決断することを心に誓う。でも、現実は、典型的優柔不断でまだ決めかねたまま、「アール・ドゥ・レペ」に雪崩れ込んだのだ。


 いや。結論を出すことから逃げたのだ。



 もう一つは、偶然なのか故意なのか、私の班の三人とも昼に早退してしまったこと。午後に班が林間学校で何のレクをやるかについて相談の時間が設けられていたのだけど、肝心の三人がいないので寄せ合う机もなく、一人ぽつねんとしていたのだ。


 話し合いが面倒なので彼女たちがばっくれたと、誰もが(いきどお)る。担任の先生ですら、あからさまに不満顔だ。


 でも、友達の気遣いで、私は複数の班にオブザーバとして参加し、アイデア出しに協力。もちろん、この程度では気が晴れるはずもなく、時折机に視線を落としつつ途切れる私の笑顔に友達が心配してくれた。「気にしない気にしない」って。


 非常識な三人に憤慨する友達を、さしたる根拠もなく三人の正当な帰宅理由を推測してなだめる私は、言えば言うほど肩が重くなっていくのを感じていた。



 そう。「アール・ドゥ・レペ」をプレイ中の今も肩が重く感じる。あの三人の顔が脳裏に浮かんでいるからだ。


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