表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メグ美農園の収穫祭へようこそ(改訂版)  作者: s_stein & sutasan
第3章 収穫の時
107/150

107.遅れた昼食

 私は、最悪の場合昼食なしの覚悟が出来ていたが、みんなが私の周りにいて動こうとしない。


 急にどうしたのだろう。


 ちょっと声をかけてすぐにサーッと自分の居場所(ベツド)に戻ると思いきや、一応は心配してやったよというその場限りの素振りは全く見せない。


 こんなに心配してくれて号泣しそうなくらい嬉しいが、食事を抜いたままでは午後の活動を腹ぺこの状態で行うことになる。私たちの班は『山登り』を決めていたので、さすがにエネルギーを補給しないわけにはいかない。


「もう大丈夫。行こう。冷めちゃうし」


 三人を促してベッドから起き上がり、体がふらつかないように慎重に歩きながら、黙々と付いてくる彼女たちと一緒に部屋を出た。


 部屋に入るときは私の後ろで距離を置いて歩いていたのに、今度は、部屋を出ると私の周囲を守るように三方向を囲んで歩いている。みんなの心配が態度に出ているのだ。


 この正反対の行動に、端から見ると、部屋の中で一体何があったのかと誰もが不思議がることだろう。



 1階に行くと、食事を終えた他のクラスの生徒たちがガヤガヤと食堂から出てきて、私たちの横を邪魔そうに通っていく。時々すれ違う友達は、ポカンと口を開けたり、好奇の目を向けてくる。


 そんな彼女たちの視線を浴びながら、テーブルが何列も並んでいる大食堂に入ると、時間がかなり経っていたので空席が半分以上になっていた。ここでも、たくさんの痛い視線を浴びた。


 客を見送った皿はいずれも完食にはほど遠く、もったいないほどの残飯があり、ごっちゃになったイヤな臭いを発散させていた。ここで出される食事の味が、これを見れば食べる前からわかるというものだ。


 手つかずの料理の皿を求めて前方に視線を送り、それが放置されているテーブルの隅の四席を発見し、私たちは次々と安物の椅子を引いて腰を下ろす。


 軽く祈りを捧げた後、何から食べるか迷いが生じた。


 初めてまともに会話した三人を前にして、まさか「()()()()は何から食べるのだろう?」とモニタリングされるのかと思うと、手が震えてくる。


 無難に白米から手を付けて黙々と()(しやく)していたが、米だけ食べているのも味気ない。そこで、初めておかずの皿に手を伸ばしてプチトマトを箸でつかんだら、お皿から脱走した。慌てて、隣にある枝豆をつかむとそれが脱走2号となる。


 すると、三人が一斉に吹きだした。


 これがきっかけで、(えい)さんが、一発芸の芸人の台詞でツッコミを入れると、堪えきれず(びー)さんも(しい)さんも普通に声を出して笑った。


 ――そう。普通に。


 今まで声を出して笑ったところを見たことがない。しかも、四人がいる前で。


 こんな笑顔が出来るんだと、思わず感動した。



 こうして、私たちの班は長い時を経て、やっとスタート地点に立ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ