107.遅れた昼食
私は、最悪の場合昼食なしの覚悟が出来ていたが、みんなが私の周りにいて動こうとしない。
急にどうしたのだろう。
ちょっと声をかけてすぐにサーッと自分の居場所に戻ると思いきや、一応は心配してやったよというその場限りの素振りは全く見せない。
こんなに心配してくれて号泣しそうなくらい嬉しいが、食事を抜いたままでは午後の活動を腹ぺこの状態で行うことになる。私たちの班は『山登り』を決めていたので、さすがにエネルギーを補給しないわけにはいかない。
「もう大丈夫。行こう。冷めちゃうし」
三人を促してベッドから起き上がり、体がふらつかないように慎重に歩きながら、黙々と付いてくる彼女たちと一緒に部屋を出た。
部屋に入るときは私の後ろで距離を置いて歩いていたのに、今度は、部屋を出ると私の周囲を守るように三方向を囲んで歩いている。みんなの心配が態度に出ているのだ。
この正反対の行動に、端から見ると、部屋の中で一体何があったのかと誰もが不思議がることだろう。
1階に行くと、食事を終えた他のクラスの生徒たちがガヤガヤと食堂から出てきて、私たちの横を邪魔そうに通っていく。時々すれ違う友達は、ポカンと口を開けたり、好奇の目を向けてくる。
そんな彼女たちの視線を浴びながら、テーブルが何列も並んでいる大食堂に入ると、時間がかなり経っていたので空席が半分以上になっていた。ここでも、たくさんの痛い視線を浴びた。
客を見送った皿はいずれも完食にはほど遠く、もったいないほどの残飯があり、ごっちゃになったイヤな臭いを発散させていた。ここで出される食事の味が、これを見れば食べる前からわかるというものだ。
手つかずの料理の皿を求めて前方に視線を送り、それが放置されているテーブルの隅の四席を発見し、私たちは次々と安物の椅子を引いて腰を下ろす。
軽く祈りを捧げた後、何から食べるか迷いが生じた。
初めてまともに会話した三人を前にして、まさか「あやめぐは何から食べるのだろう?」とモニタリングされるのかと思うと、手が震えてくる。
無難に白米から手を付けて黙々と咀嚼していたが、米だけ食べているのも味気ない。そこで、初めておかずの皿に手を伸ばしてプチトマトを箸でつかんだら、お皿から脱走した。慌てて、隣にある枝豆をつかむとそれが脱走2号となる。
すると、三人が一斉に吹きだした。
これがきっかけで、英さんが、一発芸の芸人の台詞でツッコミを入れると、堪えきれず美さんも椎さんも普通に声を出して笑った。
――そう。普通に。
今まで声を出して笑ったところを見たことがない。しかも、四人がいる前で。
こんな笑顔が出来るんだと、思わず感動した。
こうして、私たちの班は長い時を経て、やっとスタート地点に立ったのだった。