105.つかめたきっかけ
私は、三人が関心を寄せるだろうと思って、ある行動に出た。
まず、窓辺に引き寄せられるように立ち、ガラス窓に鼻をくっつけるようにして外を眺めた。
豊かな大自然が手を伸ばせば届くくらいに迫ってくる。都会ではまず見られない光景にワクワクする。
農場ゲームで描かれる自然は「VRゲームでこのクオリティは素晴らしい」と感動するが、こちらはそういう驚きとは訳が違う。断然桁が違う。
何せこれが本家なのだから。
「綺麗……」
本当は『ワーッ! キレイ!』って叫びたかったのだけど、わざとらしいぶりっ子に聞こえるのでやめた。
ゲームで豊かな自然に私たちが触れているので、この言葉に彼女たちが乗ってくるかなと思って待っていたが、足音一つしない。振り返ると、私の感嘆など無視して、全員がベッドの上で思い思いの行動をしている。
ガン無視だ。
(どうしよう……。きっかけがつかめない)
息が詰まる思いがしてきたので、私は窓のロックをカチャッと外し、少しガタつく窓をゴロゴロとスライドさせて新鮮な空気を吸うことにした。
と、その時、一匹の蝉が羽音を立ててジジジジジッと部屋の中に迷い込んだ。
「キャッ!」
頭を抱えてしゃがみ込んだ私は、動けない。部屋の中に迷い込んだ蝉は、悲鳴のようにジジジジジッと鳴き続けて、あちこち壁にぶつかっている。
すると、バタバタと誰かが走り回っている音がしたので顔を上げた。
その音は、ノートを振り上げて蝉を追い回す美さんだった。彼女の奮闘のおかげで、蝉は窓の外へジジジジジッと退散する。
「ありがとう!」
心の底から感謝を伝える私に、美さんは頬を染め、目をそらしながらも「こういうの、こわくない」と口元に笑みを浮かべてボソボソッと答えた。
「すげー」と軽く手を合わせて音を立てない拍手をするのは英さん。無言でその拍手を真似するのは椎さん。
蝉のおかげできっかけがつかめた。
見えない壁に穴が開いた気がした。
私はこの時、彼女たちが心を開くのはもうすぐだと確信したのだった。