104.いつもの態度を見せつけられる
担任の先生から部屋の鍵を渡された私はプレッシャーを与えるような先生の視線から逃れ、三階の一番奥の四人部屋を目指す。三人は、私の後ろから距離を置いてついてきた。
今まで何千人と生徒を見てきたであろうこのホテルの廊下も壁も手入れが行き届いておらず、薄汚れている。絨毯も埃っぽい。
部屋の前に立っていて鍵を待つ友達から「あとで部屋に来てね」と言われると、『今はそれを言わないで』と願いつつ曖昧に返事して通り過ぎる。数人からそう言われて困ったものだが、誰一人として「あとで部屋に行くから」とは言わなかった。
ようやく自分たちに割り当てられた部屋の前にたどり着いた。ここまで来るのが長く感じられた。
鍵穴に鍵がなかなか入らず、三人の視線を感じるも怖くて振り返ることが出来ない。ここは笑いを取るチャンスだが、穴に入ってしまったのでチャンスは潰えた。
ドアを押すと軋むイヤな音がして、VRMMORPGの「アール・ドゥ・レペ」に出てくる宿屋を連想させるも、さすがに中の様子は違っていた。
狭い部屋にシングルベッドが左右に二つずつ見える。一番奥に広いガラス窓があって、木々や山々がこちらを向いている。窓に切り取られたように大自然の光景が見られるのだが、気持ちはそちらではなく、ベッドの割り当てに向かっていた。
私が一番奥の左側のベッドに荷物を置いて、『みんな、場所はどこにする?』と問いかけようと振り返ったら、私の向かい側――奥の右に美さん、ドアに近い側の左に英さん、同じく右に椎さんが荷物を置いて、もう場所が決まりましたという雰囲気になっていた。そして、みんなはベッドに座って思い思いの行動を開始した。
そう。いつもの通りだ。
英さんはスマホ、美さんはノートと鉛筆、椎さんはヘッドホンを手にしている。
まるで、知らないところに来たら、これらがないと心が落ち着かないとでも言いたげな様子である。
(何とかしなくちゃ……。でも、ここで思い通りに動かそうとすると、コニーリアさんの言うとおり、全てを把握しコントロールすることになってしまう。ここは我慢)
でも、その我慢が出来ない。
ここで自分から何か行動を起こさないといけないという衝動に駆られた。