100.遅れてきた三人
バスの近くで、腕時計と校門を交互に見る担任の先生が苛立ち顔で立っている。その横の学年主任の方が落ち着いているのは、おそらくバスの発車時刻に余裕があるからなのだろう。
だいたい、7時30分集合で、きっかり30分0秒にバスが発車するわけがない。なのに、「バスが遅れるから早く!」と大袈裟に騒いでいる担任は、急ぎ足の生徒にすら譴怒する。
担任の言葉を背中に聞かせてノロノロと歩く私は、ユウとアカネに見つかって、二人に両脇を抱えられるようにリムジンバスへ連れ込まれ、一番奥の座席に押し込まれた。スプリングが効いたバスは、私たちの乱入にユサユサと揺れる。
たちまちバスの後部座席が友達で固められ、笑い声と4種類も5種類もの会話が飛び交う。時折、笑い声が爆発してバスの中が騒音で満たされた。
このかしましさは、気持ちが悪い今の私にはうんざりするので、すぐにでも横になりたかった。ちょっと遅かったが、乗り物酔いの錠剤を口の中へ放り込み、水筒の水を飲んだ。
しばらくすると、ほぼ席が埋まり、エンジンがかかった。ほら、やっぱり今は7時30分ではない。15分も後ろにずれている。
そろそろ発車する時刻なのに、あの三人を見ていない私は、記憶を遡る。ずっと乗降口を見ていたわけではないので確信は持てないが、乗ってきていない可能性がある。
内心ゾッとする。三人とも欠席なのだろうかと。
でも、バスが発車しても、途中で確かサービスエリアで休憩があったはずで、そこで探そうと思っていた。
(……いや、そこまで待てない)
不安な私は「途中で風に当たりたい」と希望を訴えて席を替わってもらい、バスの左の窓から校門の方を眺めた。
すると、こちらに向かって歩いてくる見慣れた二人の姿が見えた。
美さんと椎さんだ。
私はここで安堵するはずが、背筋が寒くなった。バスに乗り込んできた彼女たちの一挙手一投足を見つめながら前の方に着席するのを確認すると、心臓の鼓動が止まらなくなった。
いつもの表情なのだが、怒っているようにも見えた。きっと、私に対してだ。
ところが、エンジンがかかったバスがまだ発車しない。
(誰が遅れているのだろう? まさか、英さん?)
気を揉んでいると、今校門をくぐって悠々と歩いてくる生徒の姿に気づいた。
そのまさかの英さんだった。
目を見開いた私は、胸が早鐘を打つので両手で押さえるも、その押さえる手まで揺れるのを感じていた。