1.VRMMOのゲームがマイブーム
[登場人物]
農園 恵……主人公。ゲームでメグ美農園を経営する女子高生
オーク・マシューズ……レッサーパンダさん。メグ美農園の管理人
クラウディア・マシューズ……レッサーパンダさん。オークの妻
カプラ……山羊さん。おっとり
コニーリア……ウサギさん。頼りになるお姉さん
エレナ……従業員志望のオーナー。亜麻色のポニーテール
テレーザ……同上。スカーレットのロングヘア
カレン……同上。レイニーブルーのショートヘア
英……クラスメイト。仮名。ちょっと怖い
美……クラスメイト。仮名。絵ばかり描いている
椎……クラスメイト。仮名。音楽ばかり聴いている
ユウ……クラスメイト。仲良しの一人
アケミ……クラスメイト。仲良しの一人
恵美……他のクラスの生徒。ゲーマー
私の名前は、農園 恵。とある女子校に通う高校一年生。
初対面の人は、私の名前の漢字を見ると100%「のうえん めぐみ」と読み、私が「みのりぞの あや」と訂正すると目を皿のように丸くする。さらに、恵の字が「とし」とか「やす」とか「よし」とか読ませる例もあるという人名の知識を披露すると、一様に同じ反応を示す。「そんなの知らなかった」と。
この珍しい読み方のおかげで、クラスのみんなはすぐに私の名前を覚えてくれて友達も増えた。今通っている女子校でも、クラスの半分以上が友達だ。そこに「あや」という名前が何人かいるので、区別するために誰が言い出したかわからない「あやめぐ」で通っている。
でも、本当のことを言うと、私は自分の名前が嫌い。だって、初対面で誰も正しく読んでくれないし、そのたびに説明する手間が面倒し、この珍名を物珍しそうにしげしげと見られるのがイヤ。早く結婚して、「すずき」とか「こばやし」とかに変えたい。「あや」も漢字を変えられるなら変えたい。無理ならいいけど。
こんな私はみんなから「友達が多くていいね」と羨ましがられるが、多いからこそ他人に言えない悩みもある。
例えば、友達がグループを作ろうとすると、私の取り合いになる。時には喧嘩になる。
私が原因でみんなの仲が悪くなるのはとてもイヤ。それで、周囲に気を配ることになる。
この分け隔てなく公平に付き合うことがいかに大変か。風見鶏みたいに思われないように振る舞うことがどんなに難しいか。
この気苦労のため、いつも帰宅すると玄関で乱暴に靴を脱ぎ捨て、そのまま階段を駆け上がり、脇目も振らず自分の部屋へ直行する。ドアを開けるや否や鞄を床に放り投げ、気が張ってクタクタの身体をベッドにダイブさせ、盛大にため息を吐く。
制服のシワなんか気にしない。ベッドのスプリングが生意気に押し返してくるけど、そんなフカフカ攻撃はやめて欲しい。もうこのまま布団ごとマットレスの中へめり込みたい気分なんだから。
ベッドの横でパンダのぬいぐるみが『おつかれー』と私を迎える。その隣でクマのぬいぐるみが『人気者は辛いわよね』と私を慰める。
よしよし、いい子だ。ご褒美に抱いて進ぜよう。
しかし、従順なぬいぐるみと一緒に、ぐたーっとするのも束の間。やるべきことはやる。そう、学生の本分を尽くすのだ。
――VRMMOのゲームのために。
まずは、手早く着替えて、ちゃっちゃか宿題を片付ける。
夕食を――企業戦士なら可能だと思うが――5分以内で済ませ、箸をくわえたままの呆れ顔を向ける母親を置き去りにして部屋に舞い戻り、次は電子データの嵐の中へ。
スマホに溢れる友達からのメールやらSNSのメッセージを流れ作業のように手早く処理して、スルーしていないことをざっと確認した後、短めのため息をつきながら端末の電源をオフ。
今日はこれで店じまい。もう既読拒否。おっと、忘れるところだった。目覚ましをセット。
そして、ベッドの上に仰向けに倒れ、近くにある流線型のVRゲーム用ヘッドギアに手を伸ばし、いつものようにしっかり装着して、いざVRMMOの世界へゴー。
VRMMO。今更ながら書くと、Virtual Reality Massively Multiplayer Onlineの略。
ずっと前から異世界物のVRMMORPG「アール・ドゥ・レペ」にはまっていて、私は今いるリアルな世界から決別し、このバーチャルな世界にダイブする。
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