第4話 ワタクシって一体……
シオンが御代わりを持ってきてくれたので、ワタクシそれを飲もうとしたのですが、最初の一杯目ほど緊急性を感じませんでしたので、
「ねえシオン、お願いできる?」
試しにそうお願いしてみたのです。だって……何かしら……こうより美味しい気がしませんか? 美少女の口移しですよ?
…………あれでしょうか? 紅華の記憶が戻って潤いの無かった生活を思い出したのが悪かったのでしょうか? イケメンが無理ならせめて美少女でもとそんな気分でしたの。ワタクシ……やはり女性もイケル口なのでしょうか?
おかしいですわ……紅華の時は素敵な殿方に飢えていた気がするのですけど、ベニカに生まれ変わってから、まだ見ぬ理想の殿方への憧れは有るのですけどそれほど殿方に飢えておりませんわ……若いから? ……いえまあ確かに13歳で殿方に飢えていては将来が少し心配ですものね。
「お嬢様、御戯れを、揶揄わないでくださいまし」
それにシオンへのお願いも、そう言って拒否されてしまいました。なんだか本当に残念ですわ。シオンはこうワタクシよりもお姉さんなんですけど一々反応が初々しくて、とても可愛いいんです。ツイツイ弄りたくなってきます……もしかしなくてもワタクシ、Sなのでしょうか?
恥じらって赤くなるシオンを見ていると、苛虐心が刺激されて、もっと困らせて見たくなりますわ、可愛く悶えるのを想像すると何だか滾ってきます。
……ヤバいですわ、いえこんなはしたない言葉を使ってはダメなのですけど、ヤバいです……ワタクシ間違いなくSですわ!
悪役令嬢でSとかもうバットエンド一直線です。ザマァ待ったなしですわ。いけません……なんてことでしょう。この性癖は矯正致しませんと絶対に不味いことになります。
何故なのでしょうか? 紅華だった時にはこんな性癖は……無かった? うーーん、イラストレーターの後輩を張り倒したりしてましたが興奮はしてなかったですわね……ベニカになってから獲得した性癖でしょうか? ワタクシ、13歳ですわよね? この年齢でこれは本当に不味いですわ。こちらの両親の何方から変な性癖を引き継いでしまったのでしょうか?
うーん、どちらでしょうか? お父様もお母様も釣り目なんですよね……SとSでもう逃れようのないSの可能性は有りますけど……いえ、お母様の方がお父様をお尻に敷かれている様な……
ああ、ダメですわ、変な方向に思考が脱線してます! 兎に角、侍女を揶揄って楽しむのは、可能な限り控えませんと変な道にズブズブ進んで行きそうな嫌な予感がします。
……確か第二弾ではワタクシ女王様な面もありましたわね? イラストレーターの後輩の描いたボンテージファッションがもう嫌になる位嵌ってました……もうどうしょうもなく女王様でしたわ。ワタクシ自分でも思います。そう見た目的に、Sの女王様が違和感なく似合うと……
心を入れ替えなくてはなりませんね、ええ、Sはダメ絶対! けど……クララったら、恥ずかしがるシオンや残念そうなワタクシを見てクスクス笑ってますのよ? 酷いと思いませんか? そうですわね彼女も、こう恥じらった顔をがとても似合いそう……
「まあ……残念ですわ……ではクララ、お願いできますか?」
あれ? ワタクシ今なんて? ……ダメですわ、ちょっと想像しただけでクララが、顔を赤らめて恥じらう姿を想像して興奮してきます。これワタクシ本当に不味いですわ!!
けどクララはスッと表情を消して、
「お嬢様、御戯れが過ぎますと、御母上様にご報告しなければなりませんが、よろしゅうございますか?」
そう冷たくあしらわれてしまいました。少しゾクゾクします。クララはもしかしなくてもSですわ。ええ、同類なので分かります。そしてワタクシ…………残念ながらMの気も有りますわ! 非常に残念なお知らせ過ぎますわ。貴族ってもしかして皆、倒錯した性癖の持ち主ばかりなのでしょうか?
ああ、ワタクシ、折角美少女に転生いたしましたのに! 齢13歳にしてSとM両方目覚めてますわ!!
……何なんですこの仕打ち! イケメンに走ればギロチン、美少女もイケル口で、更にSでMだなんてアブノーマル過ぎますわ! 見た目こんなに美少女なのに!! しかも自分で想像したらSもMも両方抜群に似合いますわ!!
いえ諦めてはダメよベニカ、貴方はやればできる子よ! 変な性癖は矯正して真っ当に清く正しく生きてザマァ展開とはオサラバするのよ!!
暗澹たる気分でしたが、仕方ないので大人しくチュウチュウとその果実ジュースを吸っておりました。本当に美味しいですわ。今はこの果実ジュースだけが心の癒しです。
すると部屋の扉がコンコンと軽くノックされます。ワタクシが何か言うより先に、クララが、
「どうぞお入りください」
そう返事をします。昔から侍女が部屋に居る場合そうなのですけど、ノックに答えるのは侍女の役目。また彼女達が部屋に入る時もノックはしますが返事を聞かずに部屋に入ってきます。
なんなのでしょうね? ワタクシは今までこれが当然だと思って過ごしてきましたが、紅華の記憶がそれはおかしいと告げます。ワタクシの部屋なのに、ワタクシに入室に関する権限が全くありませんわ。不思議ですわ……他の貴族の子女はどうなのでしょうか?
これではワタクシ個人のプライベートが一切ない気がするのですけど……
けど……お風呂は侍女と一緒で全て侍女が洗ってくれてますし、御着替えも当然侍女任せ、御トイレは、最近は流石にワタクシが……あれ? ココの御トイレはウォシュレットですわ!! いえ、そんなのは当たりまえ……紅華の記憶が凄い違和感を感じてますわね。
前世にもあったウォシュレットが今世にもある。しかし、よく考えたら中世ファンタジーな世界ですわよね? 何でウォシュレット? 魔法? ああ、そうか魔法ですわね。便利ですわね魔法! 魔道具って奴ですわね。
そんな素っ頓狂な事をワタクシが考えている間に、扉が開いて優しそうな目をしたおばあさんが三人の侍女と共に部屋に入って着ます。
『大地母神』の神官服を着たその方とワタクシはもうすっかり顔馴染み、昔からお世話なっている主治医で『大地母神』高司祭のコーデリア様ですわ。
「ふむ、ベニカお嬢様、目が覚めた様だね」
コーデリア様は優しく声をかけて下さいます。生まれた時からのお付き合いなので、本当の御婆様よりも良く会う、ワタクシの御婆様代わり。
「ハイ、コーデリア様、ご心配をおかけし、申し訳ございません」
ベットの上から挨拶を返しました。コーデリア様がいらっしゃる時は、何時も大体ワタクシが体調を崩したときですので、このパターンが多いですわ。失礼だとは思うのですがコーデリア様もそれで良いと仰るので甘えさせて貰っております。
「ふふ、まあ気にすることは無い、うん、顔色も良い様だね、ん、脈も良い。少し空腹で貧血気味だったが栄養薬が効いたかねえ? どうだいその薬は? 飲みやすいだろ?」
コーデリア様がワタクシの手を取って、脈を見ながら尋ねてきます。
「ええ、とっても美味しいですわ」
アレは栄養薬でしたのね。それででしょうか? 少ない量なのに何だかお腹が一杯ですわ。
「『診断』でもこれといって悪いところは無いんだが? ベニカお嬢様、あんたダイエットでもしてたのかい?」
コーデリア様が少し咎めるような視線で御尋ねになられます。いえ、しかし、本当の事を話してもどう説明すれば良いのか……最悪精神が混乱していると余計に騒がれそうですわ。まあコーデリア様がお咎めになるのも分かるんですけどね。今コーデリア様に握られている手首なんて本当に細い……これでダイエットなどしていたらあっとゆう間にミイラになってしまいますものね。
「いえ、ちょっと食べる量が足らなかったみたいで……申し訳ございません」
記憶を取り戻したあの一件で、少なくとも一日は何も食べていなかったので嘘ではございませんわ。それにお恥ずかしながら、その後気を失ったのは本当に空腹による低血糖でしたから……紅華の時も、仕事が忙しくて、食べるのを忘れて食事を抜いて偶に倒れてましたからね……飴は必需品でしたわ。ですからあの感覚は覚えがありますわ。
「昔から食が細い所が有るからねえ、しばらくは無理をしてでも少し多目に食べるんだよ、この際贅沢は言わない、お菓子でも良いからね。あんた達もちょっと小まめに間食させる様にしな」
コーデリア様がクララとシオンに向かって指示をしています。ワタクシは別に食事が嫌いではないんですよ? 一度に多く食べれないんです。以前コーデリア様が『ベニカお嬢様は胃が他の者よりも小さいからね。こればっかりは仕方がないねえ』と仰ってました。
「承知致しましたコーデリア様」
クララが侍女を代表して返事をして頭を下げると、他の四人も合わせて頭を下げてます。ううぅ、心苦しいですわ。侍女達は何も悪くありませんのに……
「まあ普通は逆の注意をするんだが、ベニカお嬢様は食が細いからね。これもエルフの血の所為だろう。ベニカお嬢様は少しそれが濃いからね」
あら? エルフの血? 初耳ですわ。ワタクシ、エルフの血を引いてますの? お父様も細身ですし、お母様は華奢ですけど私程では……エルフ? 耳は普通ですけど?
「おや? なんだいベニカお嬢様には言ってなかったのかい? ふむ、もうベニカお嬢様も大きく成られたからね。知らせても構わないだろう」
「コーデリア様、ワタクシ、エルフの血を引いてますの?」
「アシュリー侯爵家には昔から少しエルフの血が流れている。それに御母上殿のご実家の大ディオーレ王国のボードウィン伯爵家もエルフの血が濃い一族だ。ベニカお嬢様は隔世遺伝というか、先祖返りかねえ? エルフの血が濃く表れているんだよ」
そうでしたの? いえワタクシ、そんな設定した覚えが有りませんわ……このイラストから飛び出た様な体形を再現する為には、そんな設定が必要だったって事でしょうか? イラストレーターの後輩の描く女性はみな、華奢なんですよね……
そうですか……まあファンタジーですからエルフ位居るのでしょうね。けど……それなら何故ワタクシ、お胸が豊かなんでしょう?
「コーデリア様、知ってたら教えていただきたいんですけど、エルフって華奢ですよね? お胸の方も慎ましかったのでは? 何故ワタクシは豊かなのでしょうか?」
あのイラストレーターの後輩が巨乳に描かれた所為なのでしょうけど、こちらの世界での理由が気になりますわ。ベニカの記憶でもエルフは余りお胸が豊かでないとなってますから不思議ですわ。
「ふむ、まあね貴族は大体色々な血が混じっているからね。牝牛人族と言う獣人の一族が居るんだけどね。恐らくベニカお嬢様はその血を御母上殿から引いてるんだね。御母上殿も豊かだろう?」
牝牛人族? 聞いたこともございませんわ。ええ、紅華もベニカも全く知りません。この世界の種族なのでしょうか? エルフが居る位なら獣人も居る? 亜人という奴でしょうか? 紅華の記憶でもそんな物を設定した覚えが有りませんわ……
イラストレーターの後輩がご自分の欲望丸出しで無茶な体形にしたために、それを再現するのに色々な設定が足されたのでしょうか? えっと……生まれ変わったワタクシは人間じゃない?
いえ、ちょっと待って、コーデリア様が貴族は色々な血が混じっていると仰ってましたわ。紅華の知識ですと、貴族は純粋な血に拘る者とされてますけど……この世界では違う?
はっ!! 思い出しましたわ、乙女ゲーのイケメンさん達! 彼等イラストだしファンタジーだってことで、髪の毛の色から目の色まで、人間ではあり得ない色を多く使って描かれてました! もしかしてそれを再現する為の設定? えっ? って事はあんな髪の色のイケメンが実際に居るって事でしょうか! 見たいですわ! 是非見てみたいです!
あれ? でも待って下さい。クララはプラチナブロンドですけど、そもそもシオンは銀髪、それに他の侍女も、チェーンは栗色よりも少し赤いですけど……アレはお洒落で染めている訳でなく地毛? ハンナも黒と言うよりも濃紺色に近いですけどアレも、もしかして地毛? アニスの普通の金髪に心癒されますわ……
いやいやちょっと待って下さい、侍女達は瞳の色もそうですわ、あれもしかしてお洒落なカラーコンタクトで無くて素ですか? クララの瞳は……水色って、まあ碧眼と言えなくはない? シオンの瞳は鮮やか過ぎる気もしますが緑眼? けどチェーンは赤いですわよ? ハンナの金色とか素でありえますの? いえ……虎とかそうでしたっけ? アニスなんて青と緑で左右違いますがあれも素?
ワタクシ、見慣れた所為もあるし今まで不思議に思ってなかったのですけど……改めて見ると私の周り人間が居ませんわ!! 紅華の記憶も周りの美少女っぷりに目が奪われて違和感を感じてませんでしたわ!!
「あのコーデリア様、もしかして侍女たちを含めて、貴族って純粋な人族って居ませんの?」
「そうだね、貴族にそんなものは居ないね。侍女も騎士階級だからね見ればわかると思うが色々混じってるね」
「はぁ、そうなんですね……貴族っていったい何なのでしょうか?」
「ベニカお嬢様がそれを言うのかい? 貴族とは『高貴なる義務を負いし気高く美しい者』だよ。民を導き護る義務を負う、美しき人々。それが貴族さ。ベニカお嬢様は美しさは満点なんだから。後は自らを高めて、淑女に相応しい能力を身に付ける事だね」
何でしょうか……もしかしてワタクシの知らない第三弾の設定なのでしょうか? それとも人間離れしたイラストの中の世界を再現した結果? ベニカの記憶でも貴族の説明は似たような事を言われたような気がします。しかし、人じゃなかったとは……ファンタジー設定が万能すぎた結果でしょうか?
この世界、色々おかしいですわ。ワタクシ、人間じゃありませんでした。ビックリです! いやまあこんな体形の人間なんて居ないって言われたらそうなんでしょうけど、世の中広いでしょ? こんな美少女も中には居るのだと思ったんですけど……
イラストの世界を忠実再現しようとし過ぎてませんか? もしかしてVRMMO? まあ味や触感まで再現する、こんなリアルなのは聞いたことがありませんけどね……ワタクシ、他にどんな設定しましたっけ? ちょっと怖くなってきましたわ。
この世界って、ゲームの設定を無理やり再現しようと、無茶苦茶なカオスになっている気がするのですけど気のせいでしょうか? ワタクシ、こんな世界で本当にギロチンルート回避できますの? ザマァまで無理やり再現しようとしてないですよね? 不安です! とても不安ですわ!