表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/22

第2話 もしかしてギロチン? もしかしてドジっ子?

 あれ? 何で鏡の中の悪役令嬢が……そう思った瞬間、強烈な眩暈に襲われる……

 世界がグルグル回り、視界がぐにゃりと溶けていく……


(視界が……あれ? やっぱり昨日飲み過ぎ……)


 その時記憶に有るのはここまで……後から知ったのですけど、この時、ワタクシは突然気を失って倒れてしまったそうですわ。

 侍女達には大分心配をかけてしまったようで、直ぐに彼女達の手によってベットに戻されたワタクシは、お医者様が診察に訪れても目覚めないまま、それから一日寝ていたようですわ。


 そして翌日、再び目覚めた時、ワタクシは、衛宮 紅華としての34年間の記憶と、イザベラ・ベニカ・フォン・アシュリーとしての13年間の記憶、両方を覚えていましたの……


 そう間違いなくワタクシは紅華です。なのにベニカでもある。お嬢様として育てられてきた13年間の記憶が、知識がある。紅華としての記憶が今のワタクシの口調をとても恥ずかしく思っている。しかし、ワタクシはアシュリー侯爵家の令嬢。すこし粗暴な言動は、たとえ脳内ででも致しかねますわ。


 そう淑女として教育されてますもの……ただ紅華も間違いなくワタクシ。そしてその知識から、今のワタクシの状態を正確に推察できます。ワタクシは、ワタクシが作っていた乙女ゲームの世界へ、しかも悪役令嬢に転生いたしました様ですわ。


 そう、紅華と一つになってハッキリとわかります。ベニカは悪役令嬢、主人公の女の子に意地悪をする高飛車なお嬢様……


 とても、とても悲しい気分になります。


(ワタクシは……悪? 美少女、そうワタクシは今のワタクシが嫌いではないですわ。なのに……)


 紅華の記憶にあるワタクシ、悪役令嬢としてのワタクシはそう作られてます。何故紅華と同じベニカなのかも記憶に有ります。



 イラストレーターの後輩の描いたワタクシのちょっと釣り目なキャラクター設定イラスト。それを見たシナリオライターの後輩が、


「このイラストの悪役令嬢、ちょっと目元が先輩に似てますよね? ほら若干釣り目なあたりが」


そう指摘する。そうでしょうか? 確かに紅華は少し釣り目、出来る女風、実際に紅華は仕事が出来てましたからね。下手な男性社員よりもよっぽど。

 今のワタクシには分かります。彼女の負けん気、新入社員の時、綺麗なだけのマスコットの様に扱われ、それが嫌で仕事を覚え実力を示しても、女性と言うだけで不当に低くみられる男社会……負けない様に気を張っている内に社内の男性から嫌煙されて……


 ワタクシの釣り目は如何でしょうか? 出来る女風では有りませんわね。単なる気の強そうな性格のキツイ感じに見えるだけの釣り目……


「そう? そうかな?」


「そうだ、名前なんですけどね、イザベラ・フォン・アシュリーだったんですけど、ちょっとこう侯爵令嬢としては押しが弱い気がするんです」


「そう? イザベラってのがこう、悪役令嬢っぽくて良いと思うけど」


「だからそれは残してイザベラ・ベニカ・フォン・アシュリーってのは如何でしょうか先輩」


「えっ!! 私、悪役令嬢なの!」


「違いますよ先輩、そうじゃないんです。だってこの乙女ゲーは先輩の作品でしょ?」


「まあ私達の作品ね」


「ふふ、先輩らしい、けどそう、この乙女ゲーは私達の作品ですけど、主人公ちゃんは、各ユーザーの分身、そうですよね?」


「そうね、だって乙女ゲーだからね」


「イケメンヒーローたちは、乙女の憧れ、ユーザー達みんなの彼氏」


「そうよ、ユーザーの乙女をメロメロに出来る粒ぞろいよ」


「だからそこに私達の痕跡が残せないんです。主人公とイケメンはユーザーの為、けど……悪役令嬢は? 彼女になら私達の痕跡を残しても誰にも迷惑が掛からない。この乙女ゲーを作ったのは確かに私達だと痕跡が残せるんです。そう思いませんか?」


「確かにそうだけど……最後にザマァで酷い目に合うのが確定してるのに、それに私の名前は……」


「確かに彼女は悪役令嬢です。けど私達の生み出したキャラクター、いわば私達の娘ですよ? 彼女は……誰からも愛されない。そうユーザー全てから嫌われるんです。同じ私達が生みだした娘なのに……なら、せめて生みだした私達位は彼女を愛せませんか?」


「随分と……まあ貴方は昔からそうよね、生みだしたキャラクターに恋が出来る。そう貴方の生みだしたキャラクターは生きているのよね」


「私だけじゃあありませんよ。だって、このイラスト、見てください。こんなに可愛い、こんなに綺麗、それに何だか魅力的。どう見ても悪役令嬢ですけど、けど何だか……」


「そうね、何だか憎めない感じよね」


「主人公が嫌いなのにも理由があるんです。彼女にだって色々理由が合って、それで主人公と敵対しているんです。彼女は侯爵令嬢、子爵家の令嬢である主人公とは身分が違う。彼女は美しく高貴、そして主人公が来るまではイケメン達と仲良くしていた」


「そうね、主人公が田舎の領地から首都のお屋敷に社交界にデビューする為にやってきて物語が始まるのよね」


「そう、主人公は立派な淑女になる、その教養の一環として、魔法を習いに魔法学園に入学します。そこで様々な同級生や先輩、後輩なんかのイケメンと出会うんです」


「主人公は一生懸命頑張って、学園生活を色々苦労しながら過ごしていく、そして彼女の直向に努力する姿、彼女の優しさにイケメン達が徐々に心惹かれていく、王道だけど、王道だけに外れが無いわ」


「では悪役令嬢の彼女は? 彼女は主人公が転入した時には、既に魔法学園でもトップクラスの成績を収める才媛。イケメン達とも交流がある。それにイケメンの一人は彼女の婚約者でもある第三王子。そんなこの世の春を謳歌していた彼女の世界が、主人公が現れたことにより崩壊するんです」


「キツイ性格で、少し気位が高くて高飛車な彼女より、純朴で優しい主人公に心惹かれる。それに主人公は磨けば光る美少女だものね」


「彼女は侯爵令嬢、その誇りと矜持を持って生まれた時から教育されてます。見っとも無い真似なんてできません。けどそれは周りからは高飛車に見えてしまう。彼女は主人公に優しくありません。主人公に協力しません。主人公と校内対戦で試合した際に、主人公を容赦なく打倒します。負けた主人公に手を差し伸べる事さえしません」


「高飛車に見えるってか実際に嫌なタカビー女よね」


「第三王子ルートを選んだ場合、直向な努力をする主人公、そんな主人公を冷たくあしらう悪役令嬢、そんな姿をみて第三王子は悪役令嬢との婚約を破棄します。そして今度は主人公と婚約」


「そうここで常に上から見下す悪役令嬢にザマァって所なんだけど……」


「直後に悪役令嬢は今度は第二王子と婚約します」


「ザマァ直前で大逆転されて更に主人公は見下されるのよね」


「この第二王子は、とても優秀で人気は有るのだけど、優秀過ぎる……温和で弱腰な公王、人が良いだけで凡庸な第一王子に対してクーデターを仕掛けます。名門貴族のアシュリー侯爵家の後ろ盾を得たことでチャンスと見たのでしょうね」


「公王と第一王子は殺されるけど、主人公と第三王子はその他のイケメンの協力を得て、この第二王子を打倒する。そして第三王子は公王に、主人公は王妃に、悪役令嬢はクーデター派の一味としてギロチンで処刑される怒涛のザマァ展開!!」


「けど先輩、クーデターは本当に悪でしょうか? 国のトップたるに相応しくない人間が二代続けて就くことで公国は弱体化しませんか? それを嫌ってクーデターを起した第二王子は悪ですか? それに悪役令嬢は、只の婚約者、まあアシュリー侯爵家がクーデターに加担したので罪は免れませんが、果たして彼女は処刑される罪を犯してますか?」


「今までの積み重ね? あとやっぱり有力貴族で婚約者の彼女を生かしておいては後の禍の元になるから?」


「そうですね、そんな理由で彼女は処刑されます。しかし彼女は一切命乞いをしません。彼女の矜持がそれを許しません。彼女は侯爵家の令嬢として、また第二王子の婚約者として堂々と処刑されています。主人公に対してもそうですけど、彼女は陰湿な虐めは一切していません。常に上から、正々堂々と主人公を圧倒する壁として主人公に立ち塞がっています。彼女に忖度して主人公のクラスメイトなどが陰湿な虐めをすることがありますが彼女はそれに一切関与してません。そんなはしたない真似は彼女の矜持が許しません」


「そうなのよね、すっごいタカビーだけど、それだけにせこい事は一切しないのよね」


「彼女は主人公の事が気に喰わない、当然でしょうね、婚約者や中の良いイケメンを主人公に全部取られてしまう。しかし彼女はその事を主人公に口に出して何か言ったことは有りません。常に上から、そう決して侯爵令嬢としての矜持を失うことなく、何があっても主人公を受け入れないだけ」


「試合で主人公に容赦なかったのは?」


「試合ですからね、手加減をする方が変だと思いませんか? 試合後もそうです。主人公の仲間じゃありません。寧ろ嫌ってるんです。圧勝した相手に手を差し伸べる? 敗者に哀れみを与えるんですか?」


「なる程ね、貴方の中の彼女は常に侯爵令嬢として堂々と、主人公に立ち塞がる壁なのね。愛すべき頑固者、婚約者を取られても嫌味すら言わない」


「そうです彼女は常に侯爵令嬢として振舞います。先輩に似ていませんか? 常に堂々としているところが特に先輩と似ています」


「私はタカビーじゃないわよ?」


「先輩、彼女は高飛車なのではなく、実際に高嶺の華なんです。侯爵令嬢ですよ? それに相応しく気高く堂々と振舞っているだけ、見下しているのではなく、他が低い位置にいるだけなんです。そして彼女は侯爵令嬢として視線を合わせるために、自らの位置を下げる事はしない」


「孤高ってことかしら?」


「ね? 先輩そっくりでしょ? 女性なのにプロジェクトリーダーで常に堂々と、そして孤高に振舞う。先輩そっくりじゃないですか」


「…………もしかしてモデルが私なの?」


「モデルと言うかイメージですね。だから彼女に先輩の名前を入れてイザベラ・ベニカ・フォン・アシュリー、ダメですか先輩」


 そう、ワタクシは後輩に押し切られる形で、ワタクシにワタクシの名前を入れる事を承諾したのでしたわね。後輩は何時もそう、常に人物を掘り下げて考察してキャラクターを作って行く。イケメンもそう、キャラクターに深みがある。その時キャラクターが何を感じ何を思って行動するのか、それを良く彼女と話し合ったのを覚えていますわ。そんな彼女の生み出したイケメンは大人気。其々のキャラクターに熱心なファンが付いていましたね……


 あれ? ワタクシ、今、何か重要な事を思い出しましたよね?


 ベニカの名前を付けた理由の中で……


 ギロチンで処刑!!! えええっ! ワタクシ、ギロチンで処刑されますの!?! 待って下さい、ワタクシ転生して、そして記憶を取り戻したばっかりですのよ? なんで処刑……いや、違います、それ以外にも色々ザマァな展開が……


 オホンッ! 確かに後輩の言う通り、ワタクシは侯爵令嬢! 矜持がございます…………でもギロチンはイヤですわ! 狒々ジジイの所にお嫁に行くのもご遠慮申し上げますわ! 前世から合わせて47年間守り通した処女をそんな殿方に差し出せと?


 何の拷問なのでしょうか? ワタクシ何か悪い事しましたか?


 けどちょっと待って下さいまし……乙女ゲーでのワタクシの年齢設定は16歳、今のワタクシの年齢は13歳…………まだ時間はある?


 第三王子とはまだ会ったことがございませんが、婚約が内定したとか先日お父様から聞きましたわ……これ、お断り出来ないのかしら? 婚約破棄されなければギロチンルートには進みませんでしょ?


 ああ、どうしましょう……そう言えばその他のイケメンさんともお会いしたことがございませんわ……魔法学園に入学するのは来年でしたわね? そこで知り合うのでしょうか? そう言えばワタクシ、社交界のデビューもまだでしたわね?


 ああ、イラストではない現実のイケメンさん達! 是非お会いしたいですわ。でも……ザマァされてしまうんですよね? うぅぅぅ、何故ですの!


 そもそもこのワタクシは第一弾の乙女ゲーのワタクシなのでしょうか? 第二弾のソシャゲーのワタクシなのでしょうか?


 あれ? ……何でしょうか頭がクラクラしてきましたわ……何でしょうか? また気を失う……


クウゥゥゥ


 んん? あら? そう言えばワタクシ何時からご飯を食べていないのかしら? あ……これは不味いですわ、低血糖です、お腹が空いてるのに頭を使ったから? えっと……お胸に栄養を蓄えてあるから大丈夫? ああ……折角のお胸が萎むのは……余計なことを考えると益々頭が……


「あの……誰か居ませんか? 何か食べ物を……」


 ああ……お腹が空き過ぎて大きな声が出ませんわ……


「お嬢様? ああっ!! お嬢様ぁぁ!! お嬢様がお目覚めですわ、誰か早くお医者様を!!」


 ああ、良かった侍女が気が付いてくれましたわ。


「シオン、すみません、お腹が空き過ぎて頭がクラクラします。何か甘いモノを……」


「お嬢様ぁぁ、ようございました、御倒れになった時はどうしようかと、本当に……本当に……」


「心配かけましたねシオン、あのシオン、そんなに揺らさないで……」


「ああぁぁ、お嬢様ぁぁ!!」


「お願いシオン話を聞いて……本当にもう限界なの……何か……甘いも……」


「お嬢様? ああ……お嬢様ぁぁ!」


 そしてワタクシは又意識を失ってしまいましたわ……第二弾はドジっ子要素が加わりましたが……もしかしてそれでしょうか?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ