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その者、異世界で伝説のパパになる  作者: 稲荷竜
一章 樹海の少女ユメ
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4話

 家へ続くなだらかな坂道を降りて水路に着けば、ほどなくして小舟(ゴンドラ)をつかまえることができた。

 陽気な船頭は親子ほど――実際には十歳差ぐらいだろうから、親子というよりも兄妹ほどに年齢の離れた、人間男性と獣人女性の組み合わせを見ても、特に気にした素振りもなく船へ迎え入れた。


 この街には様々な人種が住んでいる。

 見た目異なる人種に血縁関係があったとしても、あるいは血縁関係のない家族だったとしても、それは珍しいことではないのだ。



「ようこそ、『紺碧の水面社』のゴンドラへ! 快適で楽しい水の旅をお楽しみください!」



 青白ボーダーのシャツをまとった船頭が、頭にかぶっていた網笠をとりながら仰々しくお辞儀をした。

 ほおひげの生えた三十歳ぐらいであろう船頭の、オールを握る腕は太く、船尾近くに立つ姿勢は美しく安定している。

 水の都での暮らしが長ければ、その立ち姿だけで見事な操船技術の持ち主だと感じることができるだろう。



「開拓者ギルドまで」



 そう言いながら、まずは彼が小舟に乗りこむ。

 それから、彼は陸路に立つユメへと手を差し出した。



「つかまれ。小舟に乗るのは、初めてだとちょっと怖いだろ?」



 小舟と陸地のあいだには、そこそこ広い溝がある。

 船頭の腕がいいので、その溝は普通より狭いけれど、まだ体の小さなユメには恐ろしい(うろ)に見えることだろう。


 でも、彼が差し出した手をとったユメは、恐れを忘れることができたようだ。

 はにかむような顔を浮かべると、ぴょん、と身軽に小舟に飛び移る。



「わ、ゆ、揺れますね……」

「最初は酔うかもしれないから、なるべく遠くを見たほうがいい」

「わかりました」



 船頭はそのやりとりに温かなものを感じ取ったのか、にこりと笑う。

 小舟は静かに発進した。


 船頭の口から語られるのは、街を駆け巡る様々な情報だ。

 一日中街をすみからすみまで移動する船頭たちは情報通で、彼らの話は多くの者にとって有益なニュースソースとなっている。


 どのニュースを多く語るかは、船頭の性格によるだろう。

 今回の船頭は、乗客の職業に合わせて語る内容を選ぶタイプらしい。



「そういえばお客さん、ご存じですか? この街を代表する開拓者団、水竜兵団(ナーガ・レギオン)が新人団員を募集しているとか! 水竜兵団と言えば精鋭揃いで有名だ。『樹海』エリアの開拓がうまくいって、より活動範囲を広げるつもりなのか? 先ごろ先発隊が(みやこ)に戻ったので、交代人員の確保ということか!? 街には『我こそ水竜兵団の新たなる期待の星だ』と意気をあげる若き開拓者があふれ出す! たぎる彼らの熱き血潮が、水の都に熱を帯びさせる! よし、この気持ちをこめて歌いましょう!」



 船頭はこのように、みな、勝手にしゃべり、勝手に盛り上がり、勝手に歌い出す。

 一人の船頭が歌い出すと、周囲にいる船頭も釣られたように合唱をし出すものだから、水路にはいつでもだいたい歌声があふれている。

 最初は彼もこの不可思議な現象に面食らったようだが――



「まあ、そういうこともある」



 持ち前の適応力であっというまに受け入れ、今では腕を組んで耳をかたむける余裕さえあった。

 もっと戸惑え。

 真横でびっくりした顔をしてキョロキョロしているユメぐらいには戸惑え。

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