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その者、異世界で伝説のパパになる  作者: 稲荷竜
一章 樹海の少女ユメ
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19話

「情報が漏れていた? ……おかしいな。どこから漏れたんだろうね?」



 信頼というものについてのお話だ。


 つい先ほど、銃使いの少年に襲撃された。


 あの銃使いの少年は明らかにユメのスキルのことを知っていて、ユメのスキルについて知る者はそう多くない。


 彼は知っている。

 今は、彼の横で茶色い革張りのソファに座る、リナルドも、そう。

 もちろん、彼を挟んでリナルドと反対に座る、ユメも、知っている。


 あと、ユメのスキルについて知っている者は――


 今は一人になってしまった樹海集落の生き残りたる戦士。

 それから、ギルド長の駄乳エルフ。


 今挙げた中で、『銃使いの少年にユメのスキルを漏らした犯人』としてこの女を最有力容疑者と思うのは、なにも私が彼女を嫌っているからというだけが理由ではないはずだ。

 でも、彼らの見解は違うらしい。



「ユメのスキルについては、樹海集落のほうでも測定ができたらしい。そこから漏れた線が考えられる」



 この発言は彼のものだった

 傍観者的立場で彼らの会話を聞いている私は、あきれていいやら、怒っていいやら。


 まあたしかに、そういう可能性もないではないけどさあ。

 あの駄乳エルフが最有力容疑者なのは変わらないんだし、一発殴ってから処遇を決めない?

 やっちまえよ。



「ふぅん、なるほどね。そういう可能性もある……ま、でもさ、いいんじゃないか? 漏れたら漏れたで」



 あの女はやっぱり一発殴ったほうがいいと思う。

 しかし、どうにも彼女には彼女なりの考えというか、哲学みたいなものがあるらしい。



「そもそも、情報なんてもんはいつどこで抜かれるかわからないしね。いくら慎重に扱ったって、『絶対に秘密を守り通すこと』なんてできないのさ。だから私の側から漏れた可能性だって、否定はしないほうがいいよ」

「でも、ギルド長はユメのスキルについて誰にも話してないんだろ?」

「話してないさ。しかし漏れかたなんか考え出したらキリがない! このギルドで使っているスキル測定器の情報が、なんらかの方法で本部にも送信される仕組みがあるかもしれない。君があずかっているスキルシートを、なんらかの方法で盗み見る方法だってあるかもしれない。……この世界には『スキル』があり、『スキル』の中には『ユニークスキル』なんてものもあるんだ。君やユメちゃんみたいにめちゃくちゃな能力を、君らしか持っていないと考えるのは、ちょっと傲慢だよ」

「なるほど」

「私が君たちのスキルを秘密にしているように、他のギルド支部長が同じことをしていない保証はどこにもない。ヒトの持ちうる力ならば、それはどんなヒトでも持つ可能性がある。ヒトの抱える欠陥ならば、ヒトの作った社会は抱えている可能性が高い。……あー面倒くさい。こういうのの原因を考えるのは無為に感じるね」

「じゃあ、どういう行為が有益なんだ?」

「それはもちろん、『情報が漏れている』っていう確定情報をもとに、今後の対策を練ることだよ。そして対策を練るには方針が必要さ。『君らはどうしたいか?』――それを考えようじゃないか」

「俺たちが、どうしたいか」

「……おいおい、君は頭が回らないほうじゃあないだろう? 私の言わんとしていること、わかると思うけどね」



 駄乳エルフはあくびをしながら言った。

 彼は――



「『ユメを狙う組織』がどうにも存在している様子だ。だから、俺たちはこの組織にどう対応するかを考えなければならない」

「そうそう。相手が『謎の組織』の場合、まずは二種類の行動が考えられる。『情報収集』――これはどちらかと言えば『攻め』の姿勢だね。そして『逃亡』――守りの姿勢だ。どちらか片一方をやるのではなく、複合的に、どちらを優先するかを考える必要があるだろう」

「情報収集だな」

「君は攻めるのに迷いがないねえ」

「相手が俺とユメだけに狙いを絞る保証がない。それに、希望的観測も入るかもしれないけど、相手はたぶん、大きな組織じゃないと思うし、組織だった動きもしないと思う。逃げるよりは、正体をつかんで叩いたほうがいい」

「理由は?」

「俺たちを襲った『黒ずくめの少年』の性格から、なんとなくそう思った」

「……まあ、君が確信してるならいいけどね。君とその子の問題だし」

「たぶん、敵対する組織は全員『ユニークスキル』を保持してると思う」

「それも『黒ずくめの少年』の性格から?」

「そうだ。あいつはたぶん……ユニークスキルを持っていない相手とは組まないと思う」



 さらに正確に述べるのであれば、『異世界転移者以外とは組まなさそう』となるかな?

 彼は自分やあの銃使いが『異世界転移者』であることまで、駄乳エルフに漏らすつもりはないようだった。


 まあ、彼の考えには一理ある。

 あの銃使い、彼が異世界転移者だとわかった途端に仲間に誘ってきたし――発言内容からも、どうにも『異世界転移者』の組織っぽい気配は見受けられたからね。

 そして――



「ユニークスキル持ちは、そこまで多くない。捜して組織に加われと呼びかけること自体大変だろう。加えて、誘われたユニークスキル持ち全員があの黒ずくめの少年と同じ目的で動きたがるわけでもないと思う」

「なんだっけ、黒ずくめの少年の目的は」

「色々言ってたけど、一言で言えば『英雄になりたい』かな。『伝説。世界を救う、あるいは滅ぼす運命の持ち主。このスキルを保持した者の行く末には、必ず波乱があるであろう』――ユメのユニークスキルで起こる『波乱』を解決していくことで英雄となりたい。そんな主旨の発言をされた」

「しかしユニークスキル持ちだろう? だったら意外と敵組織の構成員は多いかもよ? だって特異な才能の持ち主だったら英雄になりたがってもおかしくないと思うし」

「そう思うヤツもいるだろうけど、中には普通に生活したいヒトだっているはずだ。……むしろ、普通に生活していきたいヒトのほうが多いんじゃないかって、俺は思う」

「それは君自身の願望からそう思うのかい?」

「そうだ」

「ふぅん。……ユニークスキルなんていう『珍しい才能』があれば、英雄になりたいと考えたほうが不思議じゃないと、私は思えるんだけどね。まあ、持たざる者の勘ぐりか」

「……もちろん、情報が少ないからこうやって色々予想するしかない。そういうのもあって、まずは情報を得るのが最優先だと考えている。そのうえで、逃げない。変に知らない場所に行くよりも、この街なら地理もわかるし、それに――仲間も多い」



 彼は横に座るリナルドを見た。

 それまで黙って話の成り行きを見守っていた金髪の男は、魅惑的に口の端をゆがめる。



「そうだな。オレと――たぶん、団長や他のみんなも手を貸してくれると思う。まあ、それでも順番は守って筋は通すべきだし、団長に相談しに樹海エリアに向かう予定だけど……たぶん明日になるかな」

「私に話しに来る前に、方針はすでに定まっていたわけだね」



 ギルド長は肩をすくめた。

 クマのくっきりした目元をこすって――



「いや、老婆心を出してしまったようだ。失礼したね。……それならそれで。君たちにしっかりしてもらうのは助かるよ。なにせ――私たちギルドは、君たちに協力らしい協力はしないのだから」



 それを『意外な決定だ』と思う者は、その場にいなかったようだ。

 ユメがギルド長の操る『街の言葉』をはっきり理解できたら、おどろくぐらいはしたかもしれないけれど。



「情報は漏れる。想像もしなかった方法で。そして実際に、どこからかユメちゃんのユニークスキルのことを知った者がいる。……これらをふまえてなお、私はまだまだユメちゃんの『魔物寄せ』を私の口から発表する気がない。たとえ『ギルド職員にだけ』と範囲を定めたとしてもね。可能な限り黙っておくという方針はまだ一定の効果を出していると考えている」

「俺もそれがいいと思う」

「賛同ありがとう。というか、ユメちゃんのスキルのことを周知させたくないのは、私より君のほうだろうしね」

「知らないヒトが多いほうがいいと思ってるのは、その通りだ。知らないヒトが多いほうが、能力を封じる手段が見つかった時、より普通の生活を送りやすくなる」

「……ま、可能かどうかは、今のところなんとも言えないね。君からもらった『樹海集落の品々』は、今のところ『ゴミ』以外の呼び名が見つからない」

「……」

「その点について、一番情報を握っていそうな相手に話を聞きたいんじゃないか?」



 誰のことかは、すぐにわかった。

 樹海の戦士――の、最後の生き残り。


 誘拐され、殺されかけたその人物。

 もはや残り一人となってしまった、ユメと同郷の者。



「……聞きたいな」

「そうだろうと思った。――君たちの開拓者団(クラン)で治療中なんだろう? そろそろ意識を取り戻しているかもね」

「なんでそう思う?」

「さあ? なんとなくかな」



 ギルド長は肩をすくめた。

 口元に笑みが浮かんでいる。


 ……やっぱりあいつ、一発殴っておいたほうがいい気がするんだよなあ。

 だって明らかに怪しすぎるだろう?

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