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その者、異世界で伝説のパパになる  作者: 稲荷竜
一章 樹海の少女ユメ
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18話

「たぶん、拷問じゃなかった。リナルドの言っていた『無数の針で刺されたようなケガ』は、サブマシンガンっていう武器で撃たれたあとだと思う。つまり――あいつには情報を聞き出す意思はなくて、ただ殺しただけなんだ。……死体撃ちぐらいはやりそうに思えるけど」



 水竜兵団(ナーガ・レギオン)集会所二階には、二人の男と一人の少女がいた。

 彼と、リナルドと、ユメだ。


 銃使いの少年は、捕えられた。

 しばらくは意識不明だろうが――生きている。


 原住民誘拐殺人犯はこうして捕まり、樹海に行く用事のなくなった彼らは、事後処理を開拓者ギルドに任せて――

 いよいよ、彼の抱える秘密を、つまびらかにしようとしているところだ。


 静寂に包まれた集会所二階。

 高級な調度品に囲まれた中には、いかにも座り心地のよさそうなソファも存在する。


 それでも彼らが立ち話をしているのは、なんらかのこだわりがあるのか、あるいは、水竜兵団に所属する者のあいだで感じる暗黙のルールでもあるのか。

 傍観者には察しがたいことだが、そういえば彼らが二階で話し合う時に席に着いている姿を見たことがない。

 まあ、リナルドのほうは、しょっちゅう団長の机に尻をあずけているので、本人たちもなぜ立ち話をしているのかわかっていないのかもしれないけれど。



「その『サブマシンガン』ってのはなんなんだ? あんな武器、見たことがない。それとも希少な魔石を用いた魔導具なのか?」



 リナルドの問いかけに、彼は珍しく逡巡するような間をもたせた。

 けれど、決意したようだ。



「俺は異世界転移者で、こことは異なる世界から、この世界に来た」

「……」

「サブマシンガンをはじめ、あいつの使ってた武器は、俺のもといた世界にあったものだ。能力はまあ、ゲーム由来なんだが……さすがに『ゲーム』についてまで言うと説明が煩雑になりすぎるから勘弁してくれ」

「異世界、ねえ」

「信じなくてもいい。嘘はつかないだけだ」

「……で?」

「ああいう強力で不可思議な力を持ったヤツが、どうやら集団で存在するらしい。そして――そいつらは、明らかにユメを狙っている」

「……で?」

「ユメには『伝説』という名前のユニークスキルがあって、それは『世界を滅ぼす、あるいは救う力』らしい。……それは色々な追加効果があるスキルみたいで、今は『誰かに触られるとモンスターを呼び寄せる』っていう効果が発動中だ」

「……で?」

「俺がユメに触ってるのは、俺に『触った相手のスキルを無効化する能力』があるからだ。これは、神様からもらった『伝説のパパ』っていうスキルの効果の一つで、だから、俺が手をつないでいる限り、ユメを街中で連れ歩ける。そういう許可をギルド長からもらっている」

「つまりギルド長は知ってると。……まあ、当たり前か。スキル測定はギルドでやるもんな」

「そうだ」

「それにしても、異世界、異世界、それに、伝説……」



 リナルドはぶつぶつとなにかをつぶやいていた。


 その時に『彼』が感じている緊張は、私にも伝わってきている。

 ユメの手を握る彼の手に力がこもったのは、傍目からもよくわかった。


 たぶん彼は、おかしなことを言いすぎて変なヒトだと思われそうだとか、そんなことを感じていたんだろう。

 おかしなヒトと思われて――関係が壊れるんじゃないかと、そんなことを。


 でも、それは杞憂だと思う。



「よし、わかった」



 リナルドはパァンと両手を合わせた。

 そして、さぞかし女性によくモテそうな笑みを浮かべて、言う。



「納得した」

「……なににだ?」

「お前の考え方とか、性分とか、そういうのがちょっと……いや、だいぶおかしな理由が、わかった」

「……」

「異世界か。なるほど、異世界だな! ああ、うんうん。言われてみれば確かに異世界って感じだ。いやあ、しっくりくるなあ、異世界」

「……どういう意味だ?」

「お前は自分で思ってるより、変なヤツだってことだ」

「……」

「で、そんな変なお前と、みんな付き合ってるってことだ」

「…………変」

「今さら異世界出身なことが発覚した程度で、お前との付き合い方を変えるヤツなんか、水竜兵団にはいねーよ。大声で吹聴してもいいぐらいだ。それでも、たぶん、なにも変わらない明日が来る。……いや、やらないけどさ。さすがに慎重に取り扱ったほうがいい情報であることぐらいは、わかってるけどさ。それでも、明かしたって問題はねーと断言できる」

「……」

「違和感があるか? 不自然に思えるか? 信じられないか? でもな、普段のお前ならこう言う。『まあ、そういうこともある』ってさ」

「……言いそうだ」

「言いそうだろ!? ……世の中は狭くもなく、決まりきってもいねーもんさ。特に開拓者なんてのは『不思議』との出会いが日常だ。いいじゃねーか。『未開の土地の原住民』も『異世界人』も変わらないよ。最初は色々言うヤツもいるかもしれないけど、一緒に命を懸けてれば、いつかきっと仲間になる」

「……」

「そんで、お前はすでに、一緒に命を懸けた仲間だ。……なにより、お前自身が『異世界出身者の自分』と『故郷を失った元原住民』を同じ存在だと考えてるんだろ? ……樹海の連中に同情してるから助けたいって、言ってたじゃねーか」

「……ああ」

「原住民への保護意識は低いけどさ。オレたちはどうしたって現場で命張る職業だから、『保護』って感覚が気にくわないだけだ。黙って保護をされるだけの原住民なんざ、仲間にできない。でも、命を懸けて一緒に戦うヤツなら別だ。……で、誰より無茶に命を懸けてるお前は、格別なんだよ」

「……俺は水竜兵団にいてもいいのか?」

「そんな心配してたの!? なんで!?」

「……俺の出自のこともあるし、それに……」



 彼は言葉を濁したし、視線も動かさなかった。

 でも、ユメのことだとは、その場にいる全員が――もちろんユメ自身も、わかったことだろう。


 ユメは異世界転移者の集団に狙われている。

 その累がユメを守る彼のみならず、彼の仲間である者たちにも及ばないとは、限らない。


 そして異世界転移者は、強い。

 彼はたしかに銃使いの少年を打倒したけれど、それはおそらく、相手の精神年齢が低く、相手が彼を異世界人だと思い、あなどっていたのが理由だ。


 皮肉にも、異世界転移者が強いのは、彼自身が証明してしまっている。

 もし他の転移者が油断も慢心もせずに、集団で襲いかかってくれば、今回のようにいくかどうかは、わからない。


 ユメには『周りに迷惑をかけたら謝ればいい』みたいなことを言ったものの――

 それは決して、『周囲にかかる迷惑をおもんばからなくていい』っていう意味じゃないんだろうね。


 迷惑はなるべく避けようと事前の努力を欠かさない。

 そのうえでかかる迷惑は、謝罪をしてまわろう、と。


 ……まったく、めんどうくさい男だね。

 変なところで常識的なんだ、彼は。

 具体的には、『自分以外に危険が降りかかるのは嫌がる』って感じなのかな。


 そんな様子を見ていると、ニマニマしてしまうよ。

 奇しくもリナルドも、私と同じ表情だった。



「オレたちは(きず)だらけの人生を生きてる」

「……」

「どうせ失敗はするさ。で、失敗した時のために、仲間がいる。力を貸してくれるのは、親だけじゃない。仲間もだろ?」

「……まったくだ」

「お前は独り立ちした大人かもしれねーけどな。『独り立ち』は『ひとりぼっち』じゃないんだ。……ユメちゃんにも伝えとけよ。言葉が通じないオレの代わりに」



 リナルドは団長の机から尻を上げて、歩き出した。

 一階に戻るようだ。



「お前も来い。ギルド長もまじえてこれからのやり方を話し合う必要がある。……あとさ、お前も異世界転移者ってことは、なんかすげー力を持ってるんだろ? 樹海の戦士とか、サッと治せないもんなの?」

「……この世界の治癒術自体がそこまで便利なものじゃないせいか、一瞬で治すのは無理だ」

「色々あるんだな」

「制約もある。たとえば俺は、今、ヒトを殺せないんだ。ユメを守る戦いでは、絶対に、相手を殺さないですむ」

「……ああ、あの有様はそういうことなのか。……ま、なんにせよ、あの厄介な黒いガキの処遇も決めないとな。アレは――きれい事を言って生かしておいていい存在じゃねー気がする。そもそも意識を取り戻したらすぐに逃げそうだしな」

「もう聞ける情報もなさそうだけど、殺すのはかわいそうだ。治るたびに全身を折るとかいう対策が考えられる」

「それはもう殺してやれよ」



 リナルドは真顔だった。

 彼は無表情だ。


 いつもみたいに、なにを考えているかわからない顔だったけれど――

 まあ、きっと、冗談を言ったのだろう。


 いちおう、変に思われることを恐れる感性はあるみたいだし、冗談だと思う。

 ……冗談だよね?

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