知らない女の子
「誰、この女の子……」
ショックな感情よりも先に混乱した。
スマートフォンの中をのぞき見したわけじゃないのにタイミングで知らされた私の知らなかった“彼の本質”なのか。
どうしていいのかわからなかった私はそっとスマートフォンを伏せた。
いったん頭を整理させてみる。
そして「ここで問い詰めたら知りたくないことを知ってしまう」そんな気がした。
きっとやましい関係なら通知だってオフにするはずだ。
していないということはきっと何もない女の子に決まっている。
彼に限ってそんなことしない。信じよう。
タイミングが良いのか悪いのか彼がお風呂からあがってきた。
私は混乱のあまり勘ぐられないように遠回しに女の子の件について触れてみた。
「さっきスマホ光っていたよ、友達?」
「ああ、友達」
彼は私の顔を見ようともしないでスマートフォンを手に取った。
そして私がお風呂の支度を始めると
「……もしかしてみた?」
背筋が凍った。
「なにが?」
私は目を合わせないようにしてお風呂に向かう。
「この女の人、別に怪しい人じゃないから本当に友達だよ」
顔色一つ変えずに淡々と話す彼に
「連絡取るような女の子の友達いたんだね」
と少し感情をこめて発言してしまう。
「ああ、最近暇だったから暇つぶしアプリで話してて」
私はそこで頭が真っ白になる。
暇だったから?だったら私と連絡取ればいいんじゃないの?
それよりなにより「私にはそっけなくて連絡しないのにほかの女とは連絡とるのか」
ということだった。
「そうなんだ、暇ができてよかったね。最近忙しいと思ってた」
そう残すのが精いっぱいで私は脱衣所の扉を閉めた。
白状したのだからきっと怪しい関係じゃないはず、彼は嘘が下手だからわかる。
でも私の中に残ったのは怒り以外の何者でもなかった。
「私はあなたの飯炊き女ですか…?」
そうぽつりとつぶやいて無意識にナツミのアカウントで同文をつぶやいていた。
ぐるぐると渦巻く感情の中スクロールしたタイムラインの私のつぶやきには「大丈夫?」「彼氏と喧嘩?」など心配されるコメントがくっついてきた。
でも
「今日は仕事遅くまで頑張った!帰って酒飲んでお菓子食べます」
と残された、いつも通りの言葉に少し落ち着きを感じる。
「こんな時間から酒飲んで食べると太るぞ、クソジジイ」
親指がいつも通り悪態をつく。
「こいつはいつも変わんないな」
ぽつっと独り言が漏れた。
自分の中で動いていく日常と、いつもと変わらないダイの日常が摩擦するのがここなのだと感じる。
つまり、彼の存在が意外にも自分の日常に溶け込んでいることに気が付いた。