幸せって…?
「飯、ありがとうな」
その一言が私の心に刺さるようになったのはいつからだろう。怯えながら言葉を待つようになったのはいつからだろう。最初はその言葉も嬉しかったのに、食事の最中
「ニンジンが硬いよな」
とか
「なにこれ、本当に美味しいの?」
とか
「これ好きじゃないからもって帰ってよ」
極め付けには
「いつもあゆの料理はなにかしらダメだよな、完璧じゃないんだよ」
と笑って言われるようになった。私は喧嘩になるのが嫌でいつも「ごめんね、もっと練習するね」と笑って謝っていた。正直私は大学のレポートに追われていて料理を練習する時間をたくさんとることなどできなかった。彼のレポートより多いレポートを会えない時間にこなし、料理を練習する。私は学生なのになにをしているんだろう、と思い始めてきてしまった。
でも自分に言い聞かせる。「みんなきっとこれくらい我慢してるよ、むしろ私なんか我慢が足りないだけなんだ。私は幸せ、幸せ」
胸に痛みを感じながらもそう思えば、私が我慢すれば幸せになれる、周りも認めてくれているし。
そんな生活に慣れてきたころ、私は身体中に発疹がでた。彼に「発疹出ちゃったの。すごく痒くて…」私はレポートに追われて料理をして…という生活のせいで病院に行く暇も見つけられないでいた。「かゆいな、かゆいな…」そう呟きながら家事をしていると彼に「なら早く病院行けばいいだろ?」と突然大声を出されてしまった。私は驚いた。言葉を発せられずにいた。その言葉が胸をぐさっと貫いてしまって物理的に胸が痛む感覚になったからだ。「ごめんね、病院いくね…」私はそれを返すことが精一杯でそのまま彼の家を出たのだった。