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仔豚姫の初恋  作者: 高木一
仔豚姫のお忍びデート
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第二章 お忍びデート <6>

「痩せる茶には見えんな」

「残念です。いくら食べても太らないなんて夢のようなお茶を飲んだと思ったのに……」

「な、何を言う。姫は太ってなどいない! 今のままで十分愛らしく美しい女性だ!」

「レオン様。あの、嬉しいのですが、それはあまりにも嘘くさいです」


 唾を飛ばす勢いで言い募ってくる恋人のしぐさがあまりに胡散臭く見え、素直に喜ぶことができなかった。しかしレオンはそれを不服と思ったのだろう。間髪入れずに反論してきた。


「俺は、嘘は言わないぞ!」

(レオン様ってたまにアンニと似ているのよね)


 いくら恋人が本心から言ってくれていたとしても、自身の体の重さと厚みは認識している。だが、反論は許さんと言わんばかりのレオンの真剣な眼差しに、クレメーヌは笑ってごまかすことにした。


「アハハハ。こ、効能は別としてお茶も美味しかったですよね。お取り寄せとかはできないのですか?」

「申し訳ありません。熱々を召し上がっていただきたいという考えから、シャオスィのお持ち帰りや配達等はお断りしております。茶のほうは当店で出す分のみを仕入れているため、少しだけでしたらお譲りすることも可能ですが……ウェヘ」


 グスタフが眉をさげ、しょんぼりと肩を落とす。それでもなんとか客の要望に応えようと提案してくる店長に、クレメーヌは両手を左右に振った。

「いいえ、いいのです。こちらこそご無理を言ってしまって申し訳ありません」

「とんでもありません。当店の商品を気に入っていただけたようで、商人冥利に尽きますウェヘ」


 ふふふ、と店長と微笑み合っていると、レオンがぶすっとした表情で呟いた。


「シャオスィが食べたくなったらまた来ればいい」

「え、でも……」


 まだ婚約者の身とはいえ、それでも城から簡単に出ることなんてできないだろう。クレメーヌは言葉を濁して、レオンへ瞳で訴える。しかし、彼はそれも承知の上で機会を設けてくれるつもりらしい。深く頷き、満面の笑みを作った。


「また、来よう。約束する」

「はい!」


 夢のようだ。シャオスィを食べられることももちろん嬉しい。だがそれ以上に、レオンとまたデートができると言われ、クレメーヌは天にも昇る気持ちになった。


「ウェッヘッヘ。わたくしもお客様が再び足を運んで下さる日を楽しみにしております。あぁ、お茶のほうでしたらもしかしたらゴルディ商会が仕入れているかもしれませんよ。ウェヘ。何せ、帝国一の商家ですからなウェッヘッヘッヘ」


 グスタフの声にクレメーヌは、レオンと二人っきりの場所ではないことを思い出す。恥ずかしさに顔を熱くさせつつも、平静さを装った。レオンから店長へと視線をずらす。


「そろそろ、出ようか」


 レオンが立ち上がった。


「あ、はい」


 すでに食べ終わっていたからいつ退出しても問題はない。しかし、彼の唐突な提案にクレメーヌは戸惑った。それでも反対する理由がなかったので、言われた通り席を立つ。


「それじゃ、店主。馳走になった。勘定はこれで」


 言うなりレオンは中央に穴がある丸型の銀貨を一枚テーブルへ置いた。少し高価な品が多いゴルディ商会で売られているショコラですら穴のない丸型銀貨一枚で買えるのだから、足りないということはないだろう。しかし、これはさすがに多すぎではないだろうか。クレメーヌがテーブルに置かれた銀貨をまじまじと見つめていると、グスタフが手もみをしながら近づいてくる。


「ウェッヘッヘ。ありがとうございます。少々お待ちください。ただいまお釣りを持って参りますからウェッヘッヘ」


 これ以上ないほど丁寧な動作で銀貨を手にし、踵を返そうとした店長をレオンがとめる。


「いや、釣りはいらん。とても有意義に過ごせた」


 レオンの言葉に一瞬耳を疑ったが、そのあとに続いた『有意義』という言葉に納得した。きっと新しい味覚を帝国に広げようとするグスタフへの祝い金も含まれているのだろう。クレメーヌはレオンの寛大さに惚れ惚れしながら、彼のあとへ続き店を出た。


「ウェッヘッヘッヘ。またのご来店心よりお待ち申しております。ウェヘ」

「ご馳走様でした」


 さっきのやり取りで上客とみなされたようだ。グスタフがわざわざ店の外まで見送りにきた。にこやかな店長とは反対に、レオンは素っ気なく頷く。そして足早に歩き出した。クレメーヌは置いて行かれまいと、グスタフに軽く会釈し、先を歩く彼の後ろ姿を追いかけた。

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