表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仔豚姫の初恋  作者: 高木一
仔豚姫のお忍びデート
35/54

第一章  二人きりの晩餐会 <1>

 お久しぶりです。今さらな感じではありますが、本日(6/1)から続編のような番外編を連載させていただきます。

 今回の番外編は以前、感想欄でシイナ リオ (旧)マグマ フレイムさんから頂いたネタ?『二人のぶらり旅が見たい』がヒントになっております。シイナ リオ (旧)マグマ フレイムさんありがとうございました。そして遅くなって申し訳ありません。旅には行けていないのですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 壁に掛けられている燭台の炎が薄い影を作る。クレメーヌはコツコツと靴音を鳴らし、廊下を進んだ。耳たぶが隠れるほどの大きな真珠のイヤリングが歩くたびに揺れる。まるで恋人との久しぶりの夕食を楽しみにしている自分の気持ちを表しているようだ。クレメーヌはイヤリングが頬を掠めるたびに顔を綻ばせた。


(もうすぐレオン様に会える)


 心を弾ませているうちに、レオンとの待ち合わせの場所へついた。クレメーヌは侍女のアンニを引き連れ、侍従の開けた部屋へ足を踏み入れる。


(レオン様よりも早く席へつけそうだわ)


 食堂に彼の姿がなく安堵する。客人を招待する時に使用される公式の部屋とは違う小さな部屋を見回した。六人の侍女たちが前後に分かれ控えている。小さいとは言っても十分な広さがあった。クレメーヌは淑やかな女性に見えるよう、ゆっくりと足を動かす。


 ミルククッキーのような色をした壁を背に、侍女たちが一斉に頭を垂れる。そんな中、クレメーヌの目を引いたのはテーブルの上にある食べ物だった。


「アンニ、見て! すごいわ! これチーズフォンデュじゃない?」


 部屋に充満する懐かしい香りに、うっとりと両手を重ねる。クレメーヌは上品ぶるのも忘れ、足早にテーブルへ駆け寄った。


「美味しそうな匂い」


 小ぶりな台の上に設置された大きな茶色の深目の容器から、湯気が立ちのぼっていた。火からおろしたばかりなのだろう。クリーム色のチーズがフツフツと気泡を作っている。テーブルの上には、パンや色とりどりの茹で野菜、そして大小さまざまなソーセージが所狭しと並んでいた。目移りしそうなほどの量に、クレメーヌのテンションはさらに跳ねあがる。


「なんて素晴らしいの! 帝国でうちの料理が食べられるなんて思ってもみなかったわ!」


 襟や裾に黒いレースのついたワインレッドのドレスを、ダンスをするように揺らす。


「アンニ、見て! こんなにたくさん。食べきれるかしら」


 公国から唯一連れてきた侍女を振り返る。黒いレースのついたスカートがふわりと広がった。


(チーズフォンデュが食べたいってアンニも言っていたものね)


 グラジスドラゴ帝国皇帝の婚約者候補として、公国を出たのは半年以上も前だ。自分を含め、五人いた候補者たちの中から予想外にも皇帝の婚約者として選ばれてしまった。正式に婚約をしたあとも帰国せずに、与えられた部屋で優雅な生活を送らせてもらっている。今の生活になんの不満もない。婚約者との仲も良好だ。それでも故郷を懐かしむことはあった。

 クレメーヌは自国から共についてきてくれたアンニへにこやかな笑みを向ける。しかし、彼女の愛嬌があるそばかす顔は焦っているようだった。


「ひ、姫様、そんなにはしゃがれますと御髪の花飾りが取れてしまいますよ」


 手を上下させる侍女の姿に、クレメーヌは我に返る。


「あぁごめんなさい、アンニ。だって嬉しかったんですもの」


 綺麗に編み込まれた髪を崩さぬよう、ドレスの共布で作られた薔薇の花飾りへそっと手を伸ばす。


「大丈夫です姫様。まだ取れていません」

「まだって何?」


 それは取れそうだということなのだろうか。クレメーヌは、アンニの返答に首をひねる。するとそこへ楽しげに笑う声が聞こえてきた。


「相も変わらずそなたたちは仲が良いのだな」

「レオン様!」


 グラジスドラゴ帝国の皇帝ラウリヴォルフ・L・ファーモンツァ・フォン・グラジスドラゴが、侍従の開けた扉から悠然と歩いてくる。しかも女装した姿ではなく、きちんとした男性の姿でだ。


(かっこいい)


 レオンは、平均男性より背が低く、女性のような顔立ちをしていることにコンプレックスを抱いているらしい。そのため、出会った当初の彼は影武者を作り、自身は女性の恰好をして婚約者選抜の中に何食わぬ顔で加わっていた。その女装姿はあまりに似合いすぎていて、まったく気づかなかったほどだ。しかしそれも自分との婚約を機に、家臣たちへ正体を明かし始めていると聞いた。披露目のときまでには、皇帝がレオンであると、城で働いているすべての人々に知れ渡っていることだろう。


(これからは普段の恰好をしたレオン様にみんな見惚れちゃうんだろうな)


 クレメーヌはニヤケそうな顔を誤魔化すために、両手でスカートの裾をつまみ深々と頭を下げた。


「そんな堅苦しい挨拶はよい。皆も顔をあげよ」


 レオンの一声で一斉に全員が元の姿に戻る。


(良かった。この挨拶って足がプルプルしちゃって大変なのよね。それにしてもレオン様は女性の姿も麗しいけど、やっぱり男性の姿のほうが凛々しくて素敵だわ)


 クレメーヌは近づいてくるレオンの姿に見惚れた。こちらのドレスと合わせてくれたのだろうか。白いシャツの上から、金糸で縁取られた赤紫の上着を羽織っている。ズボンと同色の黒くて長いブーツで颯爽と歩く姿は絵画のように美しかった。


「レオン様、とってもカッコイイです」


 彼に優しく見つめられ、クレメーヌは俯き気味に話しかける。それでも婚約者の顔が見たくて、ちらちらと視線を動かした。


「先に言われてしまったな。姫もとても綺麗だ。そのドレスもよく似合っている」

「あ、ありがとうございます。その、レオン様にそうおっしゃっていただけて嬉しいです」

「ふふふ、そうか? それならもっとたくさん言わないといけないな」


 冗談交じりの言葉を発しながら、椅子へ座るようエスコートされる。クレメーヌは素直に従い、席へ着いた。

完結まで毎日更新いたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ