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「何も問題はありません。だいたい女性は肉づきがいいほうがいいんですよ」
「それ、アンニだけには言われたくない」
見るからに華奢なアンニへ羨むような視線を送る。しかし彼女にはこちらの気持ちが伝わらなかったらしい。首をかしげて見返してきた。
「なぜですか? むしろ私はこの小さい自分の体型が嫌でクレメーヌ様みたいになりたいんですよ?」
「アンニは一度、お医師様に診てもらったほうがいいと思うわ」
理想の体型として選ぶならば誰が見ても、コルセットをつけている腰にまったくくびれができていない自分よりも、コルセットをつけていない癖にくびれがハッキリとできているアンニを選ぶだろう。その上自分には、踝まであるスカートですら隠しきれていない大きな臀部がある。明らかに太っていると言われるであろうこの体つきになりたいなんて言うのはきっと幼い頃から一緒にいるアンニだけに違いない。
「私はいたって正常です。それに例え場違いだったとしてもいいじゃありませんか。公国の名産品さえ気に入ってもらえれば御の字だと言ったのはクレメーヌ様ですよ」
クレメーヌはアンニの言葉に目を見張る。
「そうよね。緊張のあまり本来の目的をすっかり忘れていたわ」
自分が妃に選ばれることなどありはしない。それはこの妃選びという名のお見合いが打診されたときからわかりきっていたことだ。この機会に自国で飼っているヤギから採れるミルクや、チーズ、バターといった国産品のさらなる顧客を取り入れる。自分はそのためだけにグラジスドラゴ帝国へ来たのだった。
「私の使命はリズやベティたちのお乳で作られた製品を売り出すことだったわ!」
当初の目的を思い出し、沈んでいた気持ちがやる気へと切り替わる。
「そうですよ、クレメーヌ様。それに今日のお茶会に出されるお菓子は帝国内で一、二位を争うゴルディ商会が卸しているショコラらしいですよ」
決意を新たに意気込んだあと告げられた侍女の言葉に、クレメーヌは心臓を高鳴らせた。
「なんですって、あの有名なゴルディのショコラ! キャー! あの何か月も予約でいっぱいのショコラを食べられるなんて夢みたい」
一度味わったら二度と別のショコラを口にすることはできない。そう噂されているゴルディのショコラがあの向こう側で自分を待っているのだ。クレメーヌは、口に広がる濃厚なカカオの香りととろけるような甘さを想像し、うっとりと夢見心地になった。
「そうですよ。あとで食べた感想を教えてくださいね」
「心配しないで。感想だけじゃなくってちゃんとアンニの分をお土産でもらってくるわ」
「それは嬉しいですが、あまり無理しないでくださいね。ここは公国ではなくグラジスドラゴ帝国なんですから」
踊り出すように弾んだ声を上げるこちらへ心配そうに、アンニが灸を据えてくる。クレメーヌは安心させるために朗らかに笑った。
「大丈夫よ。あとでいただくわとか言えば簡単にもらえるんだから! さあ、そうと決まればさっさと行ってさっさと終わらせるわよ」
「その意気ですクレメーヌ様」
高ぶる気持ちに頬を上気させる自分の横で、アンニの顔に笑顔が戻る。クレメーヌは鼻息を荒くし両腕を大きく振りながら、庭園の中へ足を踏み入れた。