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黒い魔剣使い  作者: マクドフライおいもさん
グレイランドⅡ
65/77

テサルの街

巨壁を越えて東へ東へ。

グレイランドを旅するレグス達一行は『鳴き谷』と『オルザの森』を抜けて植民市『テサル』に到着した。

 グレイランドと呼ばれる地には巨万の富と大いなる力が眠っている。

 傭兵、盗賊、冒険者。ならず者達の酒の席で与太に紛れ語られるその途方もなき伝説を完全に否定する者は知識深い学者や魔術師にとて居はしなかった。

 誰もがその存在を信じていた。

 希少な鉱石に動植物、失われし文献と魔法の遺物、遥か東方の魔境にはそうした財宝が残されているのだと。

 それゆえにフリア人もユロア人も古き時代より文明圏と魔境とを隔てる巨壁を越え、幾度と広大なるグレイランドの地に進出する事を繰り返してきたのである。

 だが苦労の上に開拓し築かれた街々の多くは疫病の蔓延や野蛮な亜人との衝突、そして恐ろしき魔物達の襲撃によって十年と持たずに消えていった。

 それほどに灰の地は過酷であり、その地に眠るモノを手にすることは容易な事ではなかったのだ。

 しかし多くの手痛い失敗を繰り返したにも関わらず、巨壁の西に住まう欲深き者達は諦める事を知らず、彼らは百年二百年、いや千年と執拗に壁を越え続けた。魔境の財宝、その一握りを持ち帰りし成功者とならん為に。

 そして百四十年以上もの歴史を持つ植民市『テサル』は、そんなグレイランドの開拓史における数少ない成功例の一つであった。



 草木茂るオルザの森を抜けたレグス達一行は今日中の目的地へと真っ直ぐに向かっていた。

 いまや彼らの行く道は鬱蒼とした森のそれとは異なり、粗くとも風吹き抜ける悠然たるグレイランドの荒野である。広く見渡すことが出来るその場所からは遠めにもテサルの街の姿をはっきりと捉える事ができ、一行が歩みを進めるにつれてそれは次第に大きくなっていく。


「でけぇ街だな。化け物だらけの辺境に作った街っつうから、てっきりもっと小ぢんまりしてるのかと思ってたぜ」


 徐々に近付く街の外形を見やりながら東黄人の少年が言った。

 彼には眼前の街がフリアの地で見て回った各都市と比べても遜色がないような規模と映っていたのだ。

 その大きさに感心するファバに、傍らのレグスが相槌を打つ。


「あまり小さな街ではいざという時の防衛の際に事欠く。魔物や蛮人の襲撃に対抗出来るようテサルには数千人もの兵士が常駐している」

「数千!? 兵士だけでそんなにいるのかよ」

「ああ、他の住民も合わせると街の人口は一万人近くにはなる」


 レグスの説明に驚いたのは無知な少年だけではない。二人の会話にガドーとディオンが反応する。


「そいつはすげぇな。人の数だけならミドルフリアの下手な街よりよっぽどの都会じゃねぇか」

「本国に百年と富をもたらした偉大な街の歴史はだてじゃないってことだな。それにユロアの国とフリアの国じゃそもそもの国力が違いすぎる」

「おっ、一端の連邦人さまでいらっしゃるデリシャの男が言うと説得力が違うねぇ」

「よせよ、事実を言ったまでだ。一万人越えの街なんてフリアじゃよほど有力な都市に限られてくるが、ユロアにはざらにある」

「しっかしざらにあるったって、こんな僻地で一万人も食わせようとしたらどれだけの費用がかかんだ? 俺が昔いた五十人もいないような傭兵団だって帳簿係のおっさんが毎日ヒーヒー言ってたんだぜ。ほんとに儲けなんて出てんのかよ?」

「出てるから連中も必死こいてこんな辺境にある街を維持し続けてんのさ。なにせテサルは『アリニ草』の産地だからな」


 デリシャの男が発した聞き覚えのない草の名に、ハゲ頭の青目人は顔をしかめた。


「アリニ草?」

「知らないのか? 『アムラの美水』の原料となってる香草だよ」

「いや、そもそも何だ、そのアムラのうんちゃらって」

「おいおい、それも知らないのか? まぁフリアじゃそこまで出回ってもないか。それにそっち方面の話は疎そうだもんなお前は」

「ああ!?」

「アムラの美水はユロアの御婦人方に大人気の香水だよ」

「香水!?」

「ああ、香水だ」

「香水ってあれか? 商売女や金持ち連中がつけてる花の匂いとかついてる水の、あの香水か?」

「だからそう言ってるだろ」

「冗談だろ!? 薬にもならねぇもんをわざわざこんな危険な場所で必死こいて集めてるって言うのかよ」

「薬とも言えないことはないな。なにせアムラの美水はかくべつ肌に良いらしい。五歳分は若返ると評判だぜ」


 茶化すように言うディオンにガドーは舌を打つ。


「ふざけた話だぜ。そんなくだらねぇ物の為に何千人っていう人間が化け物相手に殺し合いやらされてるっつうんだからよ」

「欲に目が眩めばそれが何だろうと血眼になって手に入れようとするのが人間って奴だ。金銀宝石だって言ってしまえば色のついたただの石ころだろ」


 ディオンのその言葉に、カムが視線をべルティーナへ静かに向ける。

 ラスター家の黄金を奪い取る為にゴルディアへと向かう高慢にして冷然たる魔術師の娘。争乱をも厭わぬと宣言する彼女が黄金を石ころと評したデリシャ人の言葉に何を思っているのか。

 広漠たる灰の地を横目に流し見る気だるげな彼女の表情からはそれを窺い知ることはできなかった。


 やがて雑談を交えながら馬を進める事しばらく……、レグス達はついに街の正門前へと到着する。

 街の出入り口たる鉄門はしっかりと閉ざされており、その前には揃いの装備を身につけた衛兵達が立っていた。


「止まれ止まれ!!」


 レグス達の接近を確認して衛兵が大声を発した。

 一行の前まで歩み寄ってくるとその衛兵の男はジロジロと窺い、そこに馴染みの顔があるのを確認して言う。


「どこぞのエルフかと思えばゲルミアじゃねぇか。どうした珍しいな」


 彼が真っ先に声をかけたのは魔女の森の戦士たるゲルミアだった。

 街の衛兵とゲルミア達は交易を通じて既に何度も顔を会わせており、ある程度は知った仲であったのだ。


「お前らがこんな時期に森から出てくるなんていったいどういった用件だ」

「次の秋の交易に関して話をしたい。……それと彼らだ」


 同行者達を一瞥する顔馴染みのエルフに衛兵の男は訝しむ。


「見慣れない連中だな」


 それもそのはず、街の門前までの同行をゲルミアが命じたのは同胞の若いエルフの戦士一人だけであったのだ。

 単眼の大猿イパを含めて他の者達は森の出入り口に残してきている。そうなればこの一行の顔ぶれで衛兵の男らの目につくのは見慣れるはずもない新顔ばかりとなる。


「壁の王の許しを得て壁を越えてきた者達だそうだ。テサルの街へ向かいたいとの事で私がその案内役を務めた」

「案内役!? わざわざ余所者の為に、お前達が?」

「彼らは無法な侵入者とは違う。礼儀を弁える者達には礼儀を以って応えるのは当然だ」

「へえ、魔女の森のエルフが道案内ねぇ……。ずいぶんと少人数のようだが、他の仲間とはぐれでもしたのか?」


 衛兵は質問の矛先をレグスへと変えた。


「これで全員だ。私達の今回の目的は奥地の調査であり、直接的な開拓とは違う。下手に数を増やしたところで負担にしかならない」

「それにしたって十人もいないようだが……、腕に相当の自信があるみたいだな」

「でなければ壁を越えたりはしない」

「……そうかい。まぁ何だろうが、まずは許可証を確認させてもらおうか。それ無しの者は当然街には入れないからな」


 男の言う事に従いレグスは壁越えの許可証を提示する。


「印に問題はないようだな」


 壁の王より正式に発行されたものである。その真偽に問題があろうはずがない。

 だが衛兵の男は許可証の文面までを調べると口調を強めて問うた。


「……ちょっと待て、これはどういう事だ」

「どうとは?」

「『この者、異邦の勇者の求めに応じ壁を越える事を許可す』の部分だ。ここは書式が決まっていて請求者の名と開拓調査に当たる者達の団名か隊名が記されているのが普通だ。この許可証には隊名どころか請求者の名前すら書かれていないぞ」


 グレイランドは誰もが気軽に来られるような場所ではない。

 壁越えの許可を得るには強い後ろ盾が必要であり、それを明記する事によって灰の地での活動における最終的な責任のあり所をハッキリとさせておくわけである。

 提示された許可証の書式が通常のものとは違う事を差し置いても、『異邦の勇者の求めに応じ』との文面だけでは誰の責任を以って壁越えの許しを求め、その許可を得る事になったのかがまるでわからない。

 たとえ印が正しくとも、そんな許可証を提示されては衛兵達もおいそれと街に通すわけにはいかなかった。


 彼らの空気が一瞬にして強張ったのをレグスは察する。


「書式が異なるのは手続きの違いからだろう」

「手続きの違いだと?」

「この許可証は私が壁の地で直接ゴルゴーラ王に頼み、得た物だ」

「直接!? そんな馬鹿な……」


 男の信じられないといった様子にレグスは灰色肌の従者を呼ぶ。


「マルフス」


 主に呼ばれた小さな壁の民はその意を察して一つの巻文を取り出した。

 彼はそれを衛兵の男へと手渡しながら断言する。


「ご主人様の言葉に偽りがない事はこの書状が示している」

「これは……」


 巻文にはレグスの壁の地における戦いでの功績や壁の王が救世主と認めた事、そして壁の王ゴルゴーラの名において交流ある他の国や部族に一行の旅路の協力を仰ぐ旨がつづられていた。

 そのあまりに異質な内容に衛兵の男は驚きを隠せない。


「なっ、なんだこれはっ!!」

「何か問題があるのか?」

「問題があるもなにも、このような内容のもの……」

「信じられない、と? この書状には間違いなく壁の王の認印が押されているはずだが?」

「それは……」


 衛兵の男のまごつくような対応に、若い娘の苛立った声が飛ぶ。

 声の主はベルティーナだった。


「ねぇ、貴方も印が正しいかどうかぐらいの判断はついてるはずでしょ? だったら内容どうこう以前に、上の判断も仰がずにケチをつけていい代物じゃない事ぐらいわからなくて?」


 壁の王の影響力はフリアのみならずグレイランドに進出する連邦の国々とて無視できるものではなかった。

 たとえどれだけ文書の内容が荒唐無稽に思えようとも、そこに押された印が正しいものであるなら現場に立つ人間だけの判断で無下にしてよいはずがない。

 わざわざ壁の王が認め、その協力を仰ぐほどの人物が相手なら尚更の事である。


「……わかった。すぐに確認を取ってこよう」


 ベルティーナの指摘に幾ばくかの平静を取り戻すと、衛兵の男は同僚達をその場に残して急ぎ街の中へと向かった。

 しばらくして、彼はひとりの人物を連れ戻る。

 歳は外見から中年を終え初老に入ろうかという年頃、身につける衣服は着古した物とは違い仕立てられたばかりであるかのように清潔で整っており、足早でありながらもガサツとならず品を失わない歩き方にも、その男の立場というものを窺い知る事が出来た。


「エフモントだ。市長に代わって今回の件の判断を任される事になった。まずは許可証と例の紹介状を私にも見せてもらえるかな? 再度確認させてもらいたいのだが」


 不必要に偉ぶらず卑屈にもならず、男は通りの良い声で堂々と要求する。


「満足いくまで好きなだけ確認するといい。正真正銘、壁の王が発行した物だ」

「……なるほど、確かに印には問題がないようだ。それに青語で書かれた部分だけでなく、壁の民の言葉で書かれている文にも間違いがない」


 そう言って考え事をするように顔を斜め下に伏せてウンウンと何度か頷くエフモント。

 次に彼はレグスの傍らに立つ灰色肌の小男に注目する。


「珍しい従者を連れているようだ」

「壁の民の従者を連れている事に問題があるのか?」

「壁の民を連れ歩く、それも子供となると驚かない者はいないだろう」


 エフモントの言葉に小さな壁の民自身が反論する。


「マルフスは子供じゃない!!」

「成人した壁の民は三フィートルに達する大男達だ。彼はどう見たって二フィートルにも満たない」


 その指摘に今度はレグスが冷静に反論する。


「壁の民でなくとも満足に背丈を伸ばす事が出来ない人間はいくらでもいる。小身病、ポーグル病、ドワーフ病、ウォロクヌスの呪い、リュジュルスの祝福、呼び名はさまざまにあるがな」

「彼もその類いの者だと?」

「私はそう考えている。何にせよ小身病は悪魔の呪いでもなければ他人に感染するような病でもない。それは聡明な文明人たる大ユロアの人間もよく知るところだと思うが、違ったか?」


 沈黙するエフモント。

 その反応を窺いながら駄目押すようにレグスはさらに言葉を付け加える。


「壁の民が大男であることは誰もが知る事実だ。偽るならわざわざ子供ほどの背丈しか持たぬ者に頼みはしない」


 もっともらしく聞こえる言い分に一応の納得はしたのか、反論せず男はまたも視線を外して考え事をするように何度か頷いた。

 彼の癖なのだろう。


「……滞在予定はどれほどだ?」

「冬までの時は限られている。明日には街を発つ予定だ」


 怪しい余所者の滞在は短いに越したことはない。

 気休め程度にはなる返答を得てエフモントは最終的な判断を下した。


「わかった、いいだろう。街へ入ることを認めよう。……ただし、たとえ壁の王が認めた英雄達であろうとこの街の決まりには従っていただく、よろしいかな?」

「もとよりそのつもりだ」

「では街に滞在するにあたっての細かい説明についてはこの男コーバスに任せるとしよう」


 エフモントが指名したのは彼をこの場に連れてきた者でもあり最初にレグス達の応対をしたあの衛兵の男であった。


「本来、壁の王が認めた英雄御一行が相手ともなれば私の口から説明すべきなのかもしれないが、いろいろと忙しい身でね。片付けねばならない仕事が山のように残っている。たとえばあなた方に同行するエルフの彼は我が街との交易について大切な話があるらしい」

「問題ない。貴人の如き扱いを期待して魔境の地を旅しているわけではないのだからな」


 レグスの同意を受けてエフモントは後の対応を現場の衛兵達に任せると、少しばかり移動してゲルミアと秋の交易についての話し合いを始めた。

 その姿を横目にしながら衛兵の男コーバンが口調をあらためて発言する。


「エフモント様のお話にあったように、街へ通す前に貴殿らにはいくつか同意してもらわねばならない事がある」

「話は手短に頼むぜ。外で待たされるのもいいかげんウンザリしてるんでな」


 茶化すガドーに対して衛兵は咳払いを一つして話を先へと進めた。


「まず第一に法の遵守である。テサルの街はユロア大連邦を構成する栄えあるオルラント公国の貴族であらせられるクレファ伯の領有する植民市である。街には伯爵の定める法は無論のこと本国同様に連邦法も適用される。すなわち異教の神を信仰する自由は認められているが、その布教は厳禁とし、祈りを捧げる際にも相応の配慮をするように。……人目のつかないようにやってくれというわけだ」

「安心してくれ、俺はデリシャ出身だ。その辺の振舞い方についてはよくわかっているよ」

「それと外来者の滞在区画は決まっていて指定の区画以外に立ち入る事は禁じられている。これは防犯、防疫の理由上大変重要な事であり、貴殿らといえど例外にはない」

「肝心の区画の範囲ってのはどう判断すればいい。知らずに迷い込んだところで文句を言われてもこっちとしても大困りだ」


 ディオンの問いに衛兵は淡々と答える。


「滞在区画については外壁同様に壁で囲まれ、それ以外の区画とは隔離されている。間違っても迷い込むなどという心配をする必要はない」

「そいつは親切なつくりだな、まるで牢屋みたいで助かる」


 ガドーの皮肉に衛兵達は顔をしかめたが、特段何か注意するわけでもなかった。

 彼らは話を進めようと説明をさらに続ける。


「他にも滞在中にはこちらの要請に応じて街の防衛に協力する義務が発生する。もちろん通常の襲撃に関しては我々の方で対処するがここはグレイランド、どのような恐ろしき怪物達が現れても不思議でない土地だ。事実、百年を越す街の歴史の中では何度かそうした事態に陥った記録が残されている。いくら灰の地とはいえ一日ばかりの滞在でそのような襲撃に遭遇することはないだろうが、いちおうはを心に留めておいてほしい。そして逆に貴殿らが街の外で襲撃を受けた場合だが、これは悪いが自分達で対処するようにしてもらおう。街には兵士だけでなく多くの市民が暮らしている。助けを求め脅威を引き連れてくるような行為は彼らをも危険に晒す事を意味する。だからそうした行いをする者達に対しては我らも街の門をあける事は決してしない。それが魔物に追いまわされる最中の者達であってもだ。たとえそのような事をして奇跡的に生き残れたとしても多額の賠償金を支払ってもらうことになる」

「これまでもふりかかる火の粉は自らの力を以って払ってきた。そのような迷惑をかける事はないと約束しよう」


 コーバンの説明にレグスは悠然と言い切った。


「では次に我が街の優越権について同意を求めたい。この地より十五キトル圏内における植民活動の権利についてテサルの街が、ひいてはクレファ伯が優越的に所持すると認める事。すなわち我々の許しなく新たな植民市の建設や拠点を設ける事を禁じ、また商業的活動から学術的研究を含め一切の採鉱採集、その他の調査活動を行えぬものとする。ただし通行の自由についてはこれを認めるものとする」


 街から十五キトル圏内ともなれば南に広がるオルザの森の一部も入ってくる。

 だがその森に暮らす者達が内心このような取り決めをどう思うかは別として、衛兵が求めたのはあくまでテサルの街とレグス達との間に取り交わされるものにすぎない。

 こういった取り決めに問題があるとすれば、それは街と森の民らで解決すべき事であり、少なくとも今の自分達が口を出すような事ではない。


「目的地は十五キトルよりも先だ。テサルの街の権益を侵す事はないと約束する」

「では最後に……、悪しき怪物が蔓延るグレイランドにも我々の街と長らく協力関係にある都市や部族がいくつも存在している。貴殿らに同行するエルフ、魔女の森の民もその一つであり、彼らのような者達との共存は街の維持に欠かせぬものとなっている。街の恩恵を得んとするならば、我々と彼らの間に交わされる協定をも尊重しなければならない」


 そう言うとコーバンはテサル街と協定を結ぶ諸勢力の名を列挙し始める。


「東方に展開する『ゼティス教会』、西方にある黒毛の丘に住まう『スクル族』『ナナ族』『ロク族』、ナビルダ渓谷の『アサスの民』、北西の岩山の『ダングルドア族』、そして南の森に住まう『オルザの森の民』、それから……」


 衛兵の男は長々と述べ続け、やがては関係の強いいくつかの植民市についても言及すると一行に対して最後の誓約を求めた。


「これらの者達についても、テサルの街同様に貴殿らはその権益を侵す事なく害となる振る舞いはなさぬと誓えるか?」

「ああ、もちろんだ」


 その迷いない宣言を受けてコーバスはようやく人心地つくと、やや表情を和らげながらレグス達に告げた。


「よろしい。では以上をもって正式にテサルの街への滞在を認めるものとする」

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