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黒い魔剣使い  作者: マクドフライおいもさん
グレイランド
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歓迎の夜を終えて

 歓迎の夜、宴席の場を存分に満喫した男は夜深になってようやく自室へと帰ると、そのまま寝台に倒れるようにして眠り込んだ。

 彼が次に目を覚ましたのは、朝も過ぎて昼になろうかという頃である。


 窓の外にはすでに村人達が今日の作業に追われ忙しく働く姿が見えていた。


「毎日毎日ご苦労様なこったねぇ」


 一人呟いてあくびをするガドー。

 あれだけ遅くまで酒を飲んで騒いでいたわりに二日酔いの様子もない。多少寝起きならではの体の重さこそはあったが体調は快調そのものだった。

 彼は軽く身支度を整えると部屋を出て、館で働くエルフを一人捉まえる。


「おい、ちょっとあんたいいか?」

「はい」

「おたくの魔女さまは今どこにいるんだ?」

「執務室の方に居られると思いますが。何か御用でしょうか?」

「いや別に用ってほどたいそうなもんじゃないんだけどな。ちょっと話があるだけだ」

「そうですか……、ではご案内致しましょう」

「おう、そうしてくれ」


 捉まえたエルフに取次ぎを頼み魔女の執務室へと向かうガドー。

 その途中で彼は見知った顔とばったり出くわす。


「おお、ディオンじゃねぇか」

「ガドー、大丈夫なのか? 昨日はずいぶん無茶な飲み方してたみたいだが、出発は今日だぞ。まさか二日酔いなんてしてねぇだろうな?」

「馬鹿言え、あれぐらいでガドー様がどうなるものかよ。むしろ美味い酒の力でほらこの通り、絶好調ってなもんだ」

「ならいいんだけどな。で、昼飯でも食おうって感じか?」

「いや魔女さまにちょっと話があってな」


 ガドーの言葉に意外そうな表情を浮かべながらディオンは言う。


「なんだお前もか」

「お前もかって、お前もか?」

「ああ」

「そうかそうか。んじゃ一緒に行くか。このエルフの兄ちゃんが取り次いでくれるらしいぞ」


 ディオンの方にも断る理由はない。二人は共にセルトラのもとへ向かう事にした。

 そして間もなく、彼女のいる執務室の前へと到着するとまずは先導するエルフがその扉を叩く。


「魔女さま、お客人のお二人が話があると」

「そうですか。では通してください」


 主の返答を確認すると彼は扉を開いて、連れてきた客人達に入室をうながした。

 それに従い二人が中へと足を踏み入れると、そこには机の上に広げていた古そうな巻物や比較的新しそうな皮紙の書類やらを端にやって片付けるセルトラの姿があった。


「仕事中に邪魔して悪いね魔女さま」

「忙しいならまた後にしてくれてもかまわないが」


 ガドーとディオンが言うとセルトラは軽く笑みを作りながら応じる。


「いえ、とくに急ぎのものがあるというわけではありませんから。それでお話があるとのことですが……」


 自身の机の前に立ち並んだ男達に、どちらに聞くともなく問うセルトラ。

 彼女の問いに対してガドーとディオン、両者が動く。


「ああ」

「これなんだが」


 そう言って二人は己の腰に下げていた小袋を一つ取って、それをほとんど同時に机の上へと置いた。


「あの……」


 奇妙に揃ったその行動と並べられた小袋にセルトラは途惑った。

 だが彼女よりもその光景に面食らった者がこの場にいる。他ならぬ当人達である。

 打ち合わせていたわけでもないのに揃ってしまった行動に驚いて、男達は思わず互いの顔を見合わせていた。

 そして相手の出した小袋を不審そうに睨みながらガドーとディオンはその中身を問う。


「まさかとは思うがお前、それアレじゃねぇだろうな?」

「おいおい、そっちこそ袋の中身がアレだったりしないだろうな?」


 一瞬の沈黙の後に二人は同時に動いて相手の袋の中身を確認する。

 すると途端に、やらかしたと嘆くような声が彼らからあがった。


「もろかぶリじゃねぇか」

「なんでこうも間が悪いもんかねぇ」

「あの……、それは?」


 男達の様子に困惑しながらセルトラが尋ねると、ディオンの方が返答する。


「ああ、アンタらには昨日からいろいろと世話になってるわけだからな……」


 そう言って彼は手にした袋を傾けると、その中身を机の上に広げる。小袋の中から飛び出したのは金貨と宝石類であった。


「その礼というか、宿代がわりだ。あっちの袋の中身も同じさ」

「あの、つまりお二人の用件が偶然同じであったと?」

「まぁそういうことになるね」

「そうでしたか」


 事情を理解するなり堪えきれなかったのか、セルトラはおかしそうに小さな笑い声を立てた。

 それを見てガドーが言う。


「おいおい、たしかにカッコはつかねぇが何も笑うこたぁねぇじゃねぇか。金貨だって宝石だって質のいいもんだぜ。テサルの街の連中との取引に使えば、贅沢できるとまでは言わねぇがそれなりの足しにはなるはずだ」

「ごめんなさい。でもそう意味ではないんです」

「ああん? じゃあどういう意味の笑いだよそりゃ」

「それはその……、実は今朝方早くにレグス様がお見えになられて、皆様の二日分の滞在費だと多額の金貨と宝石類を頂いているのです」

「なっ!? うちの大将がか!?」


 驚くガドーにセルトラは頷く。


「はい。ですからもう十分すぎるほどの物を既に頂いてしまっているのです。どうやらレグス様はお二人には何も言わずにおられたようですね」

「くっそあの野郎、すました顔しやがってこういう事だけはきっちりカッコつけていきやがる」

「つまり俺達は何も知らずショボイ礼金包んでノコノコ後からやってきたマヌケになるわけだ」


 そう自嘲気味に話すディオンに慌ててセルトラは訂正の言葉を入れる。


「いえそんな……、お二人のお気持ちは大変ありがたいものですし、金額の大小の問題でもありません。ただ皆様方をお客人として村に招いたのは私達です。本来レグス様のご好意に甘えるだけでも申し訳ないぐらいですのに、これ以上皆様のご好意に甘えてしまっては、オルザの森の民は礼儀を知らず欲が過ぎるとの誹りを受けましょう。ですからここはお二人のお気持ちだけを受け取らせて頂くということで、袋の方についてはどうかこのままお持ち帰りになってください」


 魔女の言にガドーが異議を飛ばし、もう一方の男も同調する。


「馬鹿野郎、男が一度出したもん引っ込められるかってんだよ」

「まぁすでにつくような格好もないようなもんだが、その袋は黙って受け取ることにしてやってくれ魔女さま。金貨も宝石も多くあって困る物じゃない」

「しかしそういうわけには……、皆様を代表してとの事でレグス様からあれだけの額の物を既に受け取っていますのに、これ以上は……」


 なおも受け取りをしぶるセルトラの言葉をさえぎってディオンは言う。


「礼儀云々の話をするなら相手が一度出した物を引っ込めさせるのだって、余計な恥をかかせるようなものさ。それに大人連中が礼儀だなんだとうるさく格好をつけるのは勝手だが、品格じゃ腹は膨れない。いざという時に飢えに襲われて迷惑被るのは子供達の方だろ? ここは大人の体裁よりも村の子供達のことを第一に考えて受け取っておくことにしてくれ」

「おお、ディオンいい事言うじゃねぇか。そういうことだ。俺達が出すもん出すつってんだから、魔女さまは黙って受け取ってりゃいいんだ」


 二人の言うようにあまりしつこく受け取りを拒絶するのも礼儀を欠く振る舞いではある。それに、なにより村の今後を思えば少しでも多くの貯えが必要であることは否定しようのない事実である。


「……わかりました。では皆様のご好意に甘えさせていただくことにします」


 村を治める者としての判断にガドーは言う。


「おたくらが開いてくれた宴にはそいつを受け取るだけの価値はあったさ、自信持ちゃいい。酒も料理も最高に美味かったぜ」

「そう言って頂けると村の者達も喜びましょう」

「それとそうだな……。あとはポーグル達に一曲作らせでもしたら客人のもてなし方としちゃあ完璧だな」

「詩をですか?」

「おうよ。題材は……、村の男共を次から次へと飲み負かしたガドー様の勇姿なんてのはどうだ?」


 その提案にディオンが言う。


「おいおい、ありゃ勇姿じゃなくて痴態じゃないのか?」

「馬鹿言え、飲み比べは男のもう一つの戦場だろうが。昨日の活躍を歌わずにして他に何を歌えっつうんだ?」

「わかったわかった、好きにしろよ」


 呆れる隣の男に構わず、ガドーはあらためてセルトラに依頼した。


「魔女さま、どうだこの話? 俺からの支払いは詩の代金込みっつうことにして」

「わかりました。では彼らに素晴らしい詩を作るよう頼んでおきます」

「とっておきの傑作を頼むぜ。百年先の春まで男ガドーの偉大な伝説が歌い継がれるようにな」


 そう言って満足気に彼が笑っていると部屋の扉を叩く音がした。

 そして開かれる扉から顔を見せたのは、男らと同じく村に客人として滞在するジバ族の女、カムであった。

 彼女の手には小袋が一つ握られている。その中身を問うまでもなく、部屋の中にいた三人共が彼女の用件を瞬時に察した。


「なんだお前達だったのか」


 自分より先に執務室を訪れていた二人の男にそんな言葉をかけながら無頓着に歩を進めるカム。

 彼女に対してガドーが手の平を向けて制止し忠告する。


「ちょっと待てカム。余計な恥をかきたくなけりゃ、悪い事は言わねぇ。このまま回れ右してこの部屋を出な」

「何をわけのわからない事を……。私の用件はすぐに済む、これを渡しに来ただけだ」


 そう言ってカムは男らの横に並び立つと手にしていた小袋を机の上へと置いた。

 そこでようやく彼女は同じような大きさをした革袋が机上に並んでいる事に気が付く。


「だから言わんこっちゃねぇ……」


 忠告を聞かず足を進めた女に、ガドーは天井を見上げるようにして顔を手で覆い、ディオンは苦笑を浮かべていた。


 二人の反応と先に並べられていた二つの小袋。

 さすがの彼女とて、これ以上何を言われなくとも状況を理解出来る。


「なるほど、そういう事か……」


 カムもまた居心地悪げに苦笑するしかなかった。


 もちろん彼女の持ってきた革袋には滞在中の世話をかけたその礼金としての金貨や宝石類が入っている。

 つまり三人が三人とも別々に、昨夜の宴の費用分以上の額となるであろう金品を持ってきた事になる。

 しかも今朝方早くにはレグスが一行を代表して多額の金貨と宝石類をセルトラへと渡していたのだ。それらを全て合わせれば、結局魔女の森の民はレグス達を村に招く前よりもずっと多くの富を得ることになるのである。

 彼らはこの寛大すぎるほどの振る舞いに対して大いに感謝し、レグス達一行を善き旅人、善き客人として長く語り継ぐ事になるに違いなかった。


 ただ、今こうして部屋を訪れている三人にしてみれば、事前の相談を怠ったばかりに多少格好のつかぬ形となってしまってはいたが……。

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