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黒い魔剣使い  作者: マクドフライおいもさん
絶望が哭く夜
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出立

 朝日が夜の暗がりを完全に追いやる頃、城内に設けられた食堂の一角にレグス達の姿があった。

 出発前の朝食、机に並べられた簡素で豪快な壁の民の料理にがっつきながら少年が言う。


「また何日かまともな飯にありつけなくなるかと思うと、こんな料理でも名残惜しいもんだぜ」

「気持ちはわかるが、食べすぎるなよ」


 カムの注意にファバは口に物を含んだまま答える。


「わかってるよ。食いすぎでまともに動けないなんて笑い話にもなんねぇからな」


 やがてたわいもない雑談を交えながらの朝食を済ませると、いよいよ壁の地を発たんとして彼らは大門へと向かった。


 途中、一行はあちこちに集う群衆を目にする。

『決闘の勝者』、『不浄の王を討ちし英雄』、『星読みが預言せし救世主』。

 その男の旅立ちを一目見ようと、少なくない数の壁の民が城から大門へと至る道の各所に集っていたのである。

 あまり仰々しい見送りなどレグスの望むものではないが、自然発生したこればっかりは彼にもどうしようもない。


「ずいぶんな人出だ。まるで戦争に行く兵士にでもなった気分にさせられる」


 群衆を眺めならカムが呟くと、彼らの視線を最も集めている男は鼻を鳴らして皮肉を口にした。


「あるいは断頭台に向かう罪人か」


 この場に集う者達はレグスの活躍を直接目にした人間ばかりではない。

 街の復興を手伝う為、隣の門街から救援にやって来た者達も大勢いる。

 当然彼らとこの街の人間とでは己よりもずっと背丈の低いその男に対する感情も変わってくる。

 羨望から奇異の目まで浴びせられる視線は様々で、声援や揶揄するような声を耳にしながら一行は群衆の間を進んでいった。


 そうして大門へと近付くなり、ファバが前方を指差して叫んだ。


「おい、あれ」


 少年の指差す先に見えたのは同行予定のベルティーナ。そして、ガドーとディオンの姿だった。

 レグスに二人を呼んだ覚えはない。

 その身なりと連れている馬や荷からして、彼らが見送りのつもりで来ているわけではない事は瞭然としていた。


「この馬鹿二人、どうしても貴方についていくつもりだそうよ」


 レグスが口を開くより先に、ベルティーナが言う。

 彼女とてディオンやガドー程度の腕では足手まといが増えるだけだと考えているのだ。


 それでも当人達に悪びれる様子はない。


「昨日は散々なフラれっぷりだったが『こちらもはい、そうですか』と引き下がるわけにはいかない。この通り旅糧も馬の方もばっちりだ。いまさら後には引けない」

「大出血の特別価格、手練れの護衛二名がなんとタダでついてくるんだ。文句はねぇだろ」


 ディオンとガドーの言葉にレグスは呆れるしかなかった。


「勝手にしろ」

「いいのかよ」


 急な追加人員に途惑うファバ。

 そんな少年に対してレグスは簡潔に告げる。


「足を引っ張るようならそこで捨て置くだけの事だ」


 新たに二人の男を旅に加える事になった一行。

 精霊のセセリナを含め計八名が、これより魑魅魍魎跋扈する灰の地奥深くへと発つ事になる。


 その大いなる旅路の始まりを見送ろうと、大門の周囲にはさらなる人だかりが出来ていた。

 その中に見覚えのある大男が一人、……ガァガだ。

 彼は小さき同胞の旅立ちを激励する為にこの場にやって来ていた。

 かつて友が連れ帰った異質の子は周囲から蔑まれながらも過酷な冬を何度と生き延び、ついに己が信じる宿命と邂逅した。

 そして今日、その子は旅立っていく。

 それを思えば、老いる勇者の胸の内には幾ばくかの感慨が自然と宿る。


「ついにこの日が来たか」


 ガァガの言葉にマルフスは頷く。


「やっと約束が果たせる」

「約束? そうだな、星々との約束を果たすがいい」

「星々だけじゃない。あの日バノバと約束していた……、あの場所にいつか戻ると、あの『星底の船』へと」

「星底の船?」


 覚えのない名称に問い返すガァガであったが、マルフスは満面の笑みを浮かべるだけで何も言わない。

 星読みの言葉は時おり謎めいて、凡人の己には理解できるものではない。

 また今度もそれと同じ事だと彼は判断して、深く言葉の意味を問おうとはしなかった。


「マルフス、お前ならば必ずや己の使命を果たす事ができよう。……壮健であれ、星読みよ」

「ああ、ガァガも」


 二人がそうして言葉を交わしていると。


「開門!!」


 門番の号令と共に大きな音を立てて大門が開かれていく。


 わざわざレグス達の旅立ちの為に巨大な門を全開する壁の民達。

 通るだけに十分な半開で済まさぬのは彼らなりの敬意の表れに他ならない。


「うおおおっ、ついに大冒険の始まりってわけだ!!」


 開かれた門の先、地平線の彼方まで続く広大な大地を眺めながら声を張り上げるファバ。

 笑顔すら浮かべる少年に傍らのディオンは問う。


「これから死地に向かおうってのに、ずいぶんご機嫌だな」

「当たり前だろ」


 そう言うとファバはいの一番に馬を走らせ大門の先へと飛び出した。

 そして無限にも続くかのような錯覚を起こさせる大地に立って振り返り、意気揚々と告げる。


「こんなにもでっけぇ世界が俺達を待ってんだ!! うずくなって方が無理があんぜ!!」


 漠々たるグレイランド。

 雲が果てを求めるかのように流れていき、風が囚われるものもなく自由に駆けていくこの大地の先に、自分は想像だにしないモノと出会う事になるだろう。

 その確かな予感に少年の胸は高鳴っていた。

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