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黒い魔剣使い  作者: マクドフライおいもさん
絶望が哭く夜
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宝物

 騒動の翌日、レグスのもとには朝早くからファバとカムの姿があった。

 昨夜の事件の情報は壁の民達を通して彼らも知るところとなっており、まさにその事について話し合う為に二人はレグスの部屋を訪れていたのである。

 長旅に同行する事になる女の凶行に誰もが懸念を強くしていた。

 醜顔の少年が険しい表情でレグスへと問いかける。


「イカれてやがるぜ。いくら揉めたからって自分の姉弟をマジで燃やしちまうだなんて、ほんとにあんなの連れてって大丈夫なのかよ!?」


 ベルティーナの危険性はレグスとて十分に認識している。

 だが例の取引がある限り、彼女の同行を許さざるを得ない。


「ゴルディアへ送り届けるまでの辛抱だ」

「そうして一つの街を火の海にするのか」


 おもむろに呟くようにして口を挟んだのはカムだった。


 ゴルディアの黄金を狙うという事はラスター家と敵対するということを意味する。

 赤き狐の手勢との衝突は避けられない事態であり、その事によって街の住人を含めてどれほどの死傷者を出す事になるか見当もつかない。

 それがわかっていてなお、あの女を連れていくという事は悪行に加担するようなもので、いくら事情があるからとはいえ気分がいいものではない。


「可能性は否定しない。それでもあの女の同行を許可すると決めた」

「本当に他に手はないのか?」

「ない」


 仲間の女の苦悩を察しながらも、一行を率いる立場にある男はそう断言した。


 ロレンシアの政情不安とゴルディアにもたらされる災厄を確実に回避するには、壁を越えた先でベルティーナを始末するしかなかったが、それはあまりに危険すぎる手だった。

 相手は光焔の女王の力に目覚めた女である。

 成否の予測は困難で、自分達の安全を考えるのなら事の判断は慎重にならざるを得ない。


 旅の目的を優先し植民市の住人に降りかかる不幸には目をつぶる。

 そうした判断も含めて一行の間には昨日の内に話がなされていたはずだったのが、やはりカムの信条的にはまだ納得できないものがあるらしい。

 やる方ない様子で彼女は不平を口にする。


「あの女がやろうとしている事は私欲に溺れた侵略行為だ。こんなこと許していいはずがない」


 解決策の見えない苛立ちと口惜しさを募らせるジバの娘。

 そんな彼女に古き精霊のセセリナは言う。


「マルフスが言うには侵略ではなく『虐げられしドルアの民の解放』らしいけどね」


 グレイランドに築かれた植民市が先住民を労働力として奴隷化している事は珍しくなく、ゴルディアにもその手の噂は存在していた。

 マルフス曰く、それが『ドルアの民』と呼ばれる先住民の事らしい。

 もし彼の預言が正しいモノであるなら、その者達にとってレグス達は侵略者ではなく解放者となるわけで、そこに大義めいたものを見出すことも不可能ではなくなる。

 無論、だからといって解放の過程でゴルディアの住民に被害が出ることを良しとするかは全くの別問題であったが……。


「無理についてこいとは言わない。俺の判断がお前の信条に反し許容できないというのなら、ここで降りるといい」


 レグスの言葉にカムは沈黙するしかなかった。


「別にゴルディアが絶対に火の海になるって決まったわけじゃないわ。あんがい先方も星読み様の預言を受け入れて、気前よく譲ってくれるかも」


 場に漂う重苦しい空気を払うようにして言うセセリナだったが、もちろん彼女とてそんな事を本気で考えているわけではない。

 気に病みすぎるなという彼女なりの配慮だった。


「それに道中で黄金なんかより儲かる話を拾えるかも。そうなったらあの娘だってゴルディアに拘る必要はなくなる」


 そのようにわざと極度に楽観的な展望を古き精霊が語っている最中のこと……。


――ゴンゴン。


 不意に何者かが部屋の扉を重々しく叩く音がした。

 その音に一行は談義を中断して、その者を迎え入れる。いや、正確にいうならばそれは『その者達』であった。

 開かれた扉の先より姿を見せたのは、箱を持つ大男達とそれを連れ立つ勇者ガァガであったのだ。


 レグスは彼らへと問う。


「いったい何の用だ?」

「王宮の宝物庫より旅に役立つ宝物をと、我らが王より預かってまいった。どうかそれぞれ役立てて欲しい」


 ガァガが告げるなり大男らは手にしていた箱を床へと置き並べた。

 その数は三つ。どれも壁の民の持ち物としては珍しく品格高そうな装飾がなされた美しい箱ばかりである。

 そのうちの一つを開きながら、箱の中に納められた宝物についてガァガが説明する。


「これは『至炎の短剣』。ドワーフ達が鉱石の王と崇める石『オリハルコン』より作り出された一振りの短剣」

「すげぇ、これが武器なのかよ。宝石みてぇだ……」


 目の前の短剣の美しさに目を奪われる少年に、壁の民の勇者はさらに詳細な説明を付け加える。


「炎の如き光沢を放つこの刃は決して錆びず、どんな鋼鉄にも打ち負かされることはない。そして柄先に付けられた宝玉の魔力が悪霊をも切り裂く力をこの短剣に与えてくれる」

「いいね」

「私が実物を目にしたものの中では、この一振りこそが最も美しく最も強力な短剣であると確信をもって言える」

「いいね、いいね。やっぱ冒険はお宝を手にして何ぼってもんだぜ!!」


 通訳された説明を聞きながら嬉々として喋るファバ。

 そんな少年に対してガァガはオリハルコンの欠点も口にする。


「ただオリハルコンは他の金属に比べて見た目よりもずっと重く、扱いには慣れが必要となるが……」

「かまいやしねぇよ。なぁレグス、こいつは俺に譲ってくれよ。パピーの扱いもちょっとは板についてきたろ? 短剣術の練習も始めたことだし、この武器は俺にこそ相応しいってもんだぜ!!」

「所持する分には好きにしろ。だが調子に乗って十分に扱えもしないまま、そいつで斬りかかっていくような真似だけはするな」


 目を輝かせて言う少年の希望をレグスは少しばかりの条件をつけながらも許してやった。


「わかってるって!! へへっ、至炎の短剣か……」


 ずっしりと重量のあるその短剣を箱から取り出してファバは呟く。


「俺の物になるんだ。せっかくならもっと格好いい名前をつけてやらないとな。そうだな……」


 少年は真剣な顔をして考えこんでいるが中々いい名前が思い浮かばないらしい。

 そんな彼にセセリナは助け船を出してやる。


「『フレイニル』ってのはどうかしら」

「フレイニル?」

「古き王国ウィリオニアの英雄に与えられた称号の名よ。その意味は炎のように高潔で熱い魂と決して砕けぬ鋼の肉体を持つ者。オリハルコン製の武器にはぴったりの名だと思うけど?」

「フレイニル……、フレイニルか。悪くねえな、よし今日からお前はフレイニルだ!! 俺の相棒として活躍してくれよ!!」


 貰った武器に名前までつけて無邪気に喜ぶファバ。

 それを横目にレグスは残りの宝物の説明を急がせることにした。


「ガァガ、他の宝物の説明も済ましてくれ」

「ああ」


 ガァガが二つ目の箱を開くと、中には三本の矢が丁重に納められていた。

 それは美しき白銀にほのかな青緑の輝きをたたえる不思議な金属で出来ており、矢尻と胴体部に施される見事な装飾一つとっても、並の代物ではない事は一見して明らかであった。


「『ミスリル』」


 レグスの言葉を壁の民の勇者は肯定する。


「ドワーフ達はオリハルコンを石の王と崇めたが、エルフ達は気位高き石の女王と呼びこの白銀の鋼を愛した」

「エルフの品か?」

「古代魔法王国、エルフの魔術師達が作り出したという魔法の矢『ネフェリル』だ。別名『虚無の矢』とも呼ばれ、矢尻に封じられた闇の霊力によって大いなる破壊をもたらすと言われている。古い記録にはドワーフが築く鉄壁の城壁にいとも簡単に大穴を開けたと記されている。それだけの威力を秘めた物だ。扱う際には十分と注意し、標的との距離はしっかりと取るようにしてくれ」


 矢となればその所持者にはカムが適任であろう。

 魔法の矢を見つめながら弓の扱いを得意とする女はガァガに問いかける。


「具体的にはどれほど必要だ?」

「最低百フィートルは標的との距離をとれと伝わっている」

「百フィートル程度なら何の問題もなく狙える距離だ」


 自信満々に言い切る彼女の言葉が虚勢などではない事を、レグス達はよく知っていた。


「それからもう一つ、矢の効力を発揮する為には事前に呪文が必要となる」

「呪文? あいにく私は魔術に関してはさっぱりだぞ」

「問題ない。矢を手にして決まった言葉を唱えるだけでいい。魔術師としての素養など全く必要ない」

「……それでその必要な呪文とは?」


 カムの問いにガァガはゆっくりと呪文の言葉を口にする。

 それは古いエルフ語から成る呪文で、単語が連続するだけの簡単なものであった。


「それぐらいなら私にも覚えられそうだ」

「呪文が成功していれば矢尻が暗い紫の光を放つ、それを確認したら後は標的を射抜くだけだ」

「わかった。ここぞという時に使わせてもらうとしよう」


 矢の説明を終えると、ガァガは最後の箱の中身の説明へと移る。

 三つ目の箱に納められていたのは柔らかな色合いの生地の外套だった。


「『春園の外套』。その名の通り、着用者に春の温もりをもたらしてくれる魔法の防寒具だ。彼の地の厳しい冬には、よく役立ってくれるだろう」

「もしかしてこれ、一枚だけか?」


 ファバの問いにガァガは頷く。


「ああ、残念ながらこの一着のみだ」

「ケチくせぇな。人数分ぐらい用意して欲しかったぜ」

「そう言われたところで無理なものは無理だ。これは我らの手で作り出した物ではない。他の宝物同様、様々な種族の手を渡って流れついた逸品。他に用意のしようもないのだ」

「一枚だけってなると、こいつは順番的にレグスのもんってことか」

「俺には必要ない」


 少年の言葉をレグスは否定する。


「カム、この外套はお前が使え」

「私が? 体力的に考えてファバが使うのが一番だろう」

「子供の体格には物が大きすぎる。いざとなればお前となら二人で使う事もできるだろう」

「なるほど。たしかにこの大きさなら十分使えるな」


 魔法の外套を手にして言う女に、ファバは露骨に嫌そうな表情を浮かべる。


「おいおい、こいつ一枚を一緒に使えってか。冗談きついぜ」


 だがレグス達は冗談で言ってるわけではなかった。

 冬のグレイランドの厳しさを思えば、少年のつまらない体裁を気にしている余裕など彼らにはありはしない。

 必要とあれば、そうするだけの事だった。


 そして未熟な少年の立場ではそれを了承するしかない。


「……まじかよ」

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