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黒い魔剣使い  作者: マクドフライおいもさん
絶望が哭く夜
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必殺の一撃

 勝負を決するにこれ以上とない好機。

 倒れたイファートの巨体に向かってレグスは真っ直ぐと獅子馬を走らせた。


「今だ、飛べ!!」


 命に従いドヌーガが地面を蹴り飛び上がる。

 そしてその猛獣の背をさらに蹴り、レグスは炎の巨神の頭部に飛び移った。


――なんて熱だ。


 竜をも焦がす大炎から成る巨神の霊体の上に立ち、レグスは実感する。

 大いなる風の加護が無ければ、たとえ魔剣の力があれど、とても人の身で耐えられるものではなかったろうと。

 実際レグスから離れ、風の加護を失った猛獣の肉体はあっという間に燃え尽きていた。


――二度目はない。


 その事を自覚し、彼は有らん限りの力を振り上げる魔剣に込めた。

 体が砕け散りそうな激痛が走る。それは魂を削る痛み。

 己のモノのみならず、内に宿るセセリナの魂をも喰らい魔剣は力を増す。


「神をも喰らってみせろ!! 魂喰らいの剣(ソウルイーター)!!」


 レグスは持てる力の全てを込めた必殺の一撃をイファートの頭上に突き立てる。


 力の爆発。それも大きな大きな爆発が起こった。

 まるで火山が噴火したかのように、爆音と共に熱風がレグス達を中心にして吹き荒れた。

 その嵐に、城の者達は辺りの物につかまり耐え凌ぐ。

 そうして吹き荒れる風が止むと、彼らは決着の行方を見定めようと慌て視線を城外へと戻した。

 だが城の周囲は砂塵で覆われ、数フィートル先すらはっきりと見えはしない。


「まるで何も見えん。いったいどうなった。あの男は、異形の神を討てたのか!?」


 壁の民達がざわつく中、少しずつ砂ぼこりが晴れていく。

 そうして次第に視界が開けると、彼らの見定めんとする瞳は砂塵の中に浮かぶ影を捉えた。

 それは巨大な影だった。


「あ、あれは……」

「まさか、そんな馬鹿な……」


 うろたえる大男達の前で巨大な影が震え、咆哮する。


――ウボオオォォ!!


 その咆哮と共に再び風が吹き、砂塵が完全に払われ、中より姿を現す燃ゆる巨体。

 古き神は、炎の巨神イファートは、なおも健在であった。


「なんてことだ。不浄の王を討つ黒き剣の力を以ってすら、及ばぬのか……」


 業深き魔剣、その必殺の一撃を以ってしても討つに届かず。


 咆哮するイファートの姿に人々は実感し、理解する。

 人が渾身の力を以ってしても届かぬ圧倒的存在。絶対なる力を持つ者。

 故に人は彼の者達を『神』と畏れたのだと。


「何故だ星々よ!? あの方は我らの王ではなかったのか!!」


 レグスの敗北に動揺する壁の民達の中でもマルフスのそれは著しかった。

 星の声が告げし救世主の敗北に彼は混乱していた。


 怒れる炎の神を止めるのは、星が告げし者の役目ではなかったのか。

 この窮地をあの者以外の誰に救えるというのか。


 混乱と失意によってその場からマルフスが動けずにいると、周囲の壁の民達がイファートの様子がおかしな事に気付き、言う。


「どうした。いったい奴は何をしている……」

「何かを探している? まさかあの男を」

「あれだけの爆発だぞ。もはや生きてはいまい」


 彼らのやりとりに、動揺しほとんど固まっていたマルフスの思考が再び動き出す。


 あの爆発だ。通常ならばアレに巻き込まれて助かる者がそうそういるとは思えない。

 だが彼は特別だ。星に選ばれし者なのだ。

 一縷の望みはある。

 あの男は、まだ死んだとは決まっていない。


 であるならば、自分がすべき事はただ一つ。

 ようやく巡り会えた運命を絶やすわけにはいかない。


「お前達、いったい何をぼさっと見ている!!」


 声を荒げてマルフスは激する。


「戦うのだ!! 戦って、我らの王をお救いするのだ!!」


 だがマルフスの求めにも、大男達は戸惑うばかりで動かない。

 互いの顔を見合わせ、怪訝な面持ちで小男を見て、突然何を言い出すのだと言わんばかりの様子。


「ええい、何が戦いの民だ、臆病者共!!」


 吐き捨てるようにそう言うとマルフスは弩を手に駆け出す。


 骸転がる城内を一目散に駆ける小さな壁の民。

 まともに戦えぬ臆病者と笑われてきた彼だけが、怒れる古き神のもとへと武器を手に向かっていた。

 絶対的な神の力を前にしてなお、彼だけが戦おうとしていたのだ。


――何が出来る。自分にいったい何が出来る。敵うはずもない。こんな事をしても炎に巻かれ無惨に死ぬだけだ。


 迷いや恐れ、駆ける脚を止めるものはいくらでも己の内から湧いて出てきた。

 しかしそんなものよりもずっと大きな使命感が彼を衝き動かす。


――だが、死なせては駄目だ!! 絶対に死なせては駄目なのだ!! あの男だけは、あの方だけは、何としてもお救いせねば!!


 トロル達に打ち破られた城門を抜け、外に飛び出すマルフスの姿に壁の民達は皆驚いた。


「おい、ありゃマルフスじゃねぇか」

「あの馬鹿何を考えてやがる」

「あいつ、逃げる方向間違えてるんじゃねぇか」


 彼の覚悟と意図に、多くの者は気付けずにいた。


 そんな中、炎の巨神は大地に転がる標的を見つけると、燃やし尽くさんと容赦なく近付いていった。

 転がるそれの方はというと、まるで動かず、遠目にはもはや死んでいるようにしか見えない。


 だが、それは生きていた。

 わずかではあるがその男、レグスは確かに息をしていたのだ。

 当然、まったくの無事であろうはずもない。

 朦然とした意識、これ以上とない満身創痍。

 精神も肉体も限界をとうに超え、指一つ満足に動かす事すら出来はしなかった。


 にも関わらず、そのような状況にあってなお、男は望む。


――戦え、戦え、戦え。


 必殺の一撃を浴びても倒れぬ相手、そもそも唯一の攻撃手段といえる黒き魔剣すらもどこに吹き飛ばされたか、手元にはありはしない。

 誰が見ても勝ち目のない状況。

 それでも彼の闘争心は高まるばかりで決して萎える事はなかった。


 戦い続けなくてはならない。

 目的を果たすその瞬間まで、戦い続けなくてはいけない。

 たとえ阻む者が神と呼ばれる存在であろうと。


――戦え、戦え、戦え。


 まるで呪いのようにまとわりつき、あらゆる感情を塗りつぶし、ただ戦う事だけを己の精神と肉体に要求する。

 闘争に対する狂った執着心。

 壊れたように頭の中で響き続ける言葉。


――戦え、戦え、戦え。


 しかし、それが叶う事はない。


 レグスの意識は大きな力に引きずられ沈んでいく。

 昂りと裏腹に、意識が深い闇の底へと沈んでいく。

 どれだけもがき、抗えど、限界を超えた精神と肉体は彼の要求に応える事無く沈んでいった。


 そして焦がれるほどの闘争心を抱きながら沈んでいくレグスの意識が、闇に呑まれるその刹那、声がする。

 それは優しくも物悲しい声だった。


――ごめんなさい、レグス。私には、お前の炎を静めてやる事が出来なかった……。ごめんなさい……。

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