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絶望を体現する光景

 飛来する大岩がもたらした門街の混乱。

 その最中、壁の民の戦士の女ルルはいち早く友であるクルクと共に、フリアと灰の地を隔てる巨壁の方へと向かい駆けていた。


「ちくしょう!! なんて有り様だ!! 当番の奴らは警報の鐘を鳴らしもせず、いったい何してやがんだ!!」


 凄惨な街の光景を横目に走り続けながら、クルクが守衛の任についている者達の失態を罵った。


「鳴らさないんじゃない、鳴らせなかったんだ!!」

「馬鹿な、これだけの規模の攻撃だぞ!! この間トカゲ共の侵入を許したのとは訳が違う。いくらゴブリンの詐術を用いたとしても、巨大な攻城兵器の姿まで隠せるものではない!!」


 高さ五十フィートルある巨壁を超えて大岩は飛んできている。

 それを可能とするだけの投石機を用意したとなると、その大きさも相応の物となろう。

 ゴブリンのちゃちな魔法でどうこう出来るはずもない。

 守衛の任についている者達は遠目からでもその巨大な兵器の存在に気付けたはずだ。


「だが、事実鐘は鳴らなかった!! 何かが起きているのだ!! いや、起きようとしている!! 我々の予想よりもずっと悪い何かが!!」


 ルルの言葉にクルクは怒りを強く込めた口調で言う。


「何かだって!? この惨状がその悪い事だ!! これ以上の惨事がどこにあると言うのだ!!」


 クルクはまさに今起こっている出来事、飛来する大岩が街を押し潰していく惨状を見て、それ以上の事が起こりようがないと考えていた。


 だが、ルルは違った。

 今までとは何かが違う。彼女にはすべてが奇妙に思えるのだ。


 あれだけの大岩を街の中にまで飛ばす兵器。そんな物を果たしてあの不器用で鈍いオークやトロル共に用意出来るのだろうか。

 たとえゴブリンの協力があったとしても所詮は浅知恵止まり、大型の兵器を設計できるとは思えない。

 いや、奴らがどうやって数多くの大岩を飛ばしているかという問題よりも、そもそもこれだけの規模の攻撃ならば、壁の守衛どころか灰の地で魔物達の侵攻の警戒にあたっている前哨地から、とうの昔にその知らせが届いていなければおかしい。

 警戒網を掻い潜りこの街へと近付き、壁の守衛が鐘を鳴らす間もなく攻撃を仕掛ける。

 そんな事が、灰の地のあの愚鈍な魔物達に可能なのだろうか。


 ルルの内で悪い胸騒ぎが止まない。

 何かもっと悪い事がこれより起ころうとしているとしか彼女には思えなかった。


「それは……」


 けれども、具体的にそれが何であるかを想像する事は出来ず、ルルは続く言葉を失う。

 言いよどむ友を見てクルクが言う。


「とにかくだ、こんな事を仕出かした屑共を必ず全てこの手で葬ってやる!!」

「ああ、もちろんだ」


 この時、ルルは不穏な兆しを感じながらも心の片隅ではどこかまだ事態を楽観していた部分があった。

 千を越す年月の間、どのような危機も困難も壁の民は撥ね退けてきた。

 この試練もまたそれらと同じだと。

 自分達にはどのような苦難が待っていてもそれを乗り切るだけの力がある、最強の民であるとの楽観があったのだ。


「妙だな……」


 壁の内へと足を踏み入れたルル達はその異様な静けさに違和感を覚えた。

 もとより春に入った今の季節、壁には最低限の数の守備隊しか配置されていない。ある程度人の気配がしないのは予想出来た事だが、それにしても静かすぎた。

 人の気配が全くないと言っていいほどだ。

 今、街は攻撃を受けている最中であり、慌ただしく動き回る戦士達の怒声が一つや二つ聞こえてきてもいいはず。

 しかし、彼女らの耳に聞こえてくるのは、壁の内を吹き抜ける風音だけであった。


 静寂に戸惑うルルにクルクが声を掛ける。


「とにかく外の様子を!!」

「ああ」


 壁の内に備えられた石階段を二人は急ぎ昇っていく。

 巨壁の下部二十フィートル部分には空気と光を取り入れる為の窓が街側にこそ付いているが、灰の地側には強度を優先する為、覗き窓一つ存在しない。

 その為、壁の内から外の様子を窺うなら、最低でも二十フィートル分は石段を上る必要があったのだ。


「ルル!!」


 階段を駆け上る途中でクルクが突如足を止めた。彼女の鼻を強い臭いが刺激したからだ。

 それは血の臭いだった。

 当然ルルもその臭いには気が付いている。


「油断するな、敵はすでに壁の内に入り込んでいるぞ」


 警戒心をより高めながら二人の大女はさらに上へと向かう。

 どんどんと血の臭いが強まり、やがて風音に不快な鳴き声が混ざり始める。


 リザードマンの鳴き声だ。

 壁をよじ登るトカゲの魔物共の声に違いなかった。


 無言で互いの顔を見合わせ、状況を確認する二人。

 剣を持つ拳に自然と力が込められる。

 そして、二十フィートル分の階段を上り切った先で彼女達は目撃する……、赤き血を流す同胞の骸の数々と、それを見下ろす一人の男の姿を。


 その男の風貌は人に近いものであった。

 二フィートル近い背丈に細身の体型。壁の民ではなく、どちらかと言えば壁の西に住まう者達に近い。

 だが彼は人間ではない。

 ルル達はそれを一目見て理解した。男の持つ特徴的な尖り耳が何者であるかを知らせていたからだ。


『エルフ』。


 神々の恩寵を受けし者。祝福されし民。選ばれし種。

 聡明にして長命、美麗なれど精強。

 彼の種族を称える言葉は数知れず、大陸中の国々で、その希少な数に反して広く知られている者達。

 されど、目の前の男はそんな伝聞の中で語られるエルフ達とは大きく異なっていた。

『絹のように滑らかな白い肌』からは程遠い、黒ずみ荒れ果てた肌。

『宝石のような美しき瞳』と呼べぬ、濁った瞳。

 縮れた髪の毛に、黄ばんだ歯。

 美と情熱の神ビレイウスにも認められたという、美しき種の面影がほとんど失われてしまっている。


 エルフの特徴的な耳を備えど、エルフの美しさを微塵も感じさせる事のない者達。

 そんな者達を、ルル達、壁の民はよく知っている。


 壁を東に越えた先、春になっても決して芽吹くことのない病み木に囲まれながら暮らす者達。

 枯れ森に住まうエルフ、神々に見放されたダークエルフの一族だ。


「枯れ森の住人がこんな所で何をしている」


 同胞の骸に少しばかり目をやりながら、憤りを隠さず睨みつけルルは問う。


「何を?」


 すると、愚問だなといった表情でダークエルフはルルを見た。

 そして彼は真っ直ぐと、静かに冷酷な瞳で彼女を見据えながら、単純明快な答えを口にする。


「……戦争だ」


 ダークエルフの男の言葉にハッとし窓の外の景色へと目をやるルルとクルク。

 彼女達がそこで見たもの、それは絶望を体現する恐ろしき光景だった。


 東の空を人の女のような顔を持つ怪鳥が飛び回り、黒い雲のように群れを成していた。

 その下では大小醜き者達が列を作り、こちらへと向かい突き進んで来ている。

 巨大な投石兵器の傍らには牛の頭を持つ巨人が立ち、忙しなく大岩を込め続けている。

 オーク、トロル、ミノタウロス、ゴブリン、リザードマン、ハーピー。

 異なる主を崇め、汚れた血を引く者達が、これまで彼女達が目にした事もないような大軍となり、この壁の地へ攻め寄せているのだ。

 そしてこの地へ攻め込んできたのは魔物だけではない。

 季節外れの侵攻、街に大岩の雨を降らした巨大な兵器、鮮やかな奇襲、愚鈍な魔物達の攻撃にしては不可解な点の数々。

 その答えとなる存在、奴らに手を貸す者がいる。


 そう、目の前に……。


「何を驚く事がある」


 ダークエルフが言う。


「皆目的は同じだ。壁の先へ、その為に我らは手を組んだのだ」



 攻め寄せる魔物の大軍勢をルルが目撃していた頃、決闘で瀕死の重傷を負ったレグスはカムやファバの助けを得ながらも混乱極まる会場より脱し、どうにか人の目につかぬ場所へと移動していた。

 そこは特に何でもないような物陰だった。

 そんな所で貸していた肩からおろすようレグスに言われ、カムは少し困惑した表情を浮かべた。


「本当にいいのか? こんな場所で……」

「ああ、ここでいい」


 頷く男の傷はありきたりな傷薬で治るようなものではない。

 医術に関する専門的な知識が無くとも、それぐらいはカムにもわかった。


「やはり私が彼女を、ミルカを探して呼んで来よう。無理を承知で頼むだけ頼んでみれば、もしかすれば……」


 ミルカは治療の魔法に長けており、その力を以ってすればレグスの傷もなんとかなるかもしれなかった。

 ただし、彼女が素直に助けとなってくれるかは別問題である。

 レグスとローガ開拓団の今の関係性では断られる可能性はむしろ高いと言っていい。

 それでも、まだ出会ってから日は浅いがミルカという人間を多少なりとも見てきたカムは、彼女ならば助けになってくれるのではないか、そう考えていた。


 けれども、そうした配慮を。


「必要ない」


 と、レグスはばっさりと切って捨てる。


「だがその傷でどうするつもりだ。このままではお前は間違いなく命を落とす事になるぞ」

「このままにしておくつもりはない」


 そう断言したレグスがファバの方を見る。

 そして、少年の首紐に繋がれた指輪に彼は呼びかける。


「セセリナ」


 すると指輪が青白い光を発し、そこからいくつもの光体が飛び出した。

 カムがその現象に驚く内に光体は形を成していき、やがてそこには息を呑むほどに美しき少女の姿が出来上がる。


「これは……、いったい……」


 淡く溶けてしまいそうな青を帯びた可憐な少女が立っていた。


 その外見に反し、彼女からは確固たる存在感が発せられており、カムは自然と目を奪われてしまう。

 この遊牧民の女が今わかる事は、恐らくは少女が只者ではないという事だけだった。


 ひどく驚くカムを一瞬だけちらりと見たものの、少女は特に彼女に言葉をかけたりもせず、レグスの方を見て言う。


「まったく、相変わらず無茶ばっかりするんだから」


 古くからの馴染みのような口調に二人の関係性を少しは理解するカム。

 少なくともこの謎の少女は敵ではない、自分達の助けとなってくれる存在なのだと。


「頼めるか?」


 レグスの言葉にため息をついて少女は言う。


「私を誰だと思っているのよ、このぐらいの怪我ならなんてことはないわ。けど、急ぎで治す分多少痛むわよ、覚悟なさい」


 街が攻撃を受けている最中にのんびりとした治療をしている時間はない。それはレグスも承知している。


「ああ」


 そっと腰を落としレグスの腹部へと手を当てる少女。

 その手からは不思議な青白い光がより強く発せられていた。


「くっ」

「我慢なさい」


 痛みに顔を歪めるレグスに、まるで母親が子に叱るように言う少女。

 大の男が、見た目だけで言えば年端もいかぬ娘に怒られているような様はなんとも奇妙であった。


「まっ、とりあえずはこんなものでしょ。どう?」

「……だいぶ楽になった」


 そう言って立ちあがると腰を回し始めるレグス、さっきまで死に掛けていた男とは思えないほどにピンピンとしている。


「見事なものだ」


 少女の術に感心しながらカムが言った。


「それで……、こちらのお嬢さんはいったい?」


 彼女の問い掛けに少女自身が答える。


「私はスティアのセセリナ。よろしくね、お嬢ちゃん」

「スティア?」


 聞きなれぬ言葉に難しい顔となるカム。それを見て今度はレグスが口を開いた。


「古い精霊の一種だ」


 驚く遊牧民の女に、セセリナは得意気な表情を浮かべながら言う。


「まぁこの子達の保護者ってところね」

「精霊が……、保護者?」

「ええ、だってレグスが赤ん坊の頃から私が世話してやってるんだから」

「おい!!」


 わざわざ偽名を名乗っていたのに勝手に本名を出したセセリナをファバが注意しようとするが……。


「レグス……、なるほど、偽名だったわけだ」


 既に手遅れだった。


「何よ別にいいじゃない。彼女は信頼出来るわよ。それに世話になっている相手に偽名で通しつづけるなんて失礼でしょ」

「よく言うぜ……」


 悪びれる様子が微塵もないセセリナに、少年が呆れ言った。


「悪かったな。騙すような真似して……」


 バツが悪そうにカムを見るファバ。

 好意で手助けしてくれている彼女を、仕方がないとはいえ名を偽り騙し続けてきたのだ。

 気を悪くされても仕方がない。


「騙す? 別に気にするほどの事でもない。慎重を期して名を偽るなどそう珍しい事ではないからな」

「そうか、それならいいんだけどよ……」

「だが少し残念ではあるな。多少なりと私の事を、お前は信頼してくれていると思っていたから」

「うっ……、ファバだよファバ!! 俺の名はトウマじゃなくてファバだ!! これでいいだろ!!」


 慌てる少年を見てカムはくすりと笑う。


「冗談だ」

「てめぇ……」

「そう気を悪くするな。あらためてよろしく頼む、ファバ」


 差し出された手に素直に応じ、握手する少年。

 二人のやりとりを見てレグスは言う。


「短い間にずいぶんと打ち解けたようだな」

「ああ、裸の付き合いもした仲だからな」


 真顔でそんな事を言い出すカムにファバは慌て訂正を入れる。


「馬鹿言ってんじゃねぇ、風呂代わりに背中を拭いてやっただけだろうが!!」

「そうだな。私の裸を見ていっちょまえに顔を赤くしている少年に背中を拭いてもらっただけだ」

「てめぇ、まじでいい加減に!!」

「はいはい、そこまでになさいな二人とも」


 放っておけば日が暮れるまで続きそうな二人の会話にセセリナが止めに入った。


「今は緊急事態よ。じゃれあうのは後にしてちょうだい」

「じゃれあってなんかいねぇ!!」


 声を荒げるファバを無視してレグスが言う。


「セセリナの言う通りだ。あまりゆっくりとしている時間はない。荷を取りに戻るぞ」


 天幕に置いた荷物の中にはこの緊急時に役立つ物もある。これからどう動くにせよ荷物を丸ごと置いたままとはいかない。

 レグスの指示にカムも頭上を見やり賛同する。

 彼女の視線の先では、鷹が空を舞っていた。



 切迫した状況の中で、巨壁の内では魔物の大軍を目にしたルルが、王にこの事態を知らせるようクルクに命じていた。


「急げ」

「だが……」


 しかし大軍迫る中、このような場所に友を一人残していく事に抵抗感を覚えるクルク。


「急げ!!」


 それでも決死の命に、無理矢理にでも未練を断ち彼女は駆け出す。


「もはや今さら手遅れだ」


 クルクの後姿を眺めながらダークエルフの男が言った。


「黙れ、腐れエルフ!! お前達の醜き野望を阻止し、我らはフリアの地を必ずや守ってみせる!!」


 危険を顧みず一人この場へ残った壁の民の大女は臆する事なく敵へと斬りかかっていく。


「くくっ、守るだと?」


 大女の大剣の乱舞を全て受け切りながらダークエルフが笑う。


「何がおかしい!!」

「お前達壁の民はフリアの地を守ると言うが、何を以って守ったとするのだ。あの地に住まう者達は戦争ばかりしているぞ」

「壁の内の争いごとについては、我ら壁の守護者の関するところではない」

「都合のいい話だ。壁に内も外も無かろうに」

「馬鹿を言え」

「変わらぬさ。壁の東も西もな。フリアに住まう者も、灰の地に住まう者も、同じように争い続けている」

「我ら人を、汚れたお前達と同じにするな」

「我ら? 肌の色も瞳の色も髪の色も違うに止まらず、星すら見れぬ巨人の成り損ない共が今だ人間を気取り続けるか。……滑稽だな。だがお似合いだ、正義の守護者ごっこを飽きもせず続けてきた、哀れなお前達にはな!!」

「我らの崇高な戦いを貴様ら如きが愚弄するな!!」

「崇高な戦いだと? まさしく、まさしくそれだ!! お前達が守ろうとしているものはフリアの地などではない!! その欺瞞だ!!」


 怒りと憎悪を込めダークエルフの男は言う。


「いったいいつまで偽り続ける。いったいいつまで騙し続ける。目を開け、愚かな灰色の民よ。フリアの地はとうの昔に、血に塗れているぞ!!」

「ほざけ!!」


 力いっぱい大剣を振りぬくルル。

 その剛の剣を、ダークエルフの男は巧みに受け切ってしまう。


――強い。


 戦いながらルルは感じていた、目の前の男がオークやリザードマン達とは比べ物にならぬほどの強敵である事を。

 並の魔物ならば数十体と葬れよう自分が、わずかたった一人の相手に手間取っている。

 それだけの強敵。両者の実力は拮抗していた。


 どちらが勝利してもおかしくない戦いが続く。

 そんな中、突如地面が大きく揺れた。

 大岩が落ちた揺れとはまた違う揺れだった。


 ドシンという震動の後、何処から聞こえて来る大きな駆動音、その音にルルは覚えがあった。

 つい先日、聞いたばかりの音。

 剣を振るう大女の動きが止まった。


 それを見て、ダークエルフは邪悪な笑みを浮かべる。


「だから最初に言ったはずだ、もはや手遅れなのだと」

「まさか、そんな馬鹿な……」


 ルルは状況を飲み込みきれず戸惑った。


「門が、なぜ門が動き始める……」


 大きな駆動音の正体、それは灰の地とフリアの地を結ぶ玄関口、巨壁の『大門』が開く音であった。

 今から敵が攻め入ってくるというのに、その攻め口を自ら好んで開ける馬鹿はいない。


「何をした!! お前達、いったい何をした!!」

「どれほど立派な鍵も、取り扱う者が愚かでは役目を果たせぬさ。鍵は既に我らの手の内にあった」

「あり得ぬ!!」


 秘密の言葉を知らねば、大門の開閉は不可能なはずだった。

 しかもその秘密の言葉を知るのは、壁の民でもごく限られた者のみ。


「あり得るさ。事実、門は開いた」

「なにかの間違いだ」


 事態を信じようとせぬ無様で惨めな戦士に、苛立ちを覚えながらダークエルフは声を荒らげる。


「まだ言うか。まだ偽るか。刮目せよ!! 灰色の民よ!! 新たな時代が始まるのだ!! 偽りの神々が築いた欺瞞の象徴が、今、ここに崩れ去ったのだ!!」


 長く、あまりに長くフリアと灰の地を隔て続けた巨壁。

 ルルが生まれるはるか古より存在し続けた絶対の防壁。

 祖先が守り続けてきた。父が、母が、友が、身命を賭して守り続けてきた守護者の象徴たる壁。

 それが今日。


 わずかの間にして破られた。

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