東へ、東へ
レグス達がローガ開拓団に参加して数日後、彼らはサドゥダラの街を発ち東へと進路をとっていた。
花月の決められた日には『壁』へと辿り着いていなくてはならない。その日を過ぎれば壁の門が開かれる事はなくグレイランドへの道を失ってしまう。
日数にはまだ少し余裕があったが、彼らは『人』と『情報』を集いながら壁を目指しており、一箇所に長居するわけにはいかなかったのだ。
しかしそれから日を重ねても、人も情報も思うようには集まらなかった。
情報が集まるような大きな街ではローガ開拓団がほとんど追放処分のような扱いで壁を越える事が広まっており、腕の立つ者は耳が良い者も多くこの開拓団に加わろうとはしない。
さりとて、ろくに情報も集められない素人同然の人間やたいした武功もないただの田舎者を雇っている余裕もない。
結局、人もこれといった情報も増える事はなく、ただただ東に進み、日々が過ぎるだけの時がしばし続くのであった。
天秤月が終わりに近付き春の訪れの予感を風が知らし始めた頃、ローガ開拓団の面々はミドルフリアも遠く、東の辺境にさしかかっていた。
こんな田舎まで来てしまえばもう人も情報も集まるまい。あとは壁へと向かうだけだと誰もがそう思っていた。
そんな時、街道を行く彼らの馬車の前にいくつもの人影が立ち塞がる。
それは衣服も顔立ちも薄汚い男達。見るからに野盗の類いである。
「ちっ街道荒らしか」
先頭を馬で行くガドーがそう言って背後へと視線をやる。
「どうします、シドさん」
彼は幌の付いた荷馬車の御者台に腰掛けるシドに指示を仰いだ。
「警告だけはしておいてやれ」
「はいよ。……おい、あんたら!! 俺達がグレイランドを目指す開拓団と知ってなお、つまんねぇ狼藉を働こうってわけじゃねぇだろうな」
ガドーが大声で呼びかけると一団の頭領らしき男は笑う。
「そうか!! 噂の開拓団の連中か!! こりゃあついてるぜ!! たった一台の馬車、お前ら本隊からはぐれたな!! これから先の大冒険に備えてたっぷりと積荷は積んであるだろ!! 大人しく馬と積荷は置いていきな!! そうすりゃ命だけは助けてやる!!」
たった一台の馬車と積荷、それと幾人かの人間に騎乗用と荷物運びを兼ねた予備の馬。
これらだけでローガ開拓団のほとんど全てであると言っても差し支えないほどなのだが、盗賊共はレグス達を本隊からはぐれた開拓団員だと勘違いしている。
「おいおい、俺達は別にはぐれたってわけじゃねぇよ。これでほとんど全員だ。わかるか、この少人数で壁の先に行こうって事だよ。それだけの猛者揃いってわけだ、街道荒らしがどうこう出来る相手じゃねぇってわかれ」
ガドーがそう言うと臆病な盗賊の何人かは不安そうな表情を見せたが、頭領らしき男は一笑する。
「見え透いた嘘を!! 誰が信じるかそんな話!!」
「本当だって、悪い事は言わねぇから素直にここはひいておけ」
ガドーは説得を続けようとするがその一連のやり取りを無意味だと察したのだろう。
馬車からミルカと共にベルティーナが降り立ち言う。
「馬や荷が傷付くと面倒だわ、さっさと始末するわよ」
幌馬車から出てきた女の言葉より、その美しい外見に盗賊達は興味を示す。
「おほっ、女だ!! それも若い女だ!! おい、お前、変更だ。馬と荷、それに女も置いていけ!! それで手をうってやるぞ!!」
より下品な口調で話す盗賊に、ガドーは話にならないと首を振った。
「交渉決裂だ野郎共!! 馬と荷はなるべく傷つけるな、それと女は必ず生け捕りにしろ!!」
頭領が手下達に攻撃命令を出し、襲いかかろうとした瞬間だった。
何かが頭上で鳴いた。
その鳴き声に、盗賊達は激しく動揺し空を見る。
鷹だ。鷹が鳴きながら空を旋回していた。
「ちっ、しつこい奴だ!! 運がよかったな、お前達。……残念だぜ嬢ちゃん達、せっかく俺らがたっぷりとかわいがってやろうと思ったのによ!!」
そう言って下品に笑うと、頭領は攻撃を開始するどころか手下もろともどこかへ逃げようとする。
逃げようとしたのだが……。
「ぎゃああ!!」
「ぐわああ!!」
退路に巨大な火の球が飛び、何人もの盗賊を巻き込みながら爆発した。
そして突然の攻撃に驚き足を止めた盗賊達へ追い討ちの火の矢が無数に飛び、突き刺さる。
「ひいいい!!」
「助けて!!」
「熱い!! 死ぬううう!!」
五十人近くはいたであろう盗賊達はベルティーナ、たった一人の魔法によって次々と消し炭にされていった。
「てめぇ……、魔術師だったのか……」
顔を蒼白にした盗賊の頭領に対して、ベルティーナは紫の瞳を光らせ言う。
「生きていられると思ったの? 汚らわしいクズの分際で、私達を侮辱するような真似をしておいて」
嬲るような言葉を浴びせた男に対する彼女の怒りは明らかだった。
「し、知らなかったんだ……、すまねぇ、さっきの言葉は取り消す。ゆ、ゆるしてくれ!!」
女魔術師の怒りに触れた男は命乞いを始める。だがそれも無駄な事。
彼女の紫の瞳が灰色に戻ったのは、盗賊達、その全てを殺し尽くしてからの事だった。
「何も命まで奪ってしまわなくても……」
ミルカが屍となった無法者達に同情を見せるが、ベルティーナにその心は理解されなかった。
「は? 貴方、あいつらが吐いた台詞を聞いてなかったの?」
「聞いてたけど……」
「ミルカ、甘いのよ貴方は。あんなクズ共の事気にかけて、聖人にでもなるつもり?」
「そんな事……」
「いい? 灰の地では魔物だけじゃなく野蛮な蛮族共もウジャウジャいるのよ。他の開拓団の連中や殖民の奴らとも争いになるかもしれない。甘い事言ってると命取りになるわよ」
「だけど……」
「だけどじゃないの。その甘さで命を落とすのが貴方だけとは限らないの。もしも貴方の甘さがロブエル様を害するような事があれば、私は貴方を絶対に許さない」
血を分けた姉妹であろうに、ロブエル・ローガに関する事だけはミルカに対しても容赦のないものだった。
ベルティーナ。二色の瞳を持つ彼女がここまで主に傾倒する理由はいったい何であるのか、レグス達にはわからない。
「おっそろしい女だな、まったく」
一連の流れを目撃したファバが言う。
彼の体は今、馬上にあった。それも一人で一頭の馬の上にいるのだ。
壁を越えた先ではフリア各地を繋ぐ街道のような便利な道はいくつと存在しない。車輪のついた馬車など使えるはずもなく、グレイランドで活動するには馬に乗れるかどうかは死活問題だった。
レグスと出会ったばかりの頃は馬に全く乗れなかった少年であったが、短い期間に学び、今では最低限のほどは乗りこなせるようになっていた。
「グレイランドではあの女よりも恐ろしい者がいる事だろう」
ファバと並び、馬に乗るレグスが言った。
「とんでもねぇところだな、グレイランド」
「そうだ。そうした場所へ俺達は向かうのだ。怖気づいたか?」
「冗談、ワクワクするぐらいだぜ」
それは強がりも混ざった言葉だったに違いない。それでも……。
「あんたについてきてよかった。あのままザナールの田舎にこもってケチな暮らしを続けていたら、体が動いたところで、俺の心はずっと死んだままだった」
そう呟くように漏らした少年の言葉に、偽りの気持ちは一つもなかった。
「おい!! お前らもサボってないで手伝え!! 邪魔な死体をどかすぞ!!」
ガドーがレグス達に言う。
ベルティーナが築いた焼死体の山。そのうち幾人分かは街道の上に転がっている。それをどけるのは雇われ共の役目というわけだ。
魔法の炎に焼かれ異臭を放つ物体、その始末をするガドー、レグスとファバ、ディオンにツァニス。
死体を片付けるといっても信心深くもない上に善人でもない彼らは、墓を作るどころか埋めてやるような事もせず街道の脇に雑に置き捨てるだけ。
あとは通る誰かがどうにかしてくれるだろうといったいい加減さであった。
その終わり、ベルティーナの虐殺の最中去っていた鷹が再び彼らの頭上に現れ、さらには馬に乗った女が街道の先より姿を見せた。
女は弓を手に馬で駆けながらレグス達に向かって叫ぶ。
「大丈夫か!!」
盗賊に襲われていたレグス達を心配して言っているのだろうが、状況が状況なだけに返す言葉も見当たらない。
レグス達は互いの顔を見合わせるしかなかった。
「ライセンがここで盗賊共に襲われていると!!」
傍らで馬を止めた女。年は二十そこそこに見え、人種は東黄系のようだが、彼女の身につけた独特な衣服は強く目を惹いた。きめ細かい刺繍が施され美しい模様を作り上げている。砂埃を浴びて脚の方の部分は汚れが目立つがそれでも、売れば良い値が付くだろう。
「ライセン?」
「私の鷹だ。賢い奴でな、彼が知らせてくれたのだ。そんなことより奴らは!?」
ガドーは無言で移動させたばかりの黒こげ死体を指差す。
「あれが!? お前達がやったのか、結構な数の盗賊だったはずだが」
「俺達というか、俺達のボスがな」
「ボス?」
「腕のいい魔術師さ。そこらのごろつきじゃ百や二百束になっても相手にならん。まっ、この結果をみりゃわかるだろう」
ガドーの口調はどこか自慢げだった。
「凄腕の魔術師……、お前達まさか、灰色の地に向かうという開拓団か!?」
「だったらなんだってんだ」
「はは、まさかこんな所で出会えるとは。よし……、なぁ、頼む。私もこの開拓団に加えてくれないか。壁を越えた先に行ってみたいんだ」
「行ってみたいって……、俺達は旅行に行くんじゃねぇんだぞ。やめとけ田舎娘」
ガドーの言葉に女はむっとした表情で言い返す。
「では尋ねるがお前達は灰色の地の事をどれほど知っている? 行く道に当てはあるのか? 私にはライセンがいる。未知の場所では空からの目は役に立つはずだぞ」
「空からの目?」
女が指笛を吹く。すると鷹が彼女のもとへ降りてきて弓を持つ手とは反対の腕に止まる。
「見事なものだ」
「やるねぇ」
レグスとディオンが鳥を見事に飼いならす女に感心した。
「この子は賢い。はるか上空から何キトル先もの空で、大地で、何が起こっているか知らせてくれる。灰色の地は多くの魔物が棲みつく恐ろしい地だと聞いている。この子の目は役立つと思うが?」
「ああ、わかったよ」
ガドーが面倒そうに言うと、この開拓団に加われると早合点したであろう女が少しばかり笑顔になる。
「じゃあ」
「待て待て、そうじゃねぇ。俺達は下っ端だ。決定権なんかねぇよ。ちょっと待ってろ」
ガドーがシドを呼びに行く。一言二言交わした後シドは御者台から降り、女の方へとやって来る。
そして身なりと顔を確認した後、ハッキリと短い言葉で彼女の参加を拒絶した。
「駄目だな」
「……何故だ?」
「鷹使いというのは魅力的だが、灰の地で戦っていけるとは思えんのでな。悪いが他を当たってくれ」
「私は戦えるぞ。女だからといって甘く見るな。私はこの愛馬フウバと旅を続け、鷹のライセンと共に悪党を討ってきた。盗賊共だけではない村々を荒らすオーク達すらも私達の力だけで退治してきたのだ。私には幼き日より草原で学んだ弓術と馬術がある、戦いで足をひっぱるような真似はしない」
「草原で学んだ術か……。そういう話ではないのだよ、遊牧民の娘よ」
「では何が気に喰わない」
「目だ」
「目?」
「瞳の中に濁りがない。お前は正義感の強い娘なのだろう。曲がった事が嫌いで、村々を無法者や魔物の襲撃から救う。それもほとんど無償でやっていたのではないのか?」
「それの何がいけない」
「悪い事ではない。立派な事だ。だがグレイランドではそんな生き方は通じないだろう。お前の目には己の手を汚す覚悟がない」
「手を汚す……」
「人を殺せるか殺せないか、という話ではない。時に悪だとわかっていても、それを為す覚悟があるかどうかだ」
「それは……」
悪を為す、それは女の価値観では許せぬ行い。殺しが問題なのではない。その殺しに正義の信念がない場合が問題なのだ。
まさしくそこを見抜かれていた。
「我々は余裕があるわけではない。覚悟のない者を連れて行く事は出来ん」
正義感、時に素晴らしく、時に混乱をもたらす諸刃の剣。
シドはよくわかっていた、自分達のような集団にこの手の人間を加えてもろくな事にはならないと。
「待てシド、あんたの言葉は正しい。だが、そのあんたの言葉を借りるなら『使い方次第。互いにどこまで譲歩し、利用し合えるか』だろう」
レグスが間に入る。
「何が言いたい」
「この女が何の目的があってグレイランドを目指すか知った事ではないが、彼女がまず必要としているのは、壁を越える事ではないのか?」
女の方を見るレグス。彼女は頷き言う。
「ああ、そうだ」
「そして私達は灰の地の情報が不足している。地形すらも満足には把握できていない。鷹の眼があるかないかは大きな違いとなる」
「だからと言って水と油を無理に混ぜるわけにはいかん」
「混ぜろとは言ってない。一時的に同行させるだけだ。壁を越えさせてやる代わりに、彼女には私達の拠点となる場所が見つかるまで協力してもらう。道中彼女の気に喰わない事もあるだろう、だがそこは我慢してもらう。拠点を見つけ本格的に活動出来るようになれば、彼女とは別れる」
「本当にそんな事が出来るなら、確かに悪くはない。だがこの娘の方が了承するとは思えんな。灰の地で一人放りだされては彼女とてたまったもんではあるまい」
シドの言葉に女は迷いなく断言する。
「私は構わない。壁さえ越えられるならば、この子達とだけでも生きいけるつもりだ。たとえそこが灰色の地であろうとお前達の助力は必要としない」
「たいした覚悟だ。だが耐えられるかな。壁の先にある悪事を前にして、それを見過ごすような真似が出来るのか?」
「今さら己の生き方を変えるつもりはない。だが人も獣も、必要があれば命を食らう性に生きている。ある程度のことは目をつぶると約束しよう」
「ある程度」
「そうだある程度だ。物事には限度がある。巨悪を前にしてそれを許すほど、私の心は腐ってはいない」
女の言葉に難しい顔で考え込むシド。そして。
「……よかろう。レグスの案を採用しよう。遊牧民の娘の壁越えを手助けする代わりに、彼女には私達の活動の拠点となるような場所が見つかるまで協力してもらう」
女は再び笑顔になり、感謝の言葉を告げる。
「恩に着るぞ、シド!!」
「礼など必要ない。お前の鷹の力を私達の開拓団が欲したまでの事だ。出来る事なら短い付き合いで済む事を願っているよ。その方が互いの為になるだろう」
ローガ開拓団に一時的の約束ではあるが、遊牧民の女が参加する事となった。
彼女は名をカムと名乗り、自分が六百年も昔、フリアの北東の草原に大きく栄えた遊牧民『ジバ族』の出身だと言う。
この正義感の強そうなジバ族の女の参加をベルティーナは嫌ったが、鷹を使った空からの地形、情勢把握という手段の魅力には大きく抵抗出来なかった。
カムを加えて開拓団は再び東へと進み出す。
「さっきは助かった、ええっとゲッカだったか」
カムがレグス達の隣に馬を進ませてくるなり彼らに声をかけた。
民族は違えど一目で同じ東黄人とわかるのはこの開拓団ではレグスとファバの二人しかいない。団員一通りの紹介を受けた中でもこの二人は彼女の印象に残りやすかった方だろう。
「別に気にするような事ではない。シドも言っていたがお前の能力を評価してのことだ」
「そうか、だが助かったのは事実だ。礼を言うぞ」
涼しい女だ。それでいて温かさも感じられる。声がいい。姿勢がいい。
そのどれもに共通する事、この女には陰がない。
シドは目を見てこの女の生き方を語ったが、レグスから見れば、他のあらゆる所作までもが女の人格を表現しているように見えた。
異物だ。
混じる場が違ったのなら、彼女はただの良き人、立派な人物として歓迎されるのだろう。
悪に挑み、正しく生きようとする女。
それがこの開拓団では異物にすぎない。
間違った判断だったのだろうか。このような人間を灰色の地へ連れて行き利用しようなど。
自己の利益の為に他者を犠牲にする。するかもしれない選択。
らしくなかった。今更すぎる問いだった。何かが変わり始めている。レグスの中で何かが少しずつずれ始めている。
セセリナに己の宿命を知らされた時からか、それとも隣をいくファバとの出会いからだったか。あるいはもっと前、最初から……。
「お前の鷹の能力があれば、いくらでも他の開拓団に参加できたろうに。何故わざわざこの小さな開拓団に拘って参加する」
「団員のお前がそれを言うのか? ……そうだなぁ、まず開拓団の話を知ったのがごく最近の事だ。お前達の言う田舎娘なのでな、どこでどう参加するかもよくわからない。正直諦めかけていた。そんな時にお前達と出会ったわけだ。目の前に生まれた壁越えの機会、逃すわけにはいかないだろう。ジバ族は遊牧民だ。その場、その場の出会いを大切にする。これも何かの縁だと思ったのだ」
「呆れた女だ。そんないい加減さではこれから先が思いやられるな」
「つまらぬ理屈や雑音よりも自分の直感を信じる。それがジバの生き方だ」
「いいのか?」
レグスの問いの意図をカムは理解できない。
「灰色の地の困難はお前が想像するよりもはるかに大きく、邪悪が溢れているに違いない。お前が生まれ育った草原の厳しさなど比べ物にならぬほどのものがあの地には満ちているはずだ。……死ぬぞ」
「いきなりどうした。会ったばかりの人間の心配をしてくれているのか? 優しい男だな、お前は」
「そうではない」
「では今更後悔してきたか? よくも知らぬ者を危険な旅に連れていく、その手助けをした事を。とんだ思い違いだぞ。お前の自己保身の為に私が考えを変えるとでも?」
自己保身。いちおう忠告してやった、そんな逃げ道を用意したくてレグスはこんな会話をしているのか。
「覚悟があるのならばこれ以上何も言うまい。だがこれは忠告だ。灰色の地の厳しさは恐らくお前の想像を超えている」
「聞くに値せぬ忠告だ。草原の厳しさなど比べ物にならぬと言い切るお前は、私の生きてきた世界をどれほど知っていると言うのだ?」
カムの表情が変わった。彼女の瞳の中に炎が見えた。
「お前達が想像する以上の過酷な世界に、私は生きてきた」
彼女に陰が全くないのではない。赤々と燃えるその炎が陰を消していたのだ。




