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黒い魔剣使い  作者: マクドフライおいもさん
運命の出会い
10/77

フェスタ・アウラⅢ

 まるで生きているかのようだった。

 己の血の脈動に呼応するように、剣の中に眠る何かが胎動していた。

 彼は知っている、その胎動が何であるか。

 そして古き言葉で(うた)う男にそれは応える。


 時が来たのだ。


 黒々とした剣の刃から、漆黒に染まった力が爆発する。

 矢で刺すようなするどい波動が、嵐となってレグスを包み込む。

 身が千切れるような激動。痛みを伴うほどの脈動。

 彼の中を血ではなく異質な何かが巡っていた。


 剣から生まれる力に耐えきれず影の手が消滅していく。

 そんな中でただ一体、魔法陣の結界に守られた悪霊だけはその異変を空虚な瞳に映していた。


「狩りの時間だ」


 黒い嵐が収まると、その中心には別人と化した男が立っていた。

 しかしそれは体格など外見の変化に表れたわけではない。もっと根本的な何かが禍々しく変質していたのである。

 その男レグスは、抑えようもない死の気配を漂わせていた。


 一瞬の間。

 レグスが動いた直後に結界が破られ、悪霊の目の前に彼はいた。

 そして閃光のような一撃が悪霊を真っ二つにする。

 斬り裂かれた霊体の一部が剣に吸われるかのように歪み消えていき、標的の不快な絶叫が周囲にこだまするが、それでもレグスの剣は鈍らない。

 塵一つ残さぬ勢いで黒剣は悪霊を喰らい続けた。


「これで終わりか?」


 悪霊を滅してなお神殿内には邪悪な力がまだ生きており、床に描かれた魔法陣もその機能を停止していない。


「さっさと出てこい」


 無人の部屋で語りかける男に応えるように魔法陣が黒い光を放つ。

 そして先ほどよりもずっと強力な嵐を起こすと、竜巻に姿を変えて神殿をも呑みこみ、吹き飛ばすほどの力となった。

 やがて生じた砂塵の中より巨大な影が浮かびあがる。

 ドラゴン、翼と巨大な牙と尾を持つ四足の怪物。

 いや、正確に言うのならドラゴンの姿をした悪霊がそこにいた。


「喜べ、全部お前の物だ」


 巨大な怪物を前にして話しかけるレグス。

 それが誰に対してのものなのか常人にはわかろうはずもない。傍から見れば、気狂いの行いにしか見えないだろう。

 しかし彼にはわかっていたのだ、自身の握る剣が喜び震えているのが。

 興奮しているのは剣だけではない。邪悪なる竜霊もそれは同じ。

 戦いを始める合図を出すかのように怪物は咆哮する。


 大地を震わすほどの咆哮にもレグスは怯まなかった。

 何の迷いもなくドラゴンの懐に飛び込み、そのまま彼は後ろ足を斬りつける。

 されどその一撃は戦いを優位にするようなものとはならない。

 苦痛に巨体が鳴きはするものの、傷は瞬時に埋められていったのである。


 それは霊体特有の再生力によるものなのか。……違う。


「いったい何匹詰め込んだ、そのでかい図体に」


 黒剣は強い魔力と霊力を帯びている。その一撃は通常の悪霊が持つ貧弱な霊力で対抗出来るものではない。

 実際この巨大な霊も傷を再生しているわけではなかった。霊体内にいくつもの魂が混在していて、レグスの攻撃によって斬り喰われた部位を埋めるように新たな魂が移動してきているだけの事であったのだ。

 つまりこのまま傷を負い続ければ、いつかは部位を埋めるだけの魂が無くなりその巨体は崩壊する。

 それがいつになるか……、霊の巨大さとそこから感じられる邪悪な力の強さが、内に膨大な数の魂を秘めている事を示唆していた。


 一日斬り続けたところでこのドラゴンは倒れないだろう。ならば狙いを変えるしかない。

 これほどの巨体を形成するには烏合の魂を集める核となっている魂がどこかにあるはず。それを斬れば、魂の集合体を維持出来なくなる。

 この巨大な竜霊が第三者によって細工されたものでないのならば、核は肉体を持っていた頃の記憶によって頭部や心臓部にある可能性が高い。


――どちらだ。いや、両方斬ればいいだけだ!!


 男は決断するとドラゴンの霊体を肉持つ体を登るかのように駆け上がった。剣の与えた力が肉無き場に足を掛ける事を可能としていたのだ。


 駆け、飛び、向かい、まずは頭部を間合いに捉えレグスは黒剣を突き刺す。

 直後に巨大な頭部が風圧を伴って爆ぜた。その爆風に彼も地面へと叩きつけられる。


――手応えはあった。


 見上げる視線の先で頭を失い苦痛に鳴く標的。

 それでも竜霊から感じる力の強さは微塵も落ちた気がしない。

 これほど巨大な霊体を作り上げているからには核となる魂が複数あってもおかしくはない。


 ならばと、次は胸部を狙う。


「待て!! どこへいく!!」


 だがレグスが判断を下した矢先、今まで地を這っていた竜霊が飛び立ち始める。

 霊体にも関わらず翼を使いながら空に昇っていく頭のないドラゴン。そのうちにそれは点へと変わるほどの高さとなった。


――逃がしたか……。


 そう思った直後、数多の邪悪が空から降り注いだ。

 それはドラゴンの炎の形をした黒い力。悪霊の宿す破壊の力。

 地を抉り裂き、岩を砕く。命ある草木を燃やし、虫すらも灰に変えた。


 爆風に舞った砂塵が晴れると、剣の力に守られたレグスと天空を残して、彼の目に映るほとんど全てが黒と灰の世界へと変貌していた。


――凄まじい破壊力だが、空に逃げられては手がだせん。どうする……。


 その時、思考する男の視野の角に異質な物が映り、彼はひらめく。


――これは使えるか。


 黒と灰に変えられた世界の異質。

 意図的に避けられたかのようにあったその空間に立ち、レグスは天に向け叫んだ。


「ドラゴン!! お前が臆病風に吹かれ天へと逃げる間に、神殿はいただいたぞ!! さあ何処ぞへとでも行け、臆病な竜よ。もはやこの地でお前が守るべきモノは何もない!!」


 何もない。常人にとっては言葉通りであった。

 男の立つ場所にあったのは神殿の残骸。人の目には壊れたそれがいったい何を意味するのか理解し難い。

 だが天に昇った悪霊にとってここは特別である。彼の竜の使命は神殿を守る事にあるのだから、たとえ崩れ去った神殿の跡地だろうと望まれぬ者が立つ事を許しはしないのだ。


 天がドラゴンの咆哮に震える。

 そして突き破るようにして空から竜霊は帰ってきた、巨大な頭部を再び生やし終えて。


――頭が復活したか。核となる魂を潰せばと思っていたが、どうやらそれも限がなさそうだ。ならば!!


 レグスを覆っていた力が足底や両手といった一部分に集中し、剣が黒き輝きを増す。

 黒剣と竜の悪霊。

 二つの力に違いはあれど、その禍々しき力強さは拮抗していた。


 天より戻り、地を這うように飛ぶドラゴン。

 その開かれた巨大な口に呑まれれば、たとえ肉無き体の中であろうと人の身は持たないだろう。


――一撃で決める!!


 天高く飛ぶ雲に届かずとも、地を飛ぶ竜ならば斬れぬはずがない。

 守りを捨て、この交差、この瞬間、この攻撃に、レグスは全てをかけた。


 黒き剣が黒き竜を斬る。

 それは灰と化した大地と空をも揺るがす必殺の一撃。その威力は天より降り注いだ数多の黒き竜の炎よりも(まさ)っていた。


 竜霊が散る。

 核に集っていた無数の魂が弾け飛ぶ。

 犬から猫、鳥や昆虫まで。邪悪に呑まれていた魂が解放され天へ去っていく。


――しつこい奴らだ。


 だがしかし、歪な翼を持つ人のような悪霊だけは天へと去らずにいた。

 百を超える数は残っているか。

 恐らくこれが巨大なドラゴンの霊体の核となっていた魂達。


――サレ、ココヲ、サレ。


 最初の悪霊と同じように敵意を剥き出しにした思念が、レグスの中へいくつも流れ込んでくる。


「去るのはお前達だ、亡者よ!!」


 気圧される事無く、周囲の悪霊達を斬ろうとするレグス。


――くっ!!


 だが思うように足が動かず、その場に崩れ落ちてしまう。

 剣の力の反動だった。レグスの肉体には既に限界以上の負担がかかってしまっていたのだ。

 肉体的限界だけではない。剣の暗い力は精神的疲労をもずいぶんと生み出していた。

 精神力の磨耗は精神的攻撃に対しても弱くなるという事。今の彼では悪霊達の強い呪念に耐えられるかどうかもわからない。


――オモイダシナサイ。


 万事休す、そう思われた時。彼の脳裏に声が響く。

 それは悪霊達のようなひどく歪んだ不快な思念とは違う。もっと暖かく、それでいて透き通るような明瞭さに満ちた声。


――誰だ!?


 聞き覚えのある声だった。


――オモイダシナサイ。


 繰り返される声に周囲の景色が消え、過去が浮かぶ。

 かつて子供の頃見た母の姿、母の声。あの日、あの時、母が自分に伝えた事。


――まさか……。


 レグスは自身の指輪に目をやった。

 指輪は今までよりも強く光を放っていた。


――オモイダシナサイ、ヤクソクノコトバヲ。


 指輪の声。

 それに従うかのようにレグスは呪文を唱える。母から教わり、過去に一度だけ口にした短き呪文を。

 それを唱え終えた時、指輪は一段と強い光を走らせ、荒廃した黒き大地を青が覆った。

 やがて光が消えると、そこには新たに一人の少女が立っていた。


 彼女の瞳は青く透き通っており、瞳だけでなく体の全てが青白く澄んでいる。それが霊体である事は誰の目にも疑いようがない。


「やっと出られた。言いたい事は山ほどあるけど、とりあえずは彼らを何とかしないとね」


 背後のレグスの方を振り返り見ながら少女は言う。

 そして悪霊達の方へと向き直ると、聞きなれぬ言語で何事かを話し始める。

 その口調は時に穏やかで優しく、時に静かで冷たい。


 すると彼女の言葉に耳を傾ける悪霊達に変化があらわれる。

 表情が柔らかくなり、発せられていた敵意がみるみると萎縮し消えていく。

 まるで親に怒られた子供のように意気消沈する悪霊達。

 そのうちに彼らはレグスの前からすうっと姿を消していった。他の魂と同じくあるべき場所へと帰ったのだろう。


「お前はいったい……」


 レグスは命の恩人らしい少女に懐疑的な視線を浴びせる。

 少女の正体が指輪の声の主である事ぐらいは想像つく事だが、いったいそれが何であるかは長年指輪を身につけていた彼にすらわからない。


 人ではない。

 大戦を終えたフリアの地にあって安寧に暮らす者達とは違う世界を生きてきたレグス、多くの不可思議を目にしてきた彼であっても言い切れるのはそれだけだ。

 少女から感じる力は指輪から感じた力がそうであったようにボウル村のフェスタ・アウラが発していた霊力に似ている、という事はいわゆる精霊の類いなのだろうか。


 わからない。


「命の恩人に対する第一声がそれ?」


 呆れたと言わんばかりのうんざりとした少女の表情。それは一瞬レグスが戸惑ってしまうほど、外見の幼さとは不釣合な重ねてきた時の長さを感じさせるものだった。

 それが余計に、彼女が人ならざる者である事を鮮明にした。


「いや……、そうだな、まずは礼を言おう」


 口では感謝を述べていても男の顔には警戒の色が浮かんだままである。


「まったく、可愛げのない子だこと。リーシェとは大違いね」


 少女の口からリーシェという名がでてきた事にレグスは驚いた。その名を聞いて思い浮かぶ人物はただ一人。


「何故、その名を」

「あら、驚くような事? あなたは一体私の事を何だと思ってるわけ?」

「指輪から聞こえた声、その正体だという事ぐらいは察しがつく」


 そこでレグスの言葉は止まる。


「なによ、それだけ?」

「精霊……」


 弱々しい口調。レグスは自分の出した答えに確信が持てずにいた。


「精霊ねぇ、間違いではないけどえらく漠然とした答えだわ。彼女に何も聞かされてなかったようね」

「その彼女とお前はどういう関係なんだ」

「答えてあげてもいいけど、私、質問されるのって嫌いなのよね。短命な人間の質問にいちいち答えていたら限がないでしょ。少しは自分の頭で考えてみたらどう。少しは利口な子かと思ってたんだけど、見当違いだったかしら」


 馬鹿にするように少女が笑うがそこに悪意は感じられない。侮蔑というよりは無邪気、そんな言葉が似合う笑い。

 不思議な表情をするものだ。幼さとは無縁の空気を帯びながら浮かべる笑みは人間と同じ、いやそれ以上に幼さを感じさせた。


 そんな彼女の笑顔を見ながらレグスは一つの答えを導く。


「フェスタ・アウラ、古代人が残した遺跡。あの遺跡から感じた霊力とお前から感じられる力は似ている、ほとんど同じと言ってもいいほどに」

「それで?」

「あれはかつて古代人が古き精霊に敬畏を示し建てた物だ」

「そうね」


 適当に相槌を打ちながら少女はレグスの周囲を歩く。


「つまりお前はあれに関する何らかの存在、……あるいは古き精霊自身」


 推理を聞き終えると彼女は歩みを止め言った。


「まぁ正解にしといてあげるわ」


 そしてあらためてレグスの方を見て言葉を続ける。


「我らはスティア。かつて最初の友と呼ばれ、時に古き友とも呼ばれた者。お前達が崇めるユピアの神々の来界より遥か昔、このエンテラの地に存在した元始の子」


 それまでの口調とはうってかわっての荘厳な話し方に多少気押されながらも、レグスはその美しい声色に自然と惹き込まれていってしまう。

 まるで魔法がかかったように強い引力を持つ少女の言葉。


「覚えておくがいいリーシェの子、レグスよ。我が友名(ともな)はセセリナ。盟約に基づきお前達を守護する者なり」


 彼女の言葉はこの場を支配していた。レグスはただそれに耳を貸すしかなく言葉を失っていた。


 そんな男をじっと見据え、やがて顔を伏せる少女。

 そして彼女は笑った。

 それもけらけらと、まるで幼子のように屈託のない笑い。


「あははは、もう駄目。久しぶりすぎて気合入っちゃったのよねぇ、あはは、我だって、あはは、駄目だ、変なツボ入った。あはははは」


 さきほどまで少女から感じられたあの厳威は何だったか、まるで狐につままれたような気分になるレグス。


「お前はいったい何なんだ」

「あははは、ごめんごめん。……ってかお前、お前って人間の癖にほんと偉そうね。さっき友名を教えてあげたんだから、ちゃんとセセリナ様って呼びなさいよ」


 少女の調子についていけずレグスは渋い顔を作る。


「何よ不満があるわけ。仕方がないわね、セセリナで良いわ。感謝しなさい、私ほど寛容で親しみやすいスティアなんて他にいないんだから」

「セセリナ、お前には聞きたい事が山ほどある」

「あぁ、またお前って。もうその口の悪さは病気ね。それに質問されるのは嫌いって言ったっはずでしょ、レグスちゃん」

「だが、くっ……」


 言葉を続けようとする男の体内で激痛が走る。そう、彼の体は剣の力の反動でとっくに限界を超えボロボロの状態なのだ。

 急な出来事もあってか、その事を彼自身も忘れていた。


「話よりまずはその体を何とかしないと。じっとしてなさい」


 レグスのそばに寄り、小さな手をかざすセセリナ。

 彼女の手から温かく優しい光が発せられると、同時に痛みが引いていく。


「すごい力だな」


 外傷のみならず、あれほど感じていた精神的疲労までもが回復していくのをレグスは実感していた。


「この程度、セセリナ様にかかれば朝飯前よ。……と言いたいところだけど」


 そこで区切りセセリナはため息をつく。


「どうした」

「どうしたもこうしたもないわ、この大馬鹿者。あなたもわかってるでしょ、この傷はただの傷とは違う、剣の力がもたらしたもの。あなたの魂をも傷付けかねない間違った力よ」


 彼女の表情は真剣そのものである。


「レグス、あなたの質問を聞く前に言っておかなければならない事があるわ。心して聞きなさい」


 それからセセリナの説教が始まった。

 レグスの剣の事、その使い方から始まり、もっと早く呪文を唱え彼女を指輪の外に出せやら、そもそもキングメーカー、選王石を求めるような不毛な旅などやめてしまえとまで言う。

 時に人の無知を小馬鹿にし、時に人の非力を警告し、ほとんど一方的に喋り続けるセセリナ。

 レグスがうんざりするほどの説教の嵐。

 その嵐に呑み込まれそうになる寸前、聞きなれた声が彼の耳に飛び込んできた。


「レグス!!」


 ファバの声だった。声のする方を見ればボルマンの姿もある。


「大丈夫か!?」


 少し遠目から声をかけるファバ。武器こそ構えてないものの、どうやら異質な存在であるセセリナを警戒しているらしい。その後ろに見えるボルマンの方は警戒というよりも明らかに動揺している。


「まさか、いや、そんな事が……」


 無理もないだろう。魔術師の目の前に佇む少女の発する強い霊力は、彼が長年研究していきたあのフェスタ・アウラのそれと同じ質のものなのだ。そこから導かれる可能性に、この老魔術師が辿り着かぬはずがない。


 そんな二人の出現にレグスはその無事を内心安堵し、セセリナの方はというとひどく煩わしそうにため息をついた。


 ここからの展開は予想がつく。

 見慣れぬ存在、摩訶不思議な存在、それを目にし、正体を知り、意思疎通が可能と理解した時に見せる人間の反応、そんなものは決まっている。特にフェスタ・アウラの研究に没頭してきた老魔術師は狂喜して質問攻めをくらわせてくるに違いない。

 百年や二百年ではきかぬ長き時を生きてきたセセリナにとってそれはもう心底うんざりとするほど繰り返されてきた光景だった。


 だから彼女はそうなる前に先手を打つ事にした。

 少女はトンと足で地面を突いて魔術師達の方へふわりと飛ぶ。


「いい、ボウル村の魔術師さん。あなたがこれから言わんとする事はわかっているわ。ほんとはもう契約外の事だけど、私はとっても心の優しい乙女だから特別あなたの村は助けてあげる。だけどね、いくら心の広い私であっても好奇心の塊みたいな魔術師に根掘り葉掘り、あれやこれやと聞かれるのはすごく不愉快なの。あなたも村の救済者となってくれる者の機嫌を損ねたくなんてないでしょ? だから、質問があるなら私じゃなくて、あの子、レグスにしてちょうだい」


 驚く少年と老人に喋らせず言いたい事だけを押し付けると、セセリナは最後にレグスに対して告げた。


「という事でレグス、あとはよろしくね。このまま外に出ていてもせっかく高めた霊力を無駄にしちゃうだけだし、私は指輪の中に戻るわ。お説教も途中だったけど、また今度ね。それに久しぶりに力を使ってちょっと疲れちゃった。一眠りするから村についたら起こしなさいよ」


 欠伸をしながらセセリナはその体を小さな光の粒子に変えて指輪の中へと入っていく。

 そうしてお喋りな精霊が去ってしまうと、残された三人の男達は唖然とするしかなかった。


「何だったんだあれ」


 ファバが当然の感想を漏らしてレグスの顔を見る。


「さぁな」

「さぁなって……」

「俺にもよくはわからん」


 セセリナとの会話などレグスも今日が初めてで、彼女について、指輪についてはまだまだわからない事だらけである。


「話は後だ二人とも、村へ戻るぞ」


――さて、何をどう話したものか。


 ボウル村への帰路につくレグスはそんな事をぼんやりと考えながら、少し億劫な気持ちになっていた。

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