仮面の試練 4
荒木…もちろん俺はその姓を知っている。
俺が今塚一同盟と戦っている原因も荒木って人だし、他の荒木一族も何人か知っている。
第一世界の中でも荒木一族の戦闘能力は抜き出ている。
もちろん一番目がさらに抜き出ているが、俺からすれば俺の知っている荒木一族の皆さんは一人で仮面十一座を壊滅出来るのではないかと思う。
と言っても俺の知っているのは三人だけだが。
だから俺は知っている。
荒木一族の強さ、戦闘能力、そして、第一世界特有のサバイバル能力を。
火神「………」
俺が張り紙の字を読んでいる時は、攻撃の手が止まった。
だがすぐに次の攻撃が来た。
火神「くっ」
先ほどの足下を狙った攻撃とは違って次の攻撃は胴体を狙って来た。
胴体まで狙われるとなると、身体全体で避けなければならないため、少ない体力を使ってしまう。
多分荒木はじわじわと体力を削って行くのが狙いだろう。
ナイフが絶え間なくこっちに飛んで来る。
しかし、何故荒木一族が、最強の戦闘能力を持つ一族がこんな攻撃をして来るのだろう。
今の俺だったら真正面から挑まれればあっさりと殺されたかもしれないのに。
だが、
火神「確かにあの場所から飛ばして来るのはすごい力だな」
そう、あの場所、荒木がいるその場所を既に俺は見付けている。
このナイフでも、狙う時は絶対に俺を見なければならない。
だが俺を見た瞬間に俺を見ている視界は俺の視界にもなる。
つまり、俺を遠くから狙ったとしても、俺はその場所をすぐに知れる事が出来る。
それだけでない、ナイフを飛ばすタイミングそして狙った場所でさえも俺に教えてしまっている。
だから避けるのは簡単だ。
それに避けながら少しずつ近付けばこちらからの射程圏内に入るかもしれない。
火神「これならいけるな…」
その時の俺は調子に乗ってしまったのだろう。
俺は下から来る荒木の本当の狙いに気付いていなかった。
火神「?」
俺が異変に気付いたのはそれが来る直前だった。
視界が一つ増えたのだ。
しかも俺の直前で。
俺は驚いて少し後退りした。
火神「しまった!」
その後退りにより、避けているナイフがまた当たる、そう思った。
だがナイフは飛んで来なかった。
代わりに俺の服にはカエルが一匹くっ付いていた。
後から考えると俺はこの時後ろに下がっていなかったら確実に死んでいただろう。
そのカエルは俺の傷口にめがけて飛んで来たのだが、俺が動いた事で狙いが外れたらしい。
だがそんな事を知らない俺は、
火神「なんだこいつ、たまたま結界の中に入って来れたのか?」
と言って拳銃の銃口を使ってぽいっと投げ飛ばした。
本当に、直接触らなくて良かった。
火神「!」
そして、カエルを飛ばした直後だった。
荒木の視界が見えなくなった。
どうやら荒木が場所を移動したらしい。
こちらからは見えない様に建物の間をジャンプして移動している。
その動きは流石荒木一族と思える。
そして荒木は俺の後ろに回り込む位地にまで移動して来た。
確かにその距離ならナイフを投げたら俺がナイフに気付いてから避ける俺に刺さるだろう。
そして荒木は少し身を乗り出してナイフの狙いを定めた。
そして見ただろう。
いや俺は荒木の視界を見ていたから確実に見ていたのだ。
銃口がこちらに向いた拳銃の引き金を俺が引く所を。
パァン。
荒木「ひぐっ!?」
荒木は変な声を出して倒れて来た。
今回もこめかみにヒットしたらしい。
荒木が移動したのは知っていたが、荒木がどこに移動したのか、建物の窓に映った俺がしっかりと見ていた。
そして荒木は自分から俺の拳銃の射程圏内に入ってくれたのだ。
そして俺はどこを狙えば良いか簡単に分かったし、後は荒木が俺を狙う時にこちらを見るのを待つだけ、既に俺は拳銃を構えていたため、引き金を引くだけだったのだ。
倒れて来た荒木を見ると、確かに顔や髪型が一番目に似ているが、身体が少し貧相な女性だった。
火神「女性の殺し屋か…っ!」
その時だった。
新たに視界が増えた。
その殺し屋が現れた場所は荒木の死体の隣だった。
火神「なっ!?」
いつ現れたのだ?いや、どうやってそこに来たのだ?
荒木の死体の場所に行くためには必ず俺の視界に入るはずである。
また、俺の事を警戒して見るとはずであり、その場合俺の仮面の能力で視界が増えるはずだ。
しかし視界は増えなかったし、その殺し屋も俺の視界に入らなかった。
つまり考えられるのはその場所に今出現した、それだけである。
その笛みたいな楽器を持った殺し屋は、名乗った。
樋森「塚一同盟が一人、樋森 祐介だ、そしてこの楽器はクラリネットだ」
そして樋森はクラリネットを吹いた。
火神「!!」
俺はこの音を知っている。
と言うよりさっき一度大きな音が鳴ったのはこの音だ。
そしてかなり小さ目だが、この音色はずっと流れていた。
ただの騒音だと思っていたが、違った。
最初から、浅野が現れる前からずっとこの樋森が演奏していたのだ。
火神「なっ!?」
今登場した樋森だけでもう二回もこの驚き方をしている。
しかしそれ程の驚きだ。
今樋森がクラリネットを吹いた時、なんと荒木の死体が消えたのだ。
そして、荒木の死体があった場所に生きている荒木が現れた。
荒木「すいません、樋森さん」
樋森「いや、いい、おかげで奴の能力が分かった、それよりお前は戻れ」
荒木「はい…」
そんな会話をして荒木は再び消えた。
火神「幻術か…」
樋森「正解だ」
樋森は即答で教えてくれた。
火神「この結界もお前の能力か?」
樋森「俺の能力と言うより俺の演奏の力だな」
また教えてくれた。
樋森「こちらの情報を少し教えたのだ、貴様の情報を少しくらい教えてもらってもいいだろ?何、はいかいいえの問題だ」
火神「………」
樋森「お前の今まで戦いを全て見させてもらったが、お前の能力は相手の視界を見ると言う能力か?」
火神「………」
俺は一瞬の沈黙の後、
火神「そうだ」
と、肯定した。
樋森「やはりな」
厳密には違う、俺の仮面の能力は映った自分の視界を見る能力だ。
だから俺の仮面を視界にいれてなければそいつの視界は見れないし、別に人の視界でなければならないという事もない。
鏡に映った自分の視界も見る事が出来る。
だから厳密には違うが、戦い方とすれば樋森の言う事は合っているから否定はしなかった。
それに情報をくれたのだ、樋森の言う通りこちらの手を明かすのは取り引きが成立していると思った。
こちらの能力を教えると、
樋森「そうか、ならば俺ではお前を殺す事は出来ないな」
火神「えっ?」
と言って来た。
樋森「お前なら分かるはずだ、俺の視界を見ているお前ならな」
火神「………」
いや、分からないのですけど…。
樋森「ふっ、その沈黙やはり図星か」
火神「………」
いや、分かってないから沈黙してるだけですが。
樋森「その能力なら俺の視界からは幻術ではない、現実の世界が見えているのだろ?」
火神「あ、うん」
そうなんだ。
いや、俺が見ているのはお前の目に映った俺の視界、つまり俺に幻術がかかっていたら例え幻術をかけた本人の視界を見ても同じく幻術しか見えない。
しかし樋森は勘違いをしているのだろうか。
樋森「まぁ、俺の出番はこの結界を貼っただけってことで良いのか?」
知らん。
火神「何をする気だ?」
樋森「いや、俺は何もしない、しいて言うなら幻術を解除するくらいだ、それで俺の出番は終わる」
つまり、今までの殺し屋たちの様に自分が負けたから撤退するという意味だろうか。
なんだろ、全員本気を出せば俺くらい殺せてたのではないかと思う。
樋森「さて、ここまで言ったのだからお前はここで起きた事が全て幻になっていると言う事は分かるな」
火神「ああ」
分かってた。
樋森が現れた時、荒木が死んだと言う事実を幻術にしたんだ。
事実を嘘にするのがこの樋森の能力、いや、演奏の力だろう。
もちろん本来の幻術の特性である嘘を事実にすることも出来るだろう。
例えば武器を幻術で作り出して戦うとか。
樋森「まぁ、これくらいでいっか、ちゃんと時間稼ぎも出来ましたよねリーダー」
火神「は?」
俺がそう言葉を発した時だった。
樋森は幻術を解いた。
そして、
久我原「ああ、十分じゃ」
今まで火神は塚一同盟達をどこか手を抜いていると言っていた。
実はそれは正解だ。
浅野だけは本気も何も攻撃されることでしか能力を発揮出来ないため、本気だったと言ってもいいだろう。
その後の東雲、荒木、樋森に至っては攻撃してこなかった。
全員が本気を出していなかったのだ。
だが、この殺し屋だけは違う。
久我原「ワシが最強の殺し屋集団塚一同盟の最強の一人、久我原 岐山じゃ」
この塚一同盟のリーダーのおっさんだけは本気で俺を殺しに来た。
人物紹介〜荒木…はここでは辞めておいても良いですよね。てな訳で樋森 祐介
第二世界の住人。塚一同盟の一人。
第二世界で古田と戦い敗北後、塚一同盟に入った。クラリネットで幻術と現実を入れ替える事が出来る。あと、かなりの気分屋。




