狡猾な裏切り 16
ども、失踪などしていないかつどんでーす。
何年もあれば生活が変わって失踪する人の気持ちが分かりました。と言ってもあまり期待されてない小説ですけどね。
火神から仮面の使い方は聞いていた。
相手の武器を写す仮面、写した武器は例え元の武器が無くなっても手を離さない限り手元に残る。
俺は新井さんの持っていた剣を須奈に向けて斬りかかった。
だが須奈の身体を斬っても須奈の身体は粉になって再生していく。
須奈「ありゃりゃ、絶望した?絶望した?」
小川「うるせぇ」
それでも俺は攻撃をやめない。
俺の攻撃なんて無意味、全く持って無意味なんだろう。
だがそれでも俺の怒りが俺を止めてくれなかった。
多分、いや絶対にこれは八つ当たりなんだろう。
俺は俺自身を憎んでいる。
火神、新井さん、その二人を殺した俺に怒っているんだろう。
だけど、俺には目の前の原因にその怒りをぶつける事しか出来ない。
須奈「言っておくけど、俺は希望を持った奴を絶望させるのは好きだが絶望した奴に希望を持たせるのもだーいすきなんだぜ?だからお前にも希望を与えてやるよ」
小川「希望?」
なんだそれ、今更俺に希望だなんて。
須奈「お前、新井が死んだって思っているだろうけどそれは違う」
小川「違う?新井さんは死んでない?」
俺の攻撃が止まった。
須奈「さっきも言ったろ?新井は第十二世界のモンスターだって、第十二世界のモンスターには死なんて概念はない」
小川「じゃあ新井さんはどこに!」
須奈「それ」
須奈は地面を指差した。
須奈が指差した先は新井さんが消えた場所だった。
そしてそこには、ネックレス、そしてネックレスに装飾の一枚のカードがあった。
俺はそのカードに見覚えがあった。
それは新井さんが常に着けていたネックレスだった。
そしてネックレスの先のカード、白いカードには「新井 あずみ」と書かれていた。
須奈「普通第十二世界のカードにはモンスターのイラストもあるはずなんだけど、そのカードは特別だからイラストが無いんだろうな、まぁつまりだ、第十二世界のモンスターは体力が0になったらそうやってカードになるんだ、そしてもう一回召喚出来る」
小川「召喚?」
須奈「酒々井十六忍武にも第十二世界のディメンションハンターがいるはずだ、この戦争で死んでいなかったら新井を召喚してくれるはずだぜ、貴重な戦力だからな」
小川「………」
須奈「しかもモンスターは召喚した人に従うから酒々井側についている小川君の仲間になるよ、やったね」
小川「っ!」
もしかしてこいつ…
須奈「これで分かっただろ?どうして酒々井が新井を狙っていたか、そしてレースやお前が護衛しなければならなかったか」
小川「あ、ああ、十分分かった」
須奈「まぁでもここでお前が俺にやられたら意味無いわな」
小川「え?」
やっぱり考え過ぎか。
須奈「さぁ来いよ!お前が持てる力をフル投入したらやられてあげるかもしれないぜ?」
須奈の手に粉が集まる、そして粉は一本の剣を形成した。
その剣の形は俺が持っている剣、新井さんが持っていた剣と同じだった。
須奈「言っておくが、この剣は新井の剣の様な相手を第十二世界のモンスターと同じにするなんて能力はない、ただ俺が剣の形を想像したらやっぱお前が持ってるそれになってしまっただけだ」
小川「そうか…」
一番想像しやすかったんだろうな。
須奈「さらにさらにぃ!分身の術!」
小川「!?」
いきなり須奈が5人になった。
人が5人になることは前にも見た事がある。
火神が仮面十一座の覆面(火神は仮面と言ってる)の力で5人になった事だ。
しかし今の須奈は仮面の力ではない。
須奈「粉の力を使えばまぁ簡単に出来ちゃうぜ」
小川「くっ」
須奈5人相手に俺が勝てるだろうか?いくら防御の仮面の力があるとは言え、この防御の仮面の弱点を須奈は知っている。
それにレースはレースでしか倒せない。
いや、だったら映せばいい。
目の前にいるレースを。
小川「鏡、発動!」
相手を映す仮面、意味があるのか分からないが、これで須奈を映して…
小川「ぅっぐっ!?」
須奈「ニヤリ」
そんな擬音語を口で言った須奈は楽しそうにこちらを見ていた。
なんだこれは…まるで周りに意識を吸収されるような感覚、いやだ俺を見るな、いやだ俺と関わるな、いやだ俺を一人にしてくれ、いやだ…いやだいやだいやだいやだいやだいやだ
須奈「何しとるんや」
ぺしっ、とおでこを叩かれた。
小川「がはっ!」
あ、あれ?
須奈「全くよ、相手を映すのはいいがその相手は考えた方がいいぜ、特にレースでも無く戦いの経験も浅いお前がレース幹部クラスの俺を映したら精神を病むぞ」
小川「………」
須奈「自分で言ってて悲しいわ」
火神から聞いていた話と違う。
この仮面が映すのは姿と力だけ、確かに須奈の粉師の力を制御出来なかったかは分からないが、須奈自身が思っている事まで映すことは出来ないはず、じゃあ何故だ?何故あのいやだと言う気持ちが沸いたんだ?と言うかそれを須奈はいつも思っているのか?
小川「俺を殺さないのか?」
それよりも今須奈は俺を殺せたはず。
だけどむしろ俺を助ける様な事をした。
須奈「ちょいと感想を聞きたかってよ、どうだった?」
小川「…いやな気持ちだった」
須奈「ショック〜」
須奈はずっとにやけた表情をしている。
こいつは一体何なんだ?
須奈「お前が感じたその気持ちは俺たちレースがレースとして目覚める前の気持ちだ、いなくなりたいとかそんな気持ち、下手すりゃ自殺ものだ」
小川「自殺…」
いや、もっと相応しい言葉がある。
小川「いじめられっこ」
須奈「言っておくがレース全員を指すにはちょっと違うぜ、だがそれでも間違いじゃない」
それはさっき火神が言っていた言葉だ。
レースはいじめられっこの集団。
少し変わった人間であるため大多数の一般人から仲間外れにされた少数派。
そういや火神に質問された、レースはそんないじめられっこの居場所だ、レースを潰すと言うことはいじめられっこたちの居場所を潰すと言うこと、それでもレースを壊滅させようと言うのか?と。
俺は答えられなかった。
だって俺はレースの行いを知っているから。
レースは許せない。
だけどレースが悪とは思えない。
むしろレースを潰そうとしている俺が悪なんじゃないかって思ってしまう。
小川「なぁ、教えてくれ、レースって一体何なんだ?」
須奈「被評価者、これが今のところ一番しっくりくる答えかな」
小川「被評価者?」
評価される人ってこと?
須奈「お前の言ういじめられっこってのは変人が普通の人に評価されていじめられっこにされている奴だ、だがレースはそれだけじゃない、イケメンと評価されようと、強い人と評価されようと、弱いと評価されようと全てレースになりうる」
小川「じゃあどんな人でもレースの可能性があるってこと?」
須奈「そうさ、だけどそんなのどうせ無意味なんだよ」
小川「無意味?」
須奈「被評価者ってのはほとんどが変人と評価された奴だ、だけどよ、世の中の人類に変人じゃない人なんている訳ないのにな」
小川「………」
俺も遠回しに変人扱いされてる?
須奈「もしもよ、何をやっても平均、どこから見ても普通、そんな完全な普通な人間ってよ、変わってるだろ?」
小川「………」
普通な人間なんていない、ただ自分が普通だと思いたいだけだ。
だから変わった人がいればそれを評価して変人にする。
そしてレースが生まれる。
須奈「まぁこれも全て俺の考えだけどな、少しはためになったか?」
小川「分からない」
須奈「ま、全く持って無意味だけどな」
小川「俺が分からないのは俺を倒そうとしているはずのあんたが俺を助けたこと、そしてレースについて俺に語ったことだ」
須奈「言っておくけど俺はどんな相手にも語りかけるような奴だぜ?例えその相手をこれから殺そうとしててもな」
小川「…っ!」
5人の須奈がそれぞれ武器を構える。
須奈「悪い癖だって分かってるんだけどついついやってしまうんだよ、俺はこれから死にゆく者にすっげー語る!」
一人目の須奈が斬りかかってくる。他の須奈は観戦してるみたいだ。
須奈の動きは俊敏だった。
また、真っ直ぐ斬りかかってくる訳ではなく、ジグザグな動きでこちらに近づいてきた。
須奈「隙なし!」
だが目で追えない訳でもなく、斬りかかってくる所に剣を構えると、簡単に防ぐ事ができた。
須奈の攻撃は新井さんよりも数段軽かった。
これなら押し返せるんじゃないか?
そう錯覚してしまった。
だから俺が振り下ろした剣をそのまま踏まれて喉仏に剣先を当てられている状態になってしまった。
だけど、
須奈「だけど、仮面があるからこの剣はこの喉を貫くことは出来ないだろとかそんなこと思ってんのか?」
すると、喉仏に向けられている剣が形を変えた。
剣先から二手に分かれ、俺の首に巻きついてきた。
小川「うぐっ!」
剣が形を変えたのは縄だった。
そして縄は俺の首に巻きついてきた。
須奈「どう?もしこのまま縄の先を上に上げて行けばいくら例の仮面でも首が絞まるぞ」
小川「くっ…」
須奈「だがそれじゃああまり面白くない」
小川「はぁ?」
須奈は持っていた縄の先を手離した。
だが俺の首の縄が消えた訳ではなかった。
須奈「だって強い奴が勝つ、そんなの面白くないだろ?」
小川「なっ…」
何言ってんだこいつ。
確かに須奈は俺より強い、強いどころか相手にならない。
例え目の前の須奈を殺した所で後ろに第二、第三の須奈が待ちぼうけている。
須奈「そう!俺が死んでも第二、第三、もっといっぱいの須奈が…」
そんな須奈を殺すことなんてそもそも可能なんだろうか、分身含め全員を同時に殺すなんて事を可能にする奴なんているのだろうか、もしいるなら飛んだ火力の持ち主だ。
須奈「まぁもっとも、絞殺しない理由はそもそも外だから首を吊るす場所が無いからなんだけどね」
小川「………」
須奈「ん?」
すると、須奈は何かに反応したような素振りを見せた。
そして5人いる須奈の内4人が後退して行った。
須奈「いやぁすまんね、ここからは俺一人だけで相手させてもらうよ、舐めぷかよなんて思わないでね、むしろこれで一対一なんだから」
小川「何故退かせた?」
須奈「退かせたんじゃなくて別の所に向かってもらったんだ」
須奈の数が減ったならそれでいいか…。
何しろ俺はここを生き延びなければならない、そして新井さんを復活させてもらわなければならない。
さっきから何が目的か分からないが、油断してもらっているならこれはチャンスだ。
須奈「まぁラッキーだと思ってくれよ」
そう言えばさっき刃を交えた時、須奈の剣はかなり軽かった。
かなりと言っても、新井さんや一度戦った小森のリモコンと比べたらと言う事であって、この世界の平均よりは強かったと思う。
でも分かった、こいつは剣を持って戦うやつじゃないんだ。
だから弱かったんだ。
須奈「さぁ行くぜ!」
だったら勝機がある。
須奈の一撃目を弾いて、
須奈「ほほう…」
いきなり銃声が響いた。
そして弾丸は須奈の首元を貫いていた。
須奈「ひぃつぅらぁした?」
喉を貫いたため、須奈の言葉は聞き取れないが、雰囲気で分かった。
小川「最初からだよ」
須奈「………」
小川「これは火神からもらった拳銃だよ、火神が須奈と戦う時のために濡らしてたんだ」
そう、俺は須奈の粉師の弱点を火神に教えてもらっていたんだ。
須奈「うぅっ、ひみの…かっ、だね」
須奈は少しにやけた。
だが、
四番目「そしてお前の負けだ須奈 真紅」
小川「!!」
須奈の背後にいきなり男が現れた。
須奈「ほぅ」
その須奈の言葉はそれが最後だった。
だけどこの須奈だって分身の一人だ。
全ての須奈の分身を同時に殺さない限り須奈は死なないはずだ。
そして俺はもう一人の背の高い男がいる事に気付いた。
十二番目「小川 雄大、火神と須奈を数時間以内に殺すとは」
小川「………」
こいつらは一体何者なんだ?
四番目「おいおい、須奈 真紅を殺したのは俺じゃねえのか?」
十二番目「いや、状況はどうあれ殺したのは奴だ、四番目はそれを補助しただけだ」
四番目「アニキきびしー」
十二番目「ところでだ」
男二人がこちらを見た。
十二番目「いきなり現れた我々を見て何事かと思っていると予想するが、我々のことはただの第一世界から送られてきた者たちだと思ってくれ」
四番目「そう構えんでも俺たちはお前を殺そうとは死ねぇよ、と言っても殺さねえ義理もないけどな」
小川「くっ…」
第一世界から送られてきた者たち?第一世界と言えば火神も第一世界から送られてきた者だった。
だが火神は第一世界の下に着いた第十一世界の人間だが、こいつらは多分違う、こいつらは第一世界の人間だ。
十二番目「なに、かつて救ってやった者だがそんな恩は忘れて構わない、むしろ我々の方が感謝するべきだ」
小川「感謝?」
それより俺がかつて救われた?いつ?どこでだ?
十二番目「我々の任務は須奈 真紅の抹殺、つまり貴様に我々の任務をこなしてもらったと言う訳だ」
小川「須奈の抹殺?」
四番目「おいおいアニキさんよ、俺たちの情報を分けても良いのか?特にここは第三世界なんだぜ?」
十二番目「なぁに、彼には須奈を殺してもらった身、彼には知る権利があると思うが?」
四番目「アニキが言うなら別にいいけどよ」
十二番目「まぁと言う訳でだ、我々がいきなり現れた様に見えたかもしれないが、それは違う、我々は貴様が須奈を拳銃で撃ち抜いた数分前からこの場所にいた」
小川「えっ?」
十二番目「驚くのも無理はない、我々は須奈にも気付かれずに行動していたからな」
四番目「いやアニキ、それは違うぜ、あの粉師のやろう幻影を張る前に気付きやがった、ただそれが俺たちってことには気付かなかった見たいだが」
小川「幻影?」
十二番目「ああ、四番目の虫は幻影を使えてな、それで幻影の中に貴様らを閉じ込めたと言う訳だ、それならあの須奈も我々には気付くまい、そう思っていたが甘かった、幻影を張る前に分身全員を外に避難させたのだ」
小川「あっ!」
確かに須奈は一度分身を何処かにやった。その時に幻影が張られたのか。
小川「だ、だけどよ、須奈の分身をいくらやっつけても須奈 真紅自身が死んだ事にはならないんじゃ…」
十二番目「そこで四番目の能力だ」
四番目「アニキ、俺の能力全部喋っちゃうのかよ」
十二番目「四番目の幻影は虫の力に過ぎない、つまり四番目自身の力もちゃんとあると言うことだ、第四世界、神の力がな」
小川「神の力?」
確かそれは、絶対的な力だって火神に聞いた。
十二番目「しかし四番目の能力は少しややこしい能力だがな、なんたって全てを真実にする能力だからな」
四番目「言っちゃったよ」
小川「全てを真実にする?」
十二番目「いまいちピンと来ない感じだな、だが仕方ないだろう、我も初めて聞いた時は同じだった、そして勘違いしてしまっていた」
小川「はぁ…」
十二番目「例えばAの物事とBの物事がある、Aは真実でありBは虚実だ、ここで大抵の者は四番目の能力を使えばAもBも真実にしてしまうと勘違いするだろう、だがもちろん違う、正しくはBをAにするだ、つまりBをBのまま真実にするのではなく、Bを真実であるAに変えるのが四番目の能力だ」
四番目「そう、そしてそれを応用したのが須奈の殺害だ」
小川「!!」
いきなり物騒な事を言ってきたと思ったが、そうだ、それで須奈が死んだと言えるのは何故か。
十二番目「何故か?簡単だ、須奈の分身全てを今死んだ須奈と一緒にしただけだ」
小川「あっ」
虚実である須奈の分身を死にかけの須奈に変えた。
確かにそれなら今の須奈が死んだことで他の須奈の分身全てが死んだ事を意味してる。
これほど殺したと実感出来ない事があるのだろうか。
十二番目「そう言う訳だ小川雄大君、手伝ってもらったお礼をしたいが、生憎今は敵同士でな」
小川「っ!」
十二番目「ああ、安心してくれ、今日はそちらが手を出さない限り我らも戦うことはしない、あ、一応我も第十二世界のディメンションハンターだから新井を召喚することが出来るがどうだ?」
小川「あっ」
召喚してもらおうかな、一瞬だけそう思った。
しかしこの人、第一世界の人に召喚されても今までと変わらないと思う。
小川「いや、あなたには頼まない」
十二番目「まぁそうだろうな、なに、あの木吹と言う忍に頼むのがよかろう、それでは我々はこれで退かせてもらう、さらばだ」
そう言い残して十二番目と四番目は背後に現れた魔法陣みたいな物に入って行った。
小川「………」
とりあえず戻ろう。
阿部さんにはどう伝えたら良いだろう。
火神、須奈、両方死にました。
あっ、十二番目と四番目の二人についても話した方が良いのかな。
ああでも四番目がいないと須奈を殺せた理由になんないから言わなきゃだめか。
小川「………」
須奈が死んだ場所を見る。
確かにまだ死体があるが、
小川「本当に死んだのだろうか…」
火神を撃った時はこれが人殺しか、とかなり実感と重みを感じた。
しかしこの須奈を殺した時は特に何も感じなかった。
まぁ実際に殺したのは分身で、須奈 真紅と言う人物を殺したのは俺ではなく四番目だけど、分身であってもやはりトドメを刺したのは俺だ。
こんな物なのか?
人殺しとはこんな物なのだろうか?
いや、須奈とは自分の死まで無意味にしてしまう、そんな人物なのだろうか。
小川「………」
ともあれ俺は酒々井さん達と合流しよう、新井さんを復活させてもらうために。
明日にも投稿します。




